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今日は、転勤命令の有効性ならびに上司らの言動等による不法行為の成否に関する裁判例を見てみましょう。
ホンダ開発事件(東京高裁平成29年4月26日・労判1170号53頁)
【事案の概要】
本件は、Y社に正社員として採用され、そのA5事業部総務係に配属されたXが、その後、上司であるC及びDらの言動により精神的に苦痛を与えられた上、合理的な理由なく、不当な動機・目的によりY社のA3事業部ケータリングサービス課ランドリー班に異動させられたとして、Y社に対し、A3ランドリー班において勤務する労働契約上の義務を負わないことの確認を求めるとともに、不法行為に基づく損害賠償請求権により、慰謝料500万円+遅延損害金の支払いを求める事案である。
原審は、請求棄却。
【裁判所の判断】
Y社はXに対し、100万円+遅延損害金を支払え
【判例のポイント】
1 Y社の労働協約及び就業規則には、業務上の都合により、配置転換等を命ずることがある旨が規定されており、Y社には社員の配置転換等について、裁量が認められるところ、Xも出張精算業務や常便業務等の一定の総務業務は担当していたが、担当する業務においてミスが多く見受けられていたこと、A5総務では総務係の人数等から総務業務以外の業務も内部で手分けして担当する必要があった反面、A3ランドリー班では洗濯物の数量が増加し、人員の補強が求められており、本件異動命令が不当な動機・目的をもってなされたとまでは認めるに足りる証拠がないことからすれば、C及びDがしたXへの業務分担の在り方や本件異動を命ずることなどは、新卒社員に対する対応としては配慮に欠ける部分が多く見られるものの、これを違法と評価し、本件異動命令が無効であるとまで認めることはできない。
2 しかしながら、Xが、大学院卒の新入社員でありながら、配属直後に、X以外誰も経験していない配属先の部署とは異なる部署で約1か月半もの間の研修を命じられたこと、その後も2年以上にわたって、配属先の部署の業務に専念し、同業務を修得する十分な機会を与えられないままの状態にありながら、本来達するべきレベルに達していないとの評価をされた上、それまでの業務とは関係がなく、周囲から問題がある人と見られるような部署に異動させられたことが認められる。また、Xは、総務係の仕事を担当することを希望しながら、実際には、C又はDの指示により、販売部門の所管する自販機の在庫集計作業やOJTプログラムには記載がない社員寮の契約社員の面接事務を担当した上、自販機の在庫集計作業では、自らの提案が認められなかったのに、Jの同様の提案は採用され、Cから、Jを見習うように指導されたことが認められる。そして、Cの平成23年12月の面談の際の発言は、X本人尋問の結果からうかがわれるXの内向的な性格に加え、同期会が関東地区で行われたことに鑑みると、Y社における上司で、先輩社員であることからの助言であるとしても、配慮を欠いたものというべきである。また、Cの平成24年8月の面談の際の発言についても、ミスは重ねながらも、ケアレスミスをなくし、少しずつではあるができる役割を増やそうとしているXに対し、配慮を欠いた言動であり、これを聞いたXが悔しい気持ちを抱いたことは十分に理解できる。さらに、平成25年7月の新入社員の実習終了後の送別会の二次会でのDの「多くの人がお前をばかにしている。」との発言に至っては、Xに対する配慮が感じられない発言であり、内向的な性格のXが「多くの人って誰ですか」と問いただしたことからも、Xの屈辱感には深いものがあったというべきである。
以上のC及びDの言動並びに本件異動は、一体として考えれば、Xに対し、労働者として通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を課すものと評価すべきであり、かつ、前記のC及びDの言動はY社の業務の執行として行われたものであることから、全体としてY社の不法行為に該当する。
通常、このようなケースでは、裁判所は多額の慰謝料を認めない傾向にあります。
本件では、100万円を認めており、金額としては比較的高額になっています。
実際の対応については顧問弁護士に相談しながら慎重に行いましょう。