Monthly Archives: 8月 2017

本の紹介709 ユダヤから学んだモノの売り方(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。
ユダヤから学んだモノの売り方

著者自身のこれまでの経験をもとにマーケティングの考え方を教えてくれています。

とてもわかりやすく書かれています。

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

マーケティングにおいて、弱者が勝つためには、こうした『他にないウリ』を打ち出し、ユーザーの数を確保していくしかありません。」(81頁)

ビジネスの流れの全体像をまず俯瞰し、自分たちの立ち位置を明らかにする。そうしたポジション取りさえしっかりとできるのであれば、だんだんと周りからも必要とされる存在になっていくものです。」(99頁)

さまざまな本でさまざまな言い回しでマーケンティグのポイントが説かれています。

でも、簡単に言うと、この本で書かれていることこそがマーケティングの意味ではないでしょうか。

「他との違い」「他にないウリ」をわかりやすく伝える。

どうしたらそれができるかを真剣に考えることが大切なのだと思います。

解雇241 施設長解任の有効性の判断方法(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、特別養護老人ホームの施設長の解任に関する裁判例を見てみましょう。

社会福祉法人X事件(奈良地裁葛城支部平成29年2月14日・労経速2311号20頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であるXが、Y社経営の特別養護老人ホームの施設長解任の無効を主張して、Y社に対し、施設長であり、かつ、管理職手当月額8万円の支払を受ける地位にあることの確認を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件解任処分は、人事権の行使としてなされたものと認められるところ、人事権の行使として一定の役職を解くことは、労働者を職業的な能力の発展に応じて各種の職務やポストに配置していく長期雇用システムの下においては、労働契約上、使用者の権限として当然に予定されているということができ、就業規則等に根拠規定がなくても行い得ると解される。しかし、使用者が有する人事権といえども無制限に認められるわけではなく、その有する裁量権の範囲を逸脱し、又はその裁量権を濫用したと認められる場合には、その解任処分は無効となるというべきである。特に解任に伴って労働者の給与も減額されるなど不利益を被る場合には、その解任に合理的な理由があるか否かは、その不利益の程度も勘案しつつ、それに応じて判断されるべきである。

2 Xは、本件解任処分について、懲戒処分としての減給処分又は降格処分と同様の事実が必要である旨主張するが、人事権の行使としての施設長解任は基本的には裁量的判断により可能なものであることからすると、その要件として、懲戒処分と同様又はそれに準ずるほどの事情を要するとまでは解されない

3 もとより、本件解任処分によりXに生じた減収は少なくないが、管理職手当は、施設長という地位・役職に基づくもので、施設長の地位・役職を解されればその支給を受けられなくなるものと解されるところ、Xは、本件解任処分により管理職である施設長の地位から外れ、その職務内容・職責に変動が生じていることのほか、一般職員として業務改善手当を受給し、労働実態等に呼応して変動し得る不確定なものであるとの事情も無視はできないものの残業手当が支給される可能性もあること等を考慮すると、上記減収による不利益をもって通常甘受すべき程度を超えているとまではいえない

人事権の行使としての解任処分についての考え方を学ぶにはいい事例です。

懲戒処分とは違うものの、一定の制限があることは当然のことです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介708 神・時間術(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。
脳のパフォーマンスを最大まで引き出す 神・時間術

著者は、精神科医の方です。

特に目新しいことは書かれていませんが、時間の正しい使い方をまとめてくれています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

・・・ノーベル文学賞候補として毎年名前が挙がる世界的な作家である村上春樹です。彼も、毎日、『1時間の運動』を習慣にしているのです。・・・彼が人を感動させる素晴らしい作品を書けるのは、『運動』しているからなのです。なので、仕事のクオリティを上げたければ運動すべきですし、集中力をリセットしたければ、運動すべきなのです。」(174~175頁)

日頃、運動することが習慣化されている人は、ここに書かれていることがよくわかると思います。

ジョギングや筋トレを日常生活に取り入れることができれば、仕事の質があがることは経験上明らかです。

ただ、こういうことって、強制されてやっても続かないんですよね・・・。

体を動かすのが好きか、嫌いか。

最終的にはそこだと思います。

続けていれば、体が絞れてきますし、いわゆる「動ける体」になっていくのが自分でわかります。

朝、30分早く起きて、ジョギング、筋トレができれば、人生、変わりますよ。

労働災害92 安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求と過失相殺(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、作業中の怪我に対する損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

