Monthly Archives: 4月 2018

不当労働行為194 組合員に対する雇止めと不当労働行為(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、組合員2名の就労するパチンコ店のワゴンサービスからの撤退を理由に同人らとの雇用契約を更新しなかったことの不当労働行為とされた事案を見てみましょう。

丙川飲料販売事件(大阪府労委平成29年8月7日・労判1170号92頁)

【事案の概要】

本件は、組合員2名の就労するパチンコ店のワゴンサービスからの撤退を理由に同人らとの雇用契約を更新しなかったことの不当労働行為該当性が争われた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 平成28年1月10日に黒鳥店から撤退した後も、Y社従業員がワゴンサービスを行っているパチンコ店は、同年2月1日現在において、羽曳野店、堺インター店、泉北店、春木駅前店等、計44店舗あることからすると、黒鳥店撤退後もY社においてワゴンサービスを行う店舗は存在し、しかも、その店舗には、かつてA組合員が勤務していた店舗も含まれている。以上のような状況において、Y社は、本件組合員2名に雇用契約の終了を申し入れた理由として黒鳥店からの撤退を挙げるが、これのみをもって、本件雇用契約解除通知を行った合理的な理由であるとみることはできない

2 ・・・以上のことを総合すると、本件雇用契約解除通知をしたことに合理的な理由はなく、また、Y社が撤退店舗からの通常の雇用契約解除の手続きを踏まずに、組合が結成され、組合活動が開始した直後に本件雇用契約解除通知を行ったのは、組合が組合結成や組合活動を開始したことを認識し、組合及び組合員を職場から排除することを企図して行ったとみるのが相当である。

会社の行為について合理的な理由を説明できればいいですが、できないと不当労働行為と判断されてしまいます。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介788 オリジナリティ(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。
オリジナリティ 全員に好かれることを目指す時代は終わった

本田直之さんの本です。

サブタイトルは「全員に好かれることを目指す時代は終わった」です。

タイトル及びサブタイトルから何をいわんとしているのか容易に察することができますね。

この本で紹介されている方はみなさんオリジナリティの塊です。

とても参考になります。

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

同じことの繰り返し、というのは多くの仕事でも同じです。しかし、それを漫然とやっているだけでは、進化するどころか、退化していってしまいます。
『そうなると、自分でも仕事がつまらなくなっていきますよね。毎日同じことをやっていても、何か発見がやっぱりあるんですよ。なのに、それをただの作業にしてしまうと、本当につまらなくなる。同じ魚でも何か違うんじゃないか、今日は速くやってみよう、なんて自分で意識すると、仕事は変わっていきます』
仕事がつまらないという人がいますが、それはつまらないのではなくて、自分でつまらなくしているのです。そういう人は、どこに行っても同じことを繰り返してしまいます。」(74頁)

これは鮨好きで知らない人はいないであろう「鮨さいとう」の店主齋藤孝司さんの言葉です。

仕事におもしろいもつまらないもありません。

どのような意識を持って目の前の仕事をするか。 ただそれだけです。

「仕事がつまらないという人がいますが、それはつまらないのではなくて、自分でつまらなくしているのです。」

まさにこの言葉のとおりです。

同じことをやっていても、5年後10年後、大きな差が生まれてしまうのはこれが理由なのです。

わかる人にはわかる。 

やっている人はやっている。

結果が出るのは偶然ではなく、必然なのです。

解雇263 虚偽報告等に基づく懲戒解雇と相当性判断(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、虚偽報告等に基づく懲戒解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

アストラゼネカ事件(東京地裁平成29年10月27日・労判ジャーナル72号30頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員が、Y社の行った懲戒解雇が無効であると主張して、Y社に対し、雇用契約に基づき、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、平成27年12月以降本判決が確定するまでの間、毎月25日限り、賃金月額約64万円等及び平成28年3月分の賞与約267万円の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

未払賞与等支払請求は一部認容

【判例のポイント】

1 シンポジウムの虚偽報告については、Xの出欠確認方法が不適切であったことに起因するもので、それは注意することにより今後同様の誤りを生じないと期待することができるものであり、また、Xの営業活動の虚偽報告については、Y社自身MRに対して、データ入力の有無について注意喚起をすることがなかったことの影響も考えられ、今後、Xがデータの入力を正確にすると期待することができ、そして、虚偽内容のメールや必要のないメールの発信行為については、Xの問題意識や苦しい思いをその解決に必要な範囲を超えて周囲に流布するものであるが、外部に流布したのではなく、Y社の中の一部の者に流布したに止まっており、いずれの行為についても懲戒処分を検討するに当たって考慮すべき事情等があり、個別の注意、指導といった機会もなかったのであるから、これらの行為全てを総合考慮しても、懲戒解雇と、その前提である諭旨解雇という極めて重い処分が社会通念上相当であると認めるには足りないというべきであり、本件懲戒解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認めることができず、懲戒権を濫用したものとして、無効である。

