おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。
今日は、業務消滅を理由とする整理解雇を有効と認めた裁判例を見てみましょう。
H協同組合事件(大阪高裁平成29年2月3日・労経速2316号3頁)
【事案の概要】
本件の本訴は、Y社の従業員であったが、平成26年3月20日に解雇されたXが、解雇は無効であるとして、①労働契約上の地位の確認と、②平成26年2月21日から判決確定まで(将来分を含む)毎月15万円の賃金+遅延損害金の支払を請求する事案であり、
反訴は、Y社が、Xに対し、Xは、平成23年7月から平成26年1月まで、労働契約に含まれていないと知りながら、通勤費等の名目で毎月5万円を利得したとして、不当利得返還請求権及び悪意の受益者に対する利息請求権(民法704条)により、155万円+遅延損害金の支払を請求する事案である。
原判決は、Xの請求の一部を認容し、Y社の請求を棄却したので、Y社が控訴をした。
【裁判所の判断】
原判決を以下のとおり変更する。
Xの請求をいずれも棄却する。
Y社の請求を棄却する。
【判例のポイント】
1 本件労働契約は、Y社にはXに従事させる業務が存在しないことを前提に、Xを協同組合員の工場に派遣し、協同組合員のミキサー車乗務や車両誘導等の現場立会業務に従事させ、協同組合員が支払う対価を賃金に充てることを内容とするものであるところ、平成25年には協同組合員からの派遣依頼がほぼなくなり、将来的にも派遣依頼を受けることは期待できない状況に陥っていたのであるから、本件解雇には客観的合理的理由があるといえる。
2 Y社は、建交労と、Xの「職員の身分・処遇に影響を及ぼす恐れのある場合」には建交労と事前に協議するとの協定を結んでいるところ、本件解雇予告にあたり建交労と事前に協議をしていないし、少なくとも平成26年1月18日以降は、建交労からの団体交渉の申入れを正当な理由なく拒否し、ようやくもたれた同年2月28日の団体交渉においても、Y社は、整理解雇ではなく労働契約の解約であるとして、実質的な協議をしないまま解雇している。
しかし、建交労は、Xが平成17年1月に甲社に雇用される時からこれに関与し、XがY社の専務理事を退任した際には、Y社が、Xに従事させる業務が存在しないことや経済的逼迫を理由に、再雇用を拒否していたにもかかわらず、Y社に強く働きかけ、協同組合員に派遣させてでもXを雇用させたものである。そして、建交労は、Y社が平成25年4月に解雇予告通知を行った際には、団体交渉によりこれを撤回させるなどしており、前回の解雇予告の撤回後のY社及びXの状況に変化がないことも理解していたはずである。
建交労は、Xの雇用から本件解雇予告に至る経緯や、解雇の必要性、合理性、解雇回避努力、人選の相当性等についてY社が一貫して主張する内容等、すなわち、Y社との協議(団体交渉)においてY社が説明するであろう内容を知悉しており、これに対する建交労の主張も前回の解雇撤回時の団体交渉における説明と同様になったことからすれば、Xもその内容を承知していたことが推認できる。そして、前回、解雇を撤回したにもかかわらず、改めて本件解雇予告をしたことは、Y社において、今回は解雇予告を撤回する意思がないことを示しているものであり、他方、建交労も、本件解雇予告の撤回以外の円満解決に向けた具体的方策を提示していない。
これらの事情を総合すると、Xとの協議や交渉は、平成26年2月28日の団体交渉で行き詰まり、進展の見込みがなかったといえるから、Y社は、本件解雇予告前に建交労と事前に協議をせず、その後も、必ずしも誠実に協議をしたとはいえないものの、この点を考慮しても、本件解雇は社会通念上相当なものではない(解雇権を濫用したもの)とまではいえない。
一審と控訴審で判断が分かれているとおり、ぎりぎりの判断です。
特に上記判例のポイント2の判断は、担当裁判官の考え方1つで変わり得るところなので、この裁判例を実務に活かすということはなかなか難しいです。
こういう判断もありうるよ、という程度ですかね。
解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。