労働時間47 専門業務型裁量労働制が無効と判断される理由(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、専門業務型裁量労働制と労使協定に関する裁判例を見てみましょう。

京色彩中嶋事件(京都地裁平成29年4月27日・ジュリ1514号116頁)

【事案の概要】

本件は、Xらが、Y社に対し、時間外手当のほか、賃金減額の無効、有給休暇を消化した日の未払い賃金、付加金、長時間労働によりうつ病に罹患したことについての不法行為又は債務不履行である安全配慮義務違反による損害賠償請求をした事案である。

【裁判所の判断】

 Y社は、X1に対し、934万0114円+遅延損害金を支払え。
 Y社は、X1に対し、165万円+遅延損害金を支払え。
 Y社は、X1に対し、500万円+遅延損害金を支払え。
 Y社は、X2に対し、277万1777円+遅延損害金を支払え。
 Y社は、X2に対し、157万6922円+遅延損害金を支払え。
 Y社は、X3に対し、185万2680円+遅延損害金を支払え。
 Y社は、X3に対し、80万5288円+遅延損害金を支払え。
 Y社は、X4に対し、306万6332円+遅延損害金を支払え。
 Y社は、X4に対し、136万4085円+遅延損害金を支払え。

【裁判所の判断】

1 専門業務型裁量労働制を採用するためには、当該事業場に労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定を行うことを要する(労基法38条の3第1項)。
また、個別の労働者との関係では、専門業務型裁量労働制を採用することを内容とする就業規則の改定等により、専門業務型裁量労働制が適用されることが労働契約の内容となることを要する。

2 Y社の平成22年秋頃の従業員数は合計19名、専門業務型裁量労働制の採用に当たり対象となる従業員は11名であるところ、Cが労働者の過半数を代表する者とされた際の選出の手段、方法は不明であり、協定届上「推薦」とあるが、C本人及びXらを含むY社の従業員合計6名はいずれもCを従業員として選出するための会合や選挙を行ったことはないと述べており、これらの従業員は、また、同様に、平成23年の就業規則改定に際して労働者代表を選出するための会合や選挙を行った事実もないと述べている。
これに対し、Y社は、労働者代表の選出は、社会保険労務士の指示に従い、従業員のうちの事務を担当していたDに任せていたと述べるのみであり、その具体的な選出方法について何ら説明することができず、結局のところ、当該事業所に属する従業員の過半数の意思に基づいて労働者代表が適法に選出されたことをうかがわせる事情は何ら認められない

3 就業規則が、平成23年の改訂の前後を通じて実際にY社の事務所内の棚に保管され、従業員が手に取れる状態となっていたこと、また、その保管場所が従業員に周知されていたことを裏付ける客観的な証拠はない。むしろ、平成26年7月に行われたY社と労働組合(b労)との団体交渉において、組合側から就業規則の設置場所を聞かれ、Y社側の弁護士が事務所内のAの座っているところの本棚にあると聞いていると説明するのに対して、X1が見たことがないと述べていることに照らすと、保管場所が従業員に周知され、いつでも閲覧し得る状態になっていたということはできないことが明らかである。

4 ・・・このようなY社による理由のない降格、賃金減額のストレスと、長時間労働の負荷とは、時期的にはうつ病の発症の直前ではないものの、これらを解決するために労働組合に加入したX1に対して、さらに不当労働行為が行なわれていること、他に、当時、X1にうつ病の発症の原因となるようなストレスがあったことをうかがわせる事情は特段認められないことからすると、X1のうつ病の発症は、Y社の上記行為に起因するものと推認することができる。
したがって、X1に、減額分の賃金の補填や時間外労働に対する対価の支払のみではまかなえない精神的苦痛を与えたものということができる。
以上の経緯を総合考慮すると、X1に生じた精神的苦痛を慰謝するには150万円をもって相当と認める。

どえらい金額になってしまっていますね。

上記判例のポイントのとおり、法律上求められている手続を無視すると最終的にはこうなってしまいます。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。