2 Xは、Y社との間の労働契約において、賞与として年267万2235円を支給するものとされていた旨を主張するが、平成28年の賞与額は基本給3か月分の固定分と平成27年7月から12月の評価変動部分に分かれていること、評価変動分の標準評価が基本給1.5か月分であること、評価変動賞与は、基本給1.5か月分の0%から200%の範囲で、各人の業務目標の達成如何で金額が決定されること、Xの平成27年1月から6月までの評価変動の賞与は1.03か月分であったことが認められ、Y社において、賞与のうち評価変動賞与は、Y社が裁量によってその都度決定する金額が支払われるものであって、あらかじめ定まった金額が支払われるものではないことがうかがわれるから、XとY社との間の労働契約において、Xが解雇されなかったならば確実に評価変動賞与として基本給1.5か月分の支払がされるとは認められず、XのY社に対する平成28年の賞与の支払請求は、固定分である基本給3か月分の178万1490円に限られ、その余の請求は理由がない。

相当性がないということで懲戒解雇が無効と判断されています。

相当性判断を事前に適切に行うことはとても難しいですね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介787 SIMPLE RULES(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。
SIMPLE RULES 「仕事が速い人」はここまでシンプルに考える 三笠書房 電子書籍

サブタイトルは、「『仕事が速い人』はここまでシンプルに考える」です。

仕事が速いと言われる人は、単に頭が良いだけではなく、速くするためのルールがあるのです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

全体的に見ると、『優先順位ルール』『タイミング・ルール』『コーディネーション・ルール』を習得するまでには、しばらく時間がかかる。とくに『タイミング・ルール』をつくるコツを身につけるには、じゅうぶんな経験を積む必要がある。しかしながら、『シンプルなルール』にしたがって経営戦略を立てている企業は-とりわけ、習得するまでが大変だといわれているルールを確立した企業は-えてして経済的な成功を収めているのも事実だ。」(171頁)

会社の中に何らかのルールを作る場合、できる限り、シンプルにするべきです。

細かなルールをたくさん作るのではなく。

例えば「相手の立場に立って仕事をする」。

どのような書面を作成することが相手、すなわち読み手にとってうれしいかを考える。工夫する。

一事が万事、こういうことができる人は、すべてにおいて他者への想像力を働かせることができます。 

シンプルなルールをもとに各自が考え、工夫する。

これが仕事だと信じています。

細かなルールをつくればつくるほど、仕事が作業にかわってしまう。 そんな気がするのです。

賃金151 手当の「出来高払制賃金」該当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、各手当の「月によって定められた賃金」該当性に関する裁判例を見てみましょう。

川崎陸送事件(東京地裁平成29年3月3日・労判ジャーナル72号55頁)

【事案の概要】

本件は、従業員ら(3名)において、それぞれ平成24年7月から平成26年8月までに支給されるべき時間外労働等に係る割増賃金等の支払、労働基準法114条所定の付加金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

未払時間外労働等割増賃金等支払請求は認容

付加金等支払請求は一部認容

【判例のポイント】

1 「出来高払制」とは、賃金の対象が労働時間ではなく、労働者の製造した物品の量・価格や売上げの額などに応じた一定比率で額が定まる賃金制度をいうものと解されるところ、従業員らの従事する業務は、乗務職としてトラックに乗務し、トラックを運行するとともに、その運行の前後における積荷の積卸作業に従事するものであり、具体的な運行及び積荷の積卸しの内容はY社の指示によって決まるものであるから、本件各手当が当該手当の支給対象とするXらの労務の内容は、労働時間内に提供が求められる労務の内容そのものであること、しかも、地場手当は、実際には1日につき5000円の支給となっていて、運行回数、運送距離ないし走行距離、積荷の積載量、売上げといった作業の成果とは関連しておらず、乗務日数に応じて支給される手当といえること等から、本件各手当は、出来高払制賃金に当たらないと考えられる。

