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今日は、主治医の見解を採用せず、傷病休職の期間満了による雇用契約の終了を認めた裁判例を見てみましょう。
東京電力パワーグリッド事件(東京地裁平成29年11月30日・労経速2337号3頁)
【事案の概要】
本件は、Y社に雇用されていたXが、傷病により休職し、就業規則の定めに基づく休職期間の満了により雇用契約が終了し、退職したとされたのに対し、休職期間満了時に復職が可能であったと主張して、雇用契約に基づき、労働契約上の地位の確認及び休職期間満了後である平成26年4月から本判決確定の日までの各月の月額給与31万3500円+遅延損害金の支払を求めた事案である。
【裁判所の判断】
請求棄却
【判例のポイント】
1 Xについて休職の事由が消滅したというためには、①休職前の業務である架空送電設備の保守、運用、管理の業務が通常の程度に行える健康状態となっていること、又は当初軽易作業に就かせればほどなく上記業務を通常の程度に行える健康状態になっていること(健康状態の回復)、②これが十全にできないときには、Y社においてXと同職種で、同程度の経歴の者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務を提供することができ、かつ、Xがその提供を申し出ていることが必要である(他部署への配置)。
2 Xは、主治医のE医師の診断を根拠として、復職が可能である旨主張する。
しかしながら、同医師の就労可能という見解は、リワークプログラムの評価シートを参照しておらず、リワークプログラムに関与した医師の見解等を踏まえていないものである上、患者の職場適合性を検討する場合には、職場における人事的な判断を尊重する旨述べていること等の内容自体に照らし、必ずしも職場の実情や従前のXの職場での勤務状況を考慮した上での判断ではないものである。
・・・一般的に、主治医の診察は、患者本人の自己申告に基づく診断とならざるを得ないという限界がある一方で、リワークプログラムにおいては、精神科医の指導の下、専門的な資格を持った臨床心理士が患者本人のリワークへの取組みを一定期間継続的に観察し、その間に得られた参加者の行動状況等を客観的な指標で評価し、医師と共有した上で最終的に精神科医が診断するものであることは前判示のとおりであり、Xが主張する事由をもってその評価を重視すべきでないとはいえない。
3 Xは、本件休職前に勤務していた部署以外に、配置される現実的可能性のある他の業務を行う部署として、給電所系統運用グループ及び支社総務グループに加え、Xが平成16年から3年間勤務していた工事部門があると主張する。
しかしながら、給電所系統運用グループは、時々刻々と変化する電気の流れや電圧、周波数を24時間体制で監視し、電力の品質を保持しながらの安定的供給を担当する部署であり、深夜勤務を含む三交代制の勤務体制であり、電気や電圧の調整のために操作をする場合、ミスがあると広域停電等の可能性があるため、緊張を強いられるほか、社外の者とのやり取りが適切に行える必要がある部署であること、支社総務グループは、そもそも、Xのように技術職で採用された社員が通常配置される職場ではない上、業務内容も、人事、労務、損害賠償、経理、労働組合対応、自治体対応、非常災害、リスク管理対応等の多岐にわたる業務を担当する部署であり、他部署や社外とのやり取りが要求される部署であることが認められ、Xに精神疾患についての病識がなく、ストレス対処の習得が見込まれない状況であったことに照らし、Xにとっては、新たに配属された部署で業務を覚えたり、一から人間関係を構築すること自体が大きな精神的負担となり、精神状態の悪化や精神疾患の再燃を招く可能性があるというべきであるから、いずれの部署も、Xが配置される現実的可能性があったということはできない。
また、Xが精神的な問題を感じてD産業医と初めて面談したのは、工事部門に所属していた平成18年であること、送電グループに戻った後も、療養休暇に入る直前までには、精神疾患により服薬治療をしているXのため、業務の負担軽減が行われ、本来行うべき外勤業務は担当せず、ほぼ内勤業務のみとなっていたにもかかわらず、本件休職に至ったことなどの事情を総合すると、工事部門についても、Xが配置される現実的可能性があったと認めることはできない。
上記判例のポイント2は非常に参考になりますね。
復職の可否については極めて専門的な判断が求められますので、必ず顧問弁護士に相談の上、慎重に進めてください。