おはようございます。
今日は、元社員に対する競業行為に基づく損害賠償等請求に関する裁判例を見てみましょう。
日本圧着端子製造事件(大阪地裁平成29年11月15日・労判ジャーナル73号26頁)
【事案の概要】
本件は、Y社でコネクタの開発等に従事していた元従業員Xが、退職金約555万円を受給してY社を退職した後、コネクタの製造販売等を業とする別会社に就職したため、Y社が、Xに対し、主位的に、競業行為をした場合に退職金相当額を支払う旨の合意に違反したと主張して、賠償額の予定に基づく損害賠償として約555万円等の支払を求め、予備的に、競業会社に就職した場合に退職金を支給しない旨の退職金規定により、Xの退職金の受給が不当利得に当たると主張して、不当利得返還請求権に基づき、約555万円等の支払を求めた事案である。
【裁判所の判断】
請求棄却
【判例のポイント】
1 Y社及びA社は、いずれも自動車用のコネクタの製造及び販売を業とする点で共通するところ、自動車用のコネクタの中でも主として取り扱う部品に差異があるとしても、いずれも自動車の動力用装置に使用されるカードエッジコネクタの開発を行っていたことが認められ、少なくともこの点において、両者の業務は競業していると認めるのが相当である。そうすると、競業の程度はともかく、Xが、Y社を退職した日の翌日にA社に就職したことは、本件不支給規定における「2年以内に競業会社に就職し、もしくは競業業務に従事した」場合に当たると認めるのが相当である。
2 使用者が、退職金を不支給又は減額するには、当該退職者について、それまでの勤続の功労を抹消ないし減殺する程度の背信的行為があることを要すると解するのが相当であるところ、Xが、A社において、Y社在籍中に知り得たカードエッジコネクタの製品仕様を利用してカードエッジコネクタの開発に従事したとまでは認められず、また、Xは、A社入社後、営業担当者を同行して、B社及びC社を訪問した事実が認められるが、仮に上記訪問の際、Xが営業活動を行った可能性があるとしても、それは単に従前の取引関係により構築されたコネクションを利用してなされたものとうかがわれるのであって、Y社の取引先を奪取する意図で行われたものであるとまでは認められず、さらに、Xが、十分な引継ぎをしないまま退職したとまで認めることはできず、そして、Xが、Y社の従業員2名を引き抜いてA社に転職させたことを認めるに足りる的確な証拠は認められないこと等から、Y社主張に係るXの功労末梢行為があるとは認められない。
退職後の競業避止義務違反はいたるところで頻発しています。
一言で言えば「やりすぎ注意」ということなのですが、その線引きが問題となります。
もっとも、多くの事例では、会社側に厳しい判断がなされていますので気をつけましょう。
訴訟の是非を含め、対応方法については事前に顧問弁護士に相談しましょう。