2 一般的に割増賃金等の支払がされないことは、付加金支払を命ずることを相当とする芳しからぬ事情であり、本件においても、問題となった本件各手当が割増賃金の基礎賃金として扱われず、ひいて過少な割増賃金の支払しかされていなかったことが認められるが、他方において、本件における本件各手当が固定給であるのか出来高払制賃金であるのかは、その判別が明確かつ容易にできるものとは言い難く、してみると、その判断を使用者であるY社において誤ったとしてもやむを得ない点もあり、将来にわたる違法行為の抑止等の観点からは、必ずしも未払割増賃金相当額全部の付加金の付加が適切であるとも言い難く、こうした事情を総合して考慮すると、本件においては、付加金として未払時間外割増賃金等の約25%相当の各支払を命じることが相当である。

業務内容からして「出来高払制」ということは考えられないとして出来高払制賃金に当たらないと判断されています。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

本の紹介786 なぜ一流は「その時間」を作り出せるのか(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は本の紹介です。
なぜ一流は「その時間」を作り出せるのか (青春新書インテリジェンス)

タイムマネジメントに関する本です。

毎日時間に追われて、5年後、10年後のための準備をする時間がないと嘆く方、必読です。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

通勤中、スマホでゲームをするくらいなら、英会話の勉強でもしたほうがずっと自分の役に立つのに、ついつい楽しくてゲームをやってしまう。時間がないとわかっているのに、仕事は中途半端なまま、書類の積み上がったデスクの整理を始めてしまう。誰にでも経験のあることだと思います。無意識の時間のムダづかいならいざしらず、なぜ、ムダだとわかっていることすら、ついついやってしまうのでしょうか。意志が弱いから?最初にお話ししたように、物事がうまくいくかどうかに意志は関係ありません。原因は、すでに「やることが習慣になっている」からなのです。」(29頁)

もうこれは言うまでもないことです。

時間がないと言いながら、どれだけ無駄なことに時間を費やしていることか。

結果を出すことをすでに放棄している人はさておき、結果を出したいと願いながら、そのための準備をしない。

SNSで他人の行動をチェックしている暇があるのなら、ラインでたわいもないやりとりをしている暇があるのなら、その時間を自分の価値を高めるための勉強にあてたほうがどれだけいいか。

1日にどれだけの時間を無駄にしていることか。

時間がいくらでもありますよ。

解雇262 勤務態度不良を理由とする解雇と相当性判断(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、降格前の地位確認及び解雇無効地位確認請求に関する裁判例を見てみましょう。

ドラッグマガジン事件(東京地裁平成29年10月11日・労判ジャーナル72号36頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と期間の定めのない雇用契約を締結して就労していた元従業員Xが、Y社のした降格及び解雇が無効であると主張して、Y社に対し、雇用契約に基づき、降格前の職制等級に基づく雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、解雇後本判決確定の日までの未払賃金等の支払、平成28年4月以降毎年年7月及び12月の賞与等の支払を求めるとともに、上司による違法なパワーハラスメントがあったと主張して、民法715条又は安全配慮義務違反による不法行為に基づき、慰謝料等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

降格前の職制等級に基づく雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認請求は棄却

解雇無効地位確認請求は認容

損害賠償請求は棄却

【判例のポイント】

1 Xには上司の指導や指示に素直に従わないこと、同僚との協調性が乏しいなどの業務上の問題点が認められ、Xに対し上司が問題点の改善を求めて指導したにもかかわらず、Xの勤務態度に変化が見られなかったこと、本件降格処分による賃金の減額は5000円と比較的少額であることなどを踏まえると、本件降格処分は客観的に合理的な理由があり、相当というべきであるから、人事権の範囲内の措置として有効である。

2 仮に、Xに認められる問題点(上司の指導・指示に素直に従う姿勢が乏しいこと、同僚との協調性が乏しいこと)がいずれかの解雇理由に該当するとしても、入社後1年余りの間はXの業務態度がさほどY社の社内で問題になることはなかったこと、Xには上司の指導や指示に素直に従わない面が認められるとはいえ、その態様は悪質なものとまではいえないこと、Xは関心のある分野については積極的に取材や執筆業務を行っていたこと等の事情を総合考慮すると、Xが前職で5年のキャリアを有することや、Y社が比較的小規模な組織であること等の事情を勘案しても、本件解雇は、いまだ社会通念上相当であるとは認められないというべきである。