三興運送事件(大阪地裁平成29年3月1日・労判ジャーナル33頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、Y社の安全配慮が不十分であったため作業中に負傷したとして、Y社に対し、不法行為又は債務不履行に基づき、損害賠償を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社の損害賠償責任を認める。

3割の過失相殺を認める。

【判例のポイント】

1 Y社においては、作業中の手足を挟まれる危険について特に対策を講じておらず、作業員に安全靴の装着を求める取引先の所に行く場合には安全靴を装着することになっていただけであったところ、Xは、本件事故当時、年平均90時間超の超過勤務を恒常的に行っており、また、Xは、労働安全衛生規則5条に基づく安全管理者として講習を受けていたことはあったが、特に会社の中で安全管理を行うような役職に就いていたわけではなく、また、本件昇降機は、自動停止装置を付けることができないものであり、Xは、本件事故当時、安全靴など装着しないで作業をしており、本件昇降機に乗って積み荷を降ろした後、本件昇降機に乗ってハンドリフト(積み荷を運ぶ機械)を支え、コントローラーを操作して上昇していた際、たまたま自分の左足が荷室側にはみ出ており、第1指が本件昇降機と荷室の間に挟まってしまい、本件事故が発生したこと等から、Y社には、本件事故につき過失があったといえるから、不法行為に基づく損害賠償請求責任を負う(厳密には、Xの上司で安全管理者たるべきY社従業員に過失があり、Y社は、その使用者責任を負うと解される)。

2 Xは、安全管理者として講習を受けたとはいえ、会社内で具体的に何らかの措置を講じるべき立場になく、また、講習の内容も不明であるから、本件事故を防止できるだけの知識を付与されていたとは認め難く、また、Xは、本件事故当時、相当長時間の超過勤務をしていたため注意力が低下していたと主張し、本人尋問でも、当時12月の寒さ等と相まって注意力が低下していたなどと供述するところ、それも首肯されるところであるが、Y社は、これを否定し、事故前にXからY社に過労を訴えるようなことはなかったと指摘するが、Y社の従業員は当時概ね長時間労働に従事していたことが窺われるから、Xがそのような訴えをしなかったとしても不自然でなく、・・・Xにも本件事故について過失があるとはいえ、過失割合はせいぜい30%と言うべきである。

3割の過失相殺を大きいと見るか否かは判断が分かれるところですね。

労災発生時には、顧問弁護士に速やかに相談することが大切です。

本の紹介707 人生の勝算(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は本の紹介です。
人生の勝算 (NewsPicks Book)

著者は、SHOWROOM株式会社代表取締役社長の方です。

帯には秋元康さんと堀江貴文さんの紹介文が掲載されています。

ここ最近読んだ本の中で一番素晴らしかったです。

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

・・・その彼と玉砕した社員との違いは、会話スキルや運ではない。モチベーションであり、エネルギー量の違いだと思います。同期より早く給料アップしたい、社長に褒められたい、同期の女の子にモテたい、何でもいい。モチベーションがはっきりしていることが大事です。そのエネルギーを源泉として頑張れる人が、勝ちを重ねられます。モチベーションはあらゆる仕事術に勝ります。ビジネスの専門知識や、会計処理能力、語学力、どれもビジネスパーソンの武器にはあると思いますが、『やる気』はすべてを超越し得ます。」(140頁)

同感。

あえて付け加えるならば、モチベーションややる気を「継続させられる」人は本当に強いです。

みんな、最初はモチベーションややる気を持っているものです。

それを1年、2年、5年、10年と持ち続けられるかどうかです。

だんだん慣れてくる、飽きてくる、疲れてくるのです。

それを乗り越えられるほんの一部の人は、見ていて本当に強い。

こればかりは勉強してどうにかなるものではない気がします。

労働時間45 使用者の判断による裁量労働制除外の可否(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、不良な言動等を理由とする降格・裁量労働制除外と解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

日立コンサルティング事件(東京地裁平成28年10月7日・労判1155号54頁)

