おはようございます。
今日は、在職中長年にわたって仕事を与えられなかったことにつき損害賠償請求を認めた裁判例を見てみましょう。
国立大学法人H大学事件(神戸地裁平成29年8月9日・労経速2328号23頁)
【事案の概要】
本件は、Y社の職員であったXが、在職中長年にわたって仕事を与えてもらえず、差別的な扱いを受けるなどの嫌がらせをされて精神的苦痛を受けたと主張して、Y社に対し不法行為または債務不履行に基づき550万円の損害賠償+遅延損害金を請求する事案である。
【裁判所の判断】
Y社はXに対し、50万円+遅延損害金を支払え
【判例のポイント】
1 厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキンググループ」の平成24年1月30日付け報告書は、職場のパワハラの概念とその行動類型を次のように説明している。当裁判所もこれを適切なものとして採用することとする。
2 業務上の合理性がないのに、Y社がXに対し長年にわたって仕事をほとんど与えず、研修も受けさせなかったこと、学術情報チーム所属当時に輪番制の事務を割り当てなかったことは、パワハラにあたる。これはXの校務員としての雇用関係上の人格的利益ないし労働者としての人格的利益を侵害する不法行為を構成する。
・・・Y社が成立する前の大学は国の行政機関であったし、Y社も政府からの出資を資本金とし、税金等でまかなわれる政府からの交付金を財源としている。給与は職務の対価であるから、特定の職員に対し長期間にわたりほとんど仕事をさせないでおきながら給与を支給し続けることは、国民に対する背信行為であり、許されるはずもない。
3 Xは病気休職から復職した平成10年4月から、学術情報チームにおいて継続的に仕事が与えられ、開館準備行為、書架整理作業を順次割りあてられるようになった平成23年3月頃までの間、約13年間にわたって上記のパワハラを受けた。平成16年にうつ状態、平成17年に自律神経失調症、平成22年に混合性不安抑うつ反応と診断されており、このパワハラがXの精神状態に与えた影響は小さくない。
他方、Xは平成9年の減給処分直後から複数回職務遂行上の指導を受けたにもかかわらず、職務に精励し他の職員との人間関係を改善するための努力を十分にしなかった。上記のとおり平成23年春頃以降、Xへの対応は改善されたにもかかわらず、同年8月には学術情報課長に土下座や長時間の正座をさせるなどの強要等の事件を起こしている。Xの粗暴な言動や職場における不届きなふるまいは平成9年の減給処分の理由となった出来事においてすでに顕著に現れており、その後も上司に対して不穏当な発言をするなどしているから、Xが扱いにくい職員であったことはまちがいない。Xに仕事を与えることをXの上司に躊躇させた原因がX自身にあるのは否定できない。トラブル防止のために職員に仕事を与えないという措置を長時間にわたってとることが許されないことはすでに述べたとおりであるが、慰謝料額の算定においてはこのような事情も十分に考慮すべきである。
上記判例のポイント3を読む限り、Xにも相応の原因があったようです。
慰謝料の金額自体は、毎度同じく高額にはなりません。
ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。