3 Y社において本件解雇後のXの賞与の支給の実施及び具体的な支給額又は算定方法についての決定がされたとは認められず、また、これについての労使間の合意や労使慣行が存在したとは認められないから、Xの具体的な賞与請求権が発生したとはいえず、賞与に関するXの請求には理由がない。

解雇については相当性の判断で救われています。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介785 世界トップクラス営業マンの1年の目標を20分で達成する仕事術(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。
1年の目標を20分で達成する仕事術

著者は元ソニー生命エグゼクティブライフプランナーの方です。

現在は、会社を興されて、経営者をされています。

タイトルはさておき、内容はとても参考になります。

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

『これを達成するためにはどうしたらいいか?』ということだけを考えられるようになるには、成功体験を積むしかない。達成したことがない人間が無謀な数値目標を設定しても、やる前から数値を拒絶するから意味がない。まずは成功体験を積み上げていくことである。『決めたことはできる』という体験を積むと、成功のサイクルができてくる。何か決めたら、その時点でできるという頭に変わる。」(74頁)

「継続は力なり」という言葉を信じられるかどうかは、これまでにコツコツ努力をして結果を出してきたかどうかによります。

成功体験を積み上げてきた人は、「やればできる」という言葉を信じられるのです。

「どうせできる」と考えるのか、「どうせできない」と考えるのか。

この差は、これまでの成功体験の有無から来るものだと確信しています。

これまで成功体験をしてこなかった人は、小さなことでもいいのでコツコツやって結果を出す経験を積むことをしてみましょう。

人生はそこから変わり始めます。

セクハラ・パワハラ39 グループ会社の就労者に対する相談体制整備・対応義務の有無(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、グループ会社の就労者に対する相談体制整備と信義則上の対応義務に関する判例を見てみましょう。

イビデン事件(最高裁平成30年2月15日・ジュリ1517号4頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の子会社の契約社員としてY社の事業場内で就労していたXが、同じ事業場内で就労していた他の子会社の従業員Aから、繰り返し交際を要求され、自宅に押し掛けられるなどしたことにつき、国内外の法令、定款、社内規程及び企業倫理の遵守に関する社員行動基準を定め、自社及び子会社等から成る企業集団の業務の適正等を確保するための体制を整備していたY社において、上記体制を整備したことによる相応の措置を講ずるなどの信義則上の義務に違反したと主張して、Y社に対し、債務不履行又は不法行為に基づき、損害賠償を求める事案である。

原審は、上記事実関係等の下において、要旨次のとおり判断し、Y社に対する債務不履行に基づく損害賠償請求を一部認容した。
(1)従業員Aは、本件行為につき、不法行為に基づく損害賠償責任を負う。
また、勤務先会社は、Xに対する雇用契約上の付随義務として、使用者が就業環境に関して労働者からの相談に応じて適切に対応すべき義務を負うところ、課長らは、Xから本件行為1について相
談を受けたにもかかわらず、これに関する事実確認や事後の措置を行うなどの対応をしなかったのであり、これによりXが勤務先会社を退職することを余儀なくさせている。そうすると、勤務先会社は、本件行為1につき、課長らがXに対する本件付随義務を怠ったことを理由として、債務不履行に基づく損害賠償責任を負う。

(2)Y社は、法令等の遵守に関する社員行動基準を定め、本件相談窓口を含む本件法令遵守体制を整備したことからすると、人的、物的、資本的に一体といえる本件グループ会社の全従業員に対して、直接又はその所属する各グループ会社を通じて相応の措置を講ずべき信義則上の義務を負うものというべきである。
これを本件についてみると、Xを雇用していた勤務先会社において、上記(1)のとおり本件付随義務に基づく対応を怠っている以上、Y社は、上記信義則上の義務を履行しなかったと認められる。また、Y社自身においても、平成23年10月、従業員BがXのために本件相談窓口に対し、本件行為2につきXに対する事実確認等の対応を求めたにもかかわらず、Y社の担当者がこれを怠ったことによりXの恐怖と不安を解消させなかったことが認められる。
以上によれば、Y社は、Xに対し、本件行為につき、上記信義則上の義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償責任を負うべきものと解される。

