解雇266 採用内定の取消しと期待権侵害を理由とする慰謝料額(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、学部開設に伴う教員採用内定の成否と損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人東京純心女子学園(東京純心大学)事件(東京地裁平成29年4月21日・労判1172号70頁)

【事案の概要】

本件は、被告の看護学部設置認可にかかる教員名簿に登載されたにもかかわらず、教員として採用されなかったXらが、Y社に対し、Xらを採用しなかったことは、(1)採用内定の取消しであって、債務不履行(誠実義務違反、民法415条)又は不法行為(民法709条)に当たる、若しくは(2)原告らの期待権を侵害する不法行為(民法709条)に当たると主張して、X1につき損害賠償金1166万1565円及びX2につき損害賠償金678万円+遅延損害金の各支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、X1に対し、55万円+遅延損害金を支払え。

Y社は、X2に対し、55万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 X1は、平成27年4月以降のY社への採用が内定してはおらず、Y社には採用内定取消を理由とする不法行為責任は認められない
しかしながら、上記の経緯によれば、X1が、Y社の看護学部設置にむけて勤務し、X1を教員とする教員審査において、X1を教員として採用しない旨の指摘を受けてはいないことから、被告の看護学部新設が認可された後においては、X1とY社との間で、教員名簿記載の科目を担当する教授としての労働契約が確実に締結されるであろうとのX1の期待は法的保護に値する程度に高まっていたことが認められる

2 この点、Y社は、X1は平成27年3月にT大学への教員就任承諾書を提出し、同年4月頃から同大学での勤務をしたことから、X1に期待権はない旨主張する。
しかし、本件証拠によっても、X1が同大学への就職活動をした時期は明らかでなく、X1の本人尋問の結果によれば、X1は同大学から教員就任承諾書等の書類の提出を求められたのは同月12日であったと述べている。
そうすると、X1がT大学への就職活動をしたのは、Y社による期間満了通知の後(平成27年1月19日の後)であるとも考えられるし、同大学の労働条件がY社における労働条件より好待遇であるとは限らない。
したがって、同大学への就職を理由にX1の期待権を否定することはできないから、上記判断は変わらない。

3 そして、Y社は、平成26年4月以降のX1の働きぶりから平成27年4月以降の採用をしないこととしたものであるが、Y社の学部設置認可に至るまで、Y社からX1に対し、その働きぶりに対して注意等をしていないところ、教員審査(学部設置認可手続上のものではあるが、労働契約締結過程にあると認められる。)を経たにも関わらず、面接等の採用手続すら執らないとしたのは、誠実な態度とは言いがたい
そうすると、Y社がX1を採用しなかったことは、労働契約締結過程における信義則に反し、X1の期待を侵害するものとして不法行為を構成するから、Y社は、X1がY社への採用を信頼したために被った損害について、これを賠償すべき責任を負う。

4 Xらはそれぞれ逸失利益を損害として主張する。
期待権侵害に基づく損害賠償の対象は、Y社への採用を信頼したためにXらが被った損害に限られ、採用されたならば得られたであろう利益を損害として請求することはできない。
したがって、逸失利益は損害に当たらないから、Xらの上記主張は採用しない。

5 X1は移転費用等を損害として請求するが、これが期待権の侵害と相当因果関係を有する損害であるとは認めがたい。

期待権侵害という構成で救済されています。

もっとも、認められる損害額は、ご覧のとおり低いため、費用対効果を考えるとなかなか厳しい戦いといえます。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。