おはようございます。
今日は、他の従業員らをいじめたことに基づく雇止めに関する裁判例を見てみましょう。
大同工業事件(名古屋高裁平成29年2月16日・労判ジャーナル63号45頁)
【事案の概要】
本件は、Y社との間で、期間の定めのある雇用契約を締結して繰り返し更新してきた元従業員Aが、Y社の雇止めが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められず、無効であるとして、Y社に対し、労働契約に基づく同契約上の権利を有する地位の確認並びにY社による雇止め後の平成26年4月以降の賃金等の支払をも遠めるとともに、Y社の従業員であったCが、Xを根拠なく罵倒した上、自己の信仰する宗教をXにも信仰するよう強要したことによりXが精神的苦痛を被ったとして、Y社及びCに対して、Cについては不法行為(民法709条、710条)、Y社については使用者責任(民法715条)に基づいて、慰謝料200万円等の支払を求めた事案である。
原判決は、XのY社に対する賃金等の請求を一部却下一部棄却し、損害賠償請求を棄却したため、Xが控訴した。
【裁判所の判断】
雇止め無効
慰謝料として150万円を認めた。
【判例のポイント】
1 Y社は、十分な調査もせず、Xの弁明を真摯に聞いてそれを検討することもなく、Xが他の従業員をいじめて辞めさせたという誤った事実を主たる理由として本件雇止めを行ったものであって、本件雇止めは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないから無効であるといわざるを得ず、Y社は、平成26年2月初旬には早々と、ハローワークに対しXに代わるパート従業員の求人申込を行い、同月27日には、同パート従業員の採用を正式に決め、同月28日には、Xに対し、上記のとおり客観的に合理的理由を欠く理由に基づく本件雇止めを通告し、Xによる労務の受領を将来にわたり予め拒否したものといえるから、Xは、Y社の責めに帰すべき事由によって労務の提供ができなかったものと認められること等から、Xは、平成26年4月1日以降もY社に対する労働契約上の権利を有する地位にあり、かつ、同日以降のY社に対する賃金請求が認められる。
2 Y社の工場長たるCは、十分な調査もせず、Xに弁明の機会を与えないまま、複数の従業員をいじめて辞めさせたものと一方的に決めつけ、大声をあげるなどして、強い調子でXに反省を命じ、かつ、事実無根の事柄を記載したC作成書面及びXが恰も不道徳極まりない人物であることを前提とするかのようなC交付書面を手渡してこれらをXに閲読させるなどしたことによって、Xに対し休職を伴う療養を要する適応障害の傷害を負わせ、精神的苦痛を与えたものであるから、Xに対し民法709条、710条の不法行為責任を負い、Cの上記不法行為は、その使用者であるY社の業務の執行につき行われたことは明らかであるから、民法715条の使用者責任を負い、Xの精神的苦痛に対する慰謝料額としては、150万円が相当である。
上記判例のポイント1は注意しましょう。
いじめやパワハラ、横領事案等で加害者とされる者の弁明を十分に聞かず、また、冷静な調査をすることなく、最初から決めつけて対応にあたることは避けなければなりません。
刑事事件の冤罪の多くは「決めつけ」から生まれていることを忘れてはいけません。
日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。