【裁判所の判断】

破棄自判
→原判決中Y社敗訴部分を破棄する。
前項の部分につき、Xの控訴を棄却する。

【判例のポイント】

1 Xは、勤務先会社に雇用され、本件工場における業務に従事するに当たり、勤務先会社の指揮監督の下で労務を提供していたというのであり、Y社は、本件当時、法令等の遵守に関する社員行動基準を定め、本件法令遵守体制を整備していたものの、Xに対しその指揮監督権を行使する立場にあったとか、Xから実質的に労務の提供を受ける関係にあったとみるべき事情はないというべきである。また、Y社において整備した本件法令遵守体制の仕組みの具体的内容が、勤務先会社が使用者として負うべき雇用契約上の付随義務をY社自らが履行し又はY社の直接間接の指揮監督の下で勤務先会社に履行させるものであったとみるべき事情はうかがわれない。
以上によれば、Y社は、自ら又はXの使用者である勤務先会社を通じて本件付随義務を履行する義務を負うものということはできず、勤務先会社が本件付随義務に基づく対応を怠ったことのみをもって、Y社のXに対する信義則上の義務違反があったものとすることはできない

2 もっとも、・・・Y社は、本件当時、本件法令遵守体制の一環として、本件グループ会社の事業場内で就労する者から法令等の遵守に関する相談を受ける本件相談窓口制度を設け、上記の者に対し、本件相談窓口制度を周知してその利用を促し、現に本件相談窓口における相談への対応を行っていたものである。その趣旨は、本件グループ会社から成る企業集団の業務の適正の確保等を目的として、本件相談窓口における相談への対応を通じて、本件グループ会社の業務に関して生じる可能性がある法令等に違反する行為を予防し、又は現に生じた法令等違反行為に対処することにあると解される。
これらのことに照らすと、本件グループ会社の事業場内で就労した際に、法令等違反行為によって被害を受けた従業員等が、本件相談窓口に対しその旨の相談の申出をすれば、Y社は、相応の対応をするよう努めることが想定されていたものといえ、上記申出の具体的状況いかんによっては、当該申出をした者に対し、当該申出を受け、体制として整備された仕組みの内容、当該申出に係る相談の内容等に応じて適切に対応すべき信義則上の義務を負う場合があると解される。
これを本件についてみると、Xが本件行為1について本件相談窓口に対する相談の申出をしたなどの事情がうかがわれないことに照らすと、Y社は、本件行為1につき、本件相談窓口に対する相談の申出をしていないXとの関係において、上記の義務を負うものではない。

3 また,・・・Y社は、平成23年10月、本件相談窓口において、従業員BからXのためとして本件行為2に関する相談の申出を受け、発注会社及び勤務先会社に依頼して従業員Aその他の関係者の聞き取り調査を行わせるなどしたものである。
本件申出は、Y社に対し、Xに対する事実確認等の対応を求めるというものであったが、本件法令遵守体制の仕組みの具体的内容が、Y社において本件相談窓口に対する相談の申出をした者の求める対応をすべきとするものであったとはうかがわれない。
本件申出に係る相談の内容も、Xが退職した後に本件グループ会社の事業場外で行われた行為に関するものであり、従業員Aの職務執行に直接関係するものとはうかがわれない。
しかも、本件申出の当時、Xは、既に従業員Aと同じ職場では就労しておらず、本件行為2が行われてから8箇月以上経過していた。
したがって、Y社において本件申出の際に求められたXに対する事実確認等の対応をしなかったことをもって、Y社のXに対する損害賠償責任を生じさせることとなる上記の義務違反があったものとすることはできない

一般論として応用可能性があるのは、上記判例のポイント2の部分です。

本件同様の制度をつくった場合には、つくりっぱなしにせず、適切に運用していくことが求められます。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

本の紹介784 地道力(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は本の紹介です。
地道力[新版] 目先の追求だけでは、成功も幸せも得られない!

著者は、美容室のEARTHグループ代表の方です。

タイトルになっている「地道力」が成功の絶対要件であることが伝わってきます。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

ビジネスで本当に成功したいと思うのなら『地道にコツコツ努力する』しかありません。これもまた真実です。そして再三にわたって繰り返しますが、生まれつき、地道にコツコツ努力できる人などほとんどいません。つまり、成功する人と失敗する人の違いは、地道にコツコツ努力できるようになる(するしかない)工夫をするかしないか、にあると言えるのです。」(180頁)

地道にコツコツ努力する姿勢・方法をいつ修得するかだけですよね。

学生時代の部活や受験勉強等で地道力を培うことが多いように思います。

若いうちに地道力を身につけると、そのあとがとても楽になります。

結果を出す方法はつまるところ、地道にコツコツ努力するしかないことがわかっているからです。

コツコツやって結果を出してきたのか、途中であきらめて放り出してきたのか。

この差が10年後、20年後、大きな差となって表れるのです。