【事案の概要】

本件は、労働者であるXが、使用者であるY社に対し、違法・無効な解雇を受け、解雇前の降格及び裁量労働制から適用除外も違法・無効であるとして、雇用契約上の権利を有する地位の確認並びに平成25年10月以降の降格、裁量労働制からの適用除外及び解雇の無効を前提とした毎月73万4667円の賃金及び同年9月以前の降格及び裁量労働制からの適用除外の無効を前提とした賃金の未払分の各支払を求めている事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社は、Xに対し、次の金員を支払え。
(1) 金11万2557円及びこれに対する平成25年7月26日から支払済みまで年6分の割合による金員
(2) 金24万3218円及びこれに対する平成25年8月26日から支払済みまで年6分の割合による金員
(3) 金2万2488円及びこれに対する平成25年9月26日から支払済みまで年6分の割合による金員
 Xのその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 裁量労働制は、労働時間の厳格な規制を受けず、労働時間の量ではなく、労働の質及び成果に応じた報酬支払を可能にすることで使用者の利便に資する制度であり、労働者にとっても使用者による労働時間の拘束を受けずに、自律的な業務遂行が可能とする利益があり、裁量労働制に伴って裁量手当その他の特別な賃金の優遇が設けられていれば、その支払を受ける利益もあるから、ある労働者が労働基準法所定の要件を満たす裁量労働制の適用を受けたときは、いったん労働条件として定まった以上、この適用から恣意的に除外されて、裁量労働制の適用による利益が奪われるべきではない
ことに一般的な新卒者採用ではなく、その個別の能力、経歴等を勘案して裁量労働制の適用及び裁量手当を含む賃金が個別労働契約で定められている事情があるときは、労働者の裁量労働制の適用及びこれによる賃金の優遇に対する期待は高い。
Xは、新卒者ではなく、4回にわたる面接その他の審査でコンサルタントとしての能力、経歴等を審査された上、個別労働契約で裁量労働制の適用及び裁量手当を含む年俸が決定され、役職も「シニアコンサルタント」と、コンサルタント業務に従事する社員限定の職名が付せられていたから、このような事情があるといえる。
労働時間に関する労働条件がみだりに変更されるべきでなく、法的安定を確保すべきことは、1か月単位の変形労働時間制において、就業規則に基づく一定の要件を満たす勤務割表等でいったん労働時間を具体的に特定した後の変更は、その予測が可能な程度に変更の具体的事由を定めておく必要があること、労働基準法上は休日の特定は必須でないが、労働契約上いったん特定されれば、休日振替には労働者の個別的同意又は休日を他の日に振り替えることができる旨の就業規則等の明確な根拠を要することにも現れている。
賃金に関する労働条件がみだりに不利益な変更を受けるべきものでないことも無論である。
したがって、個別的労働契約で裁量労働制の適用を定めながら、使用者が労働者の個別的な同意を得ずに労働者を裁量労働制の適用から除外し、これに伴う賃金上の不利益を受忍させるためには、一般的な人事権に関する規定とは別に労使協定及び就業規則で裁量労働制の適用から除外する要件・手続を定めて、使用者の除外権限を制度化する必要があり、また、その権限行使は濫用にわたるものであってはならないと解される(土田道夫「労働契約法」317、322、323頁参照)。

2 Y社は、本件労使協定5条3号は、Y社が労働者の同意を得ることなく裁量労働制の適用を除外できることを認めたものであると主張する。
しかしながら、裁量労働制に関する労使協定は、労働基準法による労働時間の規制を解除する効力を有するが、それだけで使用者と個々の労働者との間で私法的効力が生じて、労働契約の内容を規律するものではなく、労使協定で定めた裁量労働制度を実施するためには個別労働契約、就業規則等で労使協定に従った内容の規定を整えることを要するから、労使協定が使用者に何らかの権限を認める条項を置いても、当然に個々の労働者との間の労働契約関係における私法上の効力が生じるわけではない
本件労働契約、Y社就業規則及び裁量勤務制度規則に本件労使協定5条3号を具体的に引用するような定めは見当たらず、むしろ、本件労使協定は、本件裁量労働制除外措置のあった平成25年6月時点では、労働者に対し、十分周知される措置が取られていなかったことが認められるから、本件労使協定5条3号に従った個別労働契約、就業規則等は整えられていないし、XとY社との間で黙示に本件労使協定5条3号の内容に従った合意が成立していると推認することもできない。

