おはようございます。
今日は、違法な退職勧奨を理由とする損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。
華為技術日本事件(東京地裁平成29年1月18日・労判ジャーナル62号66頁)
【事案の概要】
本件は、中国の民間企業であるA社との間で有期労働契約を締結し、A社の100%子会社であるY社に出向していたXが、Y社の従業員らから、相当性を逸脱した違法な退職勧奨を受けた結果、契約期間中に退職に追い込まれ、契約期間満了時までの逸失利益及び弁護士費用に相当する損害を被ったと主張して、Y社に対し、不法行為(民法715条)に基づく損害賠償として約9166万円等の支払を求めた事案(なお、Xは、慰謝料の請求はしないことを明らかにしている。)である。
【裁判所の判断】
請求棄却
【判例のポイント】
1 ・・・労働者に対して不当な心理的圧迫を加えるものであり、相当性を逸脱した違法な退職勧奨であるといわざるを得ない。
2 退職の意思決定は労働者の自由意思に委ねられるべきであって、退職勧奨が、そのような意思決定を促す行為としての相当性を逸脱する態様でなされた場合には、当該退職勧奨は、労働者の退職に関する自己決定権を侵害するものとして違法性を有するものというべきところ、退職勧奨自体が、解雇とは異なって、雇用契約の終了という法的効果を生じさせる行為ではなく、雇用契約の終了という法的効果は当該労働者自身の意思決定をまって生じるものであることに鑑みると、退職勧奨が違法であることを理由とした損害賠償の対象となるのは、基本的に、自己決定権を侵害されたことに伴う損害であり、雇用契約の終了に伴う逸失利益を含まないものと解されるから、Xの主張する逸失利益は、Xの退職に関する自己決定権侵害に伴う損害とはいえず、Y社による退職勧奨との間に相当因果関係があるとは認めがたい。
退職勧奨は違法と判断されながら、損害賠償は請求棄却という一見すると不思議な裁判例ですが、上記判例のポイント2がその理由です。
原告側は頑なに逸失利益を請求し、慰謝料については請求しなかったわけです。
確かに慰謝料が認められたとしても金額は知れていますが、だからといって念のためでも請求しなかったというのはなぜでしょう?
いずれにせよ、退職勧奨をする際は、事前に顧問弁護士に相談した上で慎重に対応しましょう。