Daily Archives: 2018年3月5日

賃金145 固定残業代が無効と判断された理由とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、固定残業代の主張を認めず、割増賃金請求を認容した裁判例を見てみましょう。

マンボー事件(東京地裁平成29年10月11日・労経速2332号30頁)

【事案の概要】

本件は、漫画喫茶などを運営する株式会社であるY社との間で労働契約を締結し、Y社の本社において夜間の電話対応や売上げの集計業務に従事していたXが、Y社はXの同意なく賃金を減額したほか、労働基準法所定の割増賃金を支払っていないなどと主張して、①労働基準法に従った平成26年2月から平成28年2月までの割増賃金や上記減額された賃金+遅延損害金、②割増賃金に係る労働基準法114条の付加金+遅延損害金の各支払を求めるとともに、Y社の雇用保険、健康保険及び厚生年金保険の届出義務の懈怠により、健康保険からの給付を受給できない等という不安定な状態のまま就労することを余儀なくされ、精神的苦痛を被ったと主張して、③不法行為に基づき、慰謝料100万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、未払賃金1212万4698円+遅延損害金を支払え

Y社はXに対し、付加金300万円+遅延損害金を支払え

Y社はXに対し、慰謝料10万円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Cは、同面接時、Xに対し、勤務条件について、休憩1時間を含めた1日12時間シフトの週6日勤務で、賃金総額が30万円であり、賃金総額の増額決定がない限り同額を超えて支給されることは一切ない旨を説明したにとどまり賃金総額30万円のうちのどの部分が固定残業代に当たるのかについて説明をしていなかったものである。しかるに、同説明のみでは、賃金総額について、通常の労働時間の賃金に当たる部分と労働基準法37条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができず、Xが同説明を受けた上で本件労働契約を締結したとしても、Y社との間で有効な固定残業代に関する合意をしたとはいうことはできない。

2 また、仮に本件固定残業代についてXの同意があったとしても、本件労働契約においては当初から、労働者の労働時間の制限を定める労働基準法32条及び36条に反し、36協定の締結による労働時間の延長限度時間である月45時間を大きく超える月100万円以上の時間外労働が恒常的に義務付けられ、同合意は、その対価として本件固定残業代を位置付けるものであることからすると、36協定の有効性にかかわらず、公序良俗に反し無効である(民法90条)と解するのが相当である。

3 なお、Y社は、本件固定残業代に関する合意が無効となるとしても、当事者の合理的意思からすれば、少なくとも36協定により合意された45時間分の時間外労働に対する割増賃金を固定残業代の形で支払う旨の合意であると解釈すべきであると主張する。・・・本件においては、採用面接時のCの説明内容からしても、Y社において少なくとも36協定により合意された45時間分の時間外労働に対する割増賃金を固定残業代の形で支払う旨の意思が包含されていたとは認め難く、他方で、Xは賃金総額の振り分け方法についてさえ十分に理解していなかったものであり、これまで判示したところに照らして、X及びY社にY社が主張するような合理的意思を見出すことは困難といわざるを得ない。

4 Y社は本件固定残業代を超過する残業代の精算すら行っていなかった一方で、本件固定残業代が無効となる結果、Y社は、Xに対し、同業他社の賃金相場に照らして相当高額の基礎賃金を支払っていたことになることなど、本件に現れた一切の事情を考慮すれば、Y社に対し、付加金として300万円の支払を命じるのが相当である。

上記判例のポイント2、3はしっかり頭に入れておきましょう。

上記判例のポイント3は、原告としては、ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件札幌高裁判決を参考にしていると思いますが、今回は認められませんでした。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。