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今日は、代表取締役の従業員に対する言動等について会社に会社法350条に基づく責任が認められた裁判例を見てみましょう。
F社事件(長野地裁松本支部平成29年5月17日・労経速2318号26頁)
【事案の概要】
本件は、Y社の従業員であったXらがY社らに対して次のとおりの請求をする事案である。
1 Xらが、Y社の代表取締役であるAから在職中にパワーハラスメントを受けたと主張して、Aに対しては不法行為に基づき、Y社に対しては会社法350条に基づき、慰謝料等の支払を求めるもの(請求の趣旨1項)。
2 Xらが、平成25年度夏季賞与を根拠なく減額されたと主張して、Y社に対し、減額分の支払を求めるもの(請求の趣旨2項の一部及び3項の一部)。
3 Xらが、会社都合退職の係数によって算定された退職金が支給されるべきであると主張して、Y社に対し、支給された退職金との差額の支払を求めるもの(請求の趣旨2項の一部,3項の一部,4項及び5項)。
4 X2が、違法な降格処分をされたと主張して、Y社に対し、当該処分によって支給されなかった賃金相当額の支払を求めるもの(請求の趣旨3項の一部)。
【裁判所の判断】
1 Y社らは、連帯して、X1に対し22万円、X2に対し110万円、原告X3に対し5万5000円、X4に対し5万5000円+遅延損害金を支払え。
2 Y社は、X1に対し、12万6265円+遅延損害金を支払え。
3 Y社は、X2に対し、201万9744円+遅延損害金を支払え。
4 Xらのその余の請求をいずれも棄却する。
【判例のポイント】
1 AのX2に対する下記の発言はいずれも不法行為に当たる。
(ア)平成25年4月1日の「係長もいますね。女性の方もいらっしゃいます。そういう方も含めてですね、これは私がしている人事ではありませんから、私ができないと思ったら降格もしてもらいます」との発言は、X1とX2を降格候補者として挙げており、根拠もなく同原告らの能力を低くみるものである。
(イ)同月8日の「人間、歳をとると性格も考え方も変わらない」との発言は、年齢のみによって原告X2の能力を低くみるものである。
(ウ)同月15日の「自分の改革に抵抗する抵抗勢力は異動願いを出せ。」との発言は、50代はもう性格も考え方も変わらないから、X2を含む50代の者を代表者に刃向かう者としており、年齢のみによってX2らの勤務態度を低くみるものである。同月19日の「社員の入替えは必要だ。新陳代謝が良くなり活性化する。50代は転勤願を出せ」との発言も、X2を含む50代の者をY社の役に立たないとしており、年齢のみよってX2らの能力を低くみるものである。
2 Y2は、同年7月12日、Aに対して、平成25年夏季賞与のマイナス考課について説明した際に「辞めてもいいぞ」と述べているところ、上記マイナス考課は理由のないものであって、理由のなく賞与を減額した上で「辞めてもいいぞ」と述べているのであるから、上記マイナス考課はX2を退職させる目的でされたものと認められる。
また、本件降格処分も理由のないものである上、Aは本件降格処分を行うに当たって、処分の軽重を決定する重要な要素であるX2の経理処理によってY社に生じた損害の多寡の確認をしていないし、懲戒処分の基準を定めた賞罰規程の内容の確認もしていないのであって、このような結論ありきの姿勢は、本件降格処分がX2を退職させる目的であったことを推認させるものといえる。
3 AがX2を退職させる目的で理由のない賞与減額と懲戒処分を立て続けに行ったことは悪質である。また、AがX2を侮辱する発言を繰り返していることも軽視できない。
他方、不法行為の期間が長いとはいえない上に、平成25年5月と6月は目立ったものはなく、継続的な不法行為があったともいえないという事情も存在する。
これらを総合すると、X2に対する慰謝料としては100万円、弁護士費用としては10万円を相当額と認める。
4 X2は、誰を接待したのか不明の支払申請書や飲食日が不明又は修正液で白塗りされた請求書に基づいてBの交際費の経理処理をしたのであるが、このようなY社のための費用であるのか、当該事業年度の費用なのかを確認することなく経理処理したことはずさんなものというほかない。
他方、上記の事情によってBの交際費として計上したものが税務署から交際費であることを否認されたというような事情は見当たらず、X2の上記の経理処理がY社の納付した延滞税及び重加算税についてどの程度の原因となっていたのかは証拠上明らかではない。また、本社は、Y社の交際費が販売子会社の中でも突出して多いことをかねてから把握していながら、Y社が利益を上げていたとして、Y社の交際費について精査することがなかったのであり、顧問会計事務所も問題点を指摘しなかったことも併せ考慮すれば、X2の交際費の経理処理が延滞税及び重加算税に影響を与えていたとしても、それを主にX2の責任であったとすることはできない。
したがって、X2の会計処理は、就業規則93条1項4号所定の事由に当たるものの、上記の事情に照らすと、X2を降格処分としたことは相当性を欠くというべきである。
仮に思っていても言っていいことと悪いことがあります。
それは政治家も経営者も同じことです。
パワハラ問題は、「そんなことを言ったら問題になるに決まっているでしょ」ということを平気で言ってしまうデリカシーのなさが1つの原因になっているわけです。
ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。