3 Y社は、正当な労働条件変更であれば、Xの同意を要しないとも主張するが、そのような労働条件変更は、就業規則に関する判例法理及び労働契約法10条によるものではなく、就業規則その他の労働契約上の根拠によるものとはいえないから、労働契約法上の合意原則(労働契約法3条1項、8条、9条)の例外とするだけの実定法上の根拠に欠ける
本件裁量労働制除外措置は、特定の労働者を対象としたもので、労働条件の集団的な変更で、個々の労働者から個別に同意を得ることが必ずしも容易でなく、一般的な規則の変更による形式上、個々の労働者に対する恣意的な取り扱いの余地が制限され、労働者一般の利益にかかわり労働組合等との交渉や意見聴取(労働基準法90条1項)を介して労働者の意見を反映される余地もある就業規則の変更による労働条件の変更(就業規則の変更で使用者に一定の範囲で労働条件を変更する権限を定めることを含む。)とは基礎的な条件がかなり異なる。
使用者の作成による就業規則の変更を介さないのであれば、使用者だけでなく、労働者からの労働条件の合理的な変更の余地もあるということになりかねないが、そのような帰結は労働条件の安定を欠く事態を招く。
個々の労働者の同意を得なくても本件裁量労働制の適用から除外できる権限を創設することは、それが合理的なものであれば、本件労使協定及び本件裁量労働制規則の改定で可能であり、直接、本件労働契約をY社のみの意思で変更する必要はない

特段異論のない判断です。

特に上記判例のポイント3はおっしゃるとおりです。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

本の紹介706 負けない作法(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。
負けない作法

著者は、帝京大学ラグビー部監督の方です。

史上初大学選手権8連覇を成し遂げた監督がどのようなことを大切にしているのかがよくわかります。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

『自分づくり』を通して余裕を生むことが目標。自分のことにしか関心を持てないうちは、まだできたとは言えない」(76頁)

「自分のことにしか関心が持てないうちは、まだできたとは言えない」

いい言葉ですね。

前回、紹介した本にも通じるところがありますね。

自分の机の上やその周りしか掃除しないようでは、まだできたとは言えないと。

(いわんや自分の机の上すら掃除ができない人は・・・まあそういうことです。)

義務でないことを率先してやることにより、心の余裕が生まれるので、自分の仕事においても安定して力を発揮できるのではないでしょうか。

他人のためではなく、実は自分のために義務でないことをやるわけです。

まさに「自分づくり」です。

従業員に対する損害賠償請求5 労務不提供等を理由とする損害賠償請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、労務不提供等を理由とする損害賠償等請求と反訴請求に関する裁判例を見てみましょう。

広告代理店A社元従業員事件(福岡高裁平成28年10月14日・労判1155号37頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が、元従業員のXに対し、①Xの労務不提供によりY社に損害が生じた旨、②Y社が外部から請け負ってXに担当させていた業務について、Y社が支払いを受けるべき報酬の支払いをXが受けた旨を主張して、①について、債務不履行に基づく損害賠償、②について、不当利得の返還又は債務不履行に基づく損害賠償を求めるとともに、これらそれぞれについて、遅延損害金の支払いを求め(本訴)、
Xが、Y社に対し、③Y社においてXに時間外労働及び深夜労働をさせた旨、④Xの退職申出に対し、Y社が違法な態様でこれを引き止めた旨を主張して、③について、割増賃金+遅延損害金を求め、④について、不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償+遅延損害金の支払いを求める(反訴)事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、5万円を支払え

