おはようございます。
今日は、特別養護老人ホームの施設長の解任に関する裁判例を見てみましょう。
社会福祉法人X事件(奈良地裁葛城支部平成29年2月14日・労経速2311号20頁)
【事案の概要】
本件は、Y社の従業員であるXが、Y社経営の特別養護老人ホームの施設長解任の無効を主張して、Y社に対し、施設長であり、かつ、管理職手当月額8万円の支払を受ける地位にあることの確認を求める事案である。
【裁判所の判断】
請求棄却
【判例のポイント】
1 本件解任処分は、人事権の行使としてなされたものと認められるところ、人事権の行使として一定の役職を解くことは、労働者を職業的な能力の発展に応じて各種の職務やポストに配置していく長期雇用システムの下においては、労働契約上、使用者の権限として当然に予定されているということができ、就業規則等に根拠規定がなくても行い得ると解される。しかし、使用者が有する人事権といえども無制限に認められるわけではなく、その有する裁量権の範囲を逸脱し、又はその裁量権を濫用したと認められる場合には、その解任処分は無効となるというべきである。特に解任に伴って労働者の給与も減額されるなど不利益を被る場合には、その解任に合理的な理由があるか否かは、その不利益の程度も勘案しつつ、それに応じて判断されるべきである。
2 Xは、本件解任処分について、懲戒処分としての減給処分又は降格処分と同様の事実が必要である旨主張するが、人事権の行使としての施設長解任は基本的には裁量的判断により可能なものであることからすると、その要件として、懲戒処分と同様又はそれに準ずるほどの事情を要するとまでは解されない。
3 もとより、本件解任処分によりXに生じた減収は少なくないが、管理職手当は、施設長という地位・役職に基づくもので、施設長の地位・役職を解されればその支給を受けられなくなるものと解されるところ、Xは、本件解任処分により管理職である施設長の地位から外れ、その職務内容・職責に変動が生じていることのほか、一般職員として業務改善手当を受給し、労働実態等に呼応して変動し得る不確定なものであるとの事情も無視はできないものの残業手当が支給される可能性もあること等を考慮すると、上記減収による不利益をもって通常甘受すべき程度を超えているとまではいえない。
人事権の行使としての解任処分についての考え方を学ぶにはいい事例です。
懲戒処分とは違うものの、一定の制限があることは当然のことです。
解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。