おはようございます。
今日は、時間数の特定、超過分の清算実態がなくても固定残業代は有効とされた裁判例を見てみましょう。
泉レストラン事件(東京地裁平成29年9月26日・労経速2333号23頁)
【事案の概要】
本件は、Y社の元従業員であるXが、平成24年12月から平成26年11月までの期間に行った時間外、休日及び深夜の労働に係る割増賃金が支払われていないと主張して、Y社に対し、未払割増賃金+遅延損害金並びに労働基準法114条所定の付加金+遅延損害金の支払を求めた事案である。
これに対し、Y社は、Xの主張に係る時間外労働等の事実を一部否認するとともに、平成26年3月までの期間に関し、月俸に割増賃金(固定残業代)が含まれており、これにより割増賃金が支払われたこと、平成26年4月以降の期間に関し、Xは管理監督者(労基法41条2号)の地位にあり、仮にそうでないとしても、管理職手当が割増賃金(固定残業代)の支払に当たることなどを主張して、Xの請求を争っている。
【裁判所の判断】
Y社はXに対し、166万8103円+遅延損害金を支払え
Y社はXに対し、付加金として81万7846円+遅延損害金を支払え
【判例のポイント】
1 定額手当制の固定残業代については、いわゆる定額給制の固定残業代とは異なって、計算可能性及び明確区分性を確保するうえで時間外労働等の時間数を特定する必要はなく、労基法37条が、定額手当制の固定残業代の対象となる時間外労働等の時間数を特定することを要請しているとは解されない(東京高裁平成28年1月17日判決)。
2 もとより、固定残業代制度を導入した場合であっても、労基法37条所定の計算による割増賃金の額が、固定残業代の額を超過した場合には、使用者は、労働者に対し、その超過分を支払う義務を負うものである。そして、固定残業代制度を導入しているか否かに関わらず、タイムカードを用いるなどして時間外労働等を明示するような労務管理を行うことは望ましいとはいえるものの、そのような労務管理を行うこと自体が、固定残業代を有効たらしめるための要件を構成するとはいえないし、そのような労務管理を欠いており、未払割増賃金が存在し、その未払金の清算がなされていない実態があるというだけで、労働契約上、割増賃金の支払に宛てる趣旨が明確な固定手当について、割増賃金(固定残業代)の支払としての有効性を否定することは困難である。
一時期、最高裁が示した固定残業制度の有効要件よりも厳しい要件を示す裁判例が出たことがありましたが、本件裁判例のように考えるのが妥当だと思います。
残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。