Xのその余の請求を棄却

Y社の控訴棄却

【判例のポイント】

1 Y社代表者は、Xを雇用する使用者として、Xから自己がうつ病に罹患しておりY社での業務に耐えられないとの訴えを受けたのであるから、その詐病を疑ったとしても、Xが真にうつ病に罹患しているか、罹患しているとしてY社での業務遂行が可能なものであるかどうかなどを判断するため、Xから診断書を徴収するなどして、これを慎重に確認した上で、仮にXがうつ病に罹患していたことが確認された場合には、その病状を悪化させないよう退職時期に配慮するなどの対応をとるべき雇用契約上の義務(安全配慮義務)を負っていたというべきである。
しかるに、Y社代表者は、これらの措置を何らとることがないまま、Xの退職の申出をかたくなに拒んで後任者への引継ぎがすむまでY社での業務を継続するよう執拗に要請し、なおかつ脅迫文言と受け取られても仕方がない発言に及んでXの意思決定を拘束し、その結果、Xの申出とは真逆の内容が記載された本件誓約書に署名押印させたものというべきである。
したがって、Xが本件誓約書に署名押印するに当たり、物理的強制があったとまでは認められないとしても、Xに対する3月末日限りでの退職申出に対し、後任者が採用され同人に対する引継ぎがされるまで退職を認めないとのY社代表者の措置及びこれに至る経緯は、うつ病であるとの申出をした者に対する説得の態様、時間、方法等に照らし社会的相当性を逸脱するものと評価するほかなく、使用者としての安全配慮義務に反する違法なものと評価せざるを得ない。
・・・もっとも、その慰謝料額については、Xは、上記のとおり社会保険労務士と相談して上記誓約書には従う必要がないとのアドバイスを受けたこともあって、その後週末を挟んで3月17日(月曜日)から同月19日(水曜日)まで出勤したものの、病状の悪化により同月20日(木曜日)以降は欠勤した上、同月22日(土曜日)にはY社事務所に合い鍵を使って立ち入り、本件業務に関するデータをY社に無断で持ち出したこと、XがY社にうつ病のため就労が困難であるなどと記載された診断書を送付したのは同月24日になってからであること、その他本件に表れた諸般の事情を考慮すると、5万円が相当である。

2 付加金について検討するに、付加金支払義務は、裁判所がその支払を命じ、その判決の確定によって初めて発生する義務であって、口頭弁論終結前に未払割増賃金支払義務が消滅したときは付加金支払義務が発生する余地がないと解される。
本件においては、上記未払割増賃金支払義務はXのした相殺の意思表示により消滅しているから、Y社が付加金支払義務を負うと解する余地はない(もっとも、このことを度外視すれば、Y社は、恒常的に時間外労働に対する割増賃金の支払を怠っており、Y社代表者もこれに対し特に問題を感じている様子がうかがえないことやその他本件に現われた諸般の事情を考慮すれば、上記以外の理由によってY社が付加金支払義務を免れると解すべき特段の事情はないというべきである)。

上記判例のポイント1の太字部分は、是非参考にしてください。

上記判例のポイント2の付加金に関してですが、括弧内の内容は蛇足ですかね。

日々の労務管理は顧問弁護士に相談しつつ、慎重に対応しましょう。

本の紹介705 凡事徹底(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は本の紹介です。
凡事徹底 (活学叢書)

著者はイエローハット創業者の方です。

サブタイトルは「平凡を非凡に努める」です。

タイトルもそうですが、これができればたいていのことはうまくいきます。

みんな知っているのですが、やり続けられる人はほんの一握りです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

人間は義務でやらなくてもいいことがどれだけやれるかということが人格に比例していると思います。かつて、私どもの会社にも、自分の車だけは一生懸命磨くけれども、会社の車は汚くしておくという社員がいました。そういう人を見ると、人間的な魅力がありません。やはり、自分の車を放っておいてでも会社の車、あるいは同僚の車を一緒になって磨こうという人は、人間的な魅力がどこかにあります。」(91~92頁)

