おはようございます。
今日は、月80時間の時間外労働に対する基本給組込型の固定残業代が有効とされた裁判例を見てみましょう。
イクヌーザ事件(東京地裁平成29年10月16日・労経速2335号19頁)
【事案の概要】
本件は、Xが、Y社に対し、未払時間外、深夜割増賃金205万0194円+遅延損害金の支払を求めるとともに、労働基準法114条に基づく付加金205万0194円+遅延損害金の支払を求めた事案である。
【裁判所の判断】
Y社はXに対し、8266円+遅延損害金を支払え
【判例のポイント】
1 Xは、固定残業代の定めが有効とされるためには、その旨が雇用契約上、明確にされていなければならず、また、給与支給時にも固定残業代の額とその対象となる時間外労働時間数が明示されていなければならないところ、Xが受領した給与明細には、基本給に含まれる固定残業代の額及びその対象となる時間外労働時間数が記載されておらず、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外労働の割増賃金に当たる部分を判別することができないと主張するが、上記認定事実のとおり、Y社は、本件雇用契約における基本給に80時間分の固定残業代(8万8000円ないし9万9400円)が含まれることについて、本件雇用契約書ないし本件年俸通知書で明示している上、給与明細においても、時間外労働時間数を明記し、80時間を超える時間外労働については、時間外割増賃金を支払っていることが認められ、基本給のうち通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外労働の割増賃金の部分とを明確に区分することができるから、Xの上記主張は採用することができない。
2 また、Xは、本件雇用契約における平成26年4月16日以降の固定残業代の額も8万8000円であることを前提として、これは80時間分の時間外割増賃金額を大きく下回っており、給与支給時に固定残業代の額及びその対象となる時間外労働時間数が明示されていなければ、労働基準法所定の残業代が支払われているか否か不明となるともに主張するが、・・・これにより上記固定残業代の定めが無効になると解することはできない。
3 Xは、Y社が主張する固定残業代の対象となる時間外労働時間数は、本件告示第3条本文が定める限度時間(1か月45時間)を大幅に超えるとともに、いわゆる過労死ラインとされる時間外労働時間数(1か月80時間)に匹敵するものであるから、かかる固定残業代の定めは公序良俗に反し無効であると主張するが、1か月80時間の時間外労働が上記限度時間を大幅に超えるものであり、労働者の健康上の問題があるとしても、固定残業代の対象となる時間外労働時間数の定めと実際の時間外労働時間数とは常に一致するものではなく、固定残業代における時間外労働時間数の定めが1か月80時間であることから、直ちに当該固定残業代の定めが公序良俗に反すると解することもできない。
以上によれば、本件雇用契約における上記固定残業代の定めは有効である。
この裁判例も最高裁が示した要件を加重する判断はしていません。
少し要件論が落ち着いてきた感じがしますね。
残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。