例えば、職場で自分の机の上、机のまわりだけに限らず、職場全体の掃除を率先してできる人というのは、素晴らしいですよね。

こんなこと、義務でないことはもちろんですが、そういうことを率先してできる人と一緒に仕事がしたいです。

こういう人は、きっと仕事においても配慮のできる人なのだろうな、と善意解釈をしてしまいます。

是非、みなさんも職場において「義務でないこと」を率先してやってみてください。

人生が変わり始めるかもしれませんよ。

賃金137 就業規則変更に伴う賃金・退職金減額と合理性判断(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、新人事制度導入に伴う就業規則の変更と退職金減額の成否に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人早稲田大阪学園事件(大阪地裁平成28年10月25日・労判1155号21頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の教職員であったXらが、新人事制度が施行され就業規則(各種規則等を含む。)が変更されたことで退職金が減額となったが、同変更がXらを拘束しないとして、変更前の規則に基づく退職金と既払退職金との差額及び遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 就業規則の変更によって労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは原則として許されないが、労働条件の集団的処理、特にその統一的、画一的決定を建前とする就業規則の性質上、当該条項が合理的なものである限り、個々の労働者においてこれに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されないと解され(最高裁大法廷昭和43年12月25日判決・民集22巻13号3459頁参照)、当該変更が合理的なものであるとは、当該変更が、その必要性及び内容の両面からみて、これによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認することができるだけの合理性を有するものであることをいい、特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである(最高裁平成12年9月7日第一小法廷判決・民集54巻7号2075頁参照)。

2 以上からすれば、Y社の経営状況は非常に悪化していたといわざるを得ず、経営状態が改善されなければ最悪の場合には解散をも視野に入れざるを得ないこととなる(実際、平成24年4月12日の団体交渉では解散の話にも言及がなされている。)。
解散や整理解雇は、従業員に大きな影響を及ぼすものであることから、その前段階として回避努力を行うことが必要となるところ、既に説示したとおり、生徒数等に鑑みれば、収入が劇的に増加(回復)することは見込めないという状況下においては、支出を削減するという方法によるしかないこととなる。
Y社は、役員数の減少、役員報酬の減額、定期昇給の停止、手当の削減、希望退職の募集等の措置を講じていたものではあるが、前記のとおり、人件費の支出が大きな割合を占めるというY社の性質からすれば、経営状態を改善するためには、上記の各措置のような一時的な対策のみでは効果は限定的であるといわざるを得ず、賃金体系(退職金を含む。)を抜本的に改革するほかなかったといわざるを得ない
そうすると、本件変更には、労働者の退職金等という重要な権利に不利益を及ぼすこととなってもやむを得ない高度の必要性があったと認められる。

3 これらの事情に加えて、Y社が、本件組合に対し、財政状況が悪化しており、放置すれば財政破綻を来すおそれがあることについては少なくとも本件変更の約7年2か月前から説明していることや、本件変更の約11か月前である平成24年6月1日付けで人事制度改革に関する個別相談窓口を設けるなどしていたことをも併せ考慮すれば、Y社は、本件組合あるいは教職員に対し、少なくとも、突如として本件変更の必要性があることを説明したものではなく、以前から、複数回にわたって新人事制度導入の必要性やその内容について説明を行っていたと評価することができ、6期連続赤字という経営状態であっても、直ちに昇給を停止するなどの措置を講じるのではなく、従前の給与規則に基づいて賃金の支払を継続してきたものである。
また、本件変更に係る説明に際しても、本件組合からの要求を受けて資料を開示するなどしていたほか、本件組合との交渉においても、新人事制度が所与のものであって、変更の余地がないというような強硬な態度をとることなく、平成24年度の賞与の支給、昇給の延伸及び激変緩和措置等に関する本件組合の要求を受けて、従前提案していた制度から変更するなど、柔軟な対応をとっていたと評価することができる。
そうすると、全体として、Y社の本件組合あるいは教職員に対する説明の内容・態度は適切なものであったと評価することができ、平成24年4月12日の団体交渉において、書記長が、「平成25年度の改革は考えていただいて結構」、「財政再建策やって頂いて結構」と述べるに至っているのも、その表れと評価することができる。
以上を総合考慮すると、本件変更については、これにより被るXらの不利益は大きいものではあるが、他方で、変更を行うべき高度の必要性が認められ、変更後の内容も相当であり、本件組合等との交渉・説明も行われてきており、その態度も誠実なものであるといえることなどからすれば、本件変更は合理的なものであると認められる。

労働条件の不利益変更のうち、賃金や退職金の減額する場合には、上記のとおり、より一層高度の必要性が求められます。

本件は有効と判断された例ですが、ご覧のとおり、もはやぎりぎりの状態の中で気が遠くなるような準備が必要とされます。

そう簡単にはいかないことは明らかです。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。