おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。
今日は、過度の私的なチャットの利用は懲戒解雇事由に相当するが、費やした時間は労働時間とみなされるとされた裁判例を見てみましょう。
ドリームエクスチェンジ事件(東京地裁平成28年12月28日・労経速2308号3頁)
【事案の概要】
本訴事件は、XがY社に対し、平成26年7月8日付け懲戒解雇(予備的に普通解雇)は無効であり、Xは、同年8月11日付けで退職したものであるとして、労働契約に基づき、未払賃金等+遅延損害金、時間外労働に対する割増賃金+遅延損害金の支払いを求める事案である。
反訴事件は、Y社がXに対し、Xの業務中における業務外チャット時間が長時間であり、これを労働時間から控除すると給与が過払いであるとして、不当利得返還請求権に基づき、既払給与金15万8821円+遅延損害金、Xが社内のチャットにおいてY社に対する信用毀損行為をしたとして、不法行為による損害賠償請求権に基づき300万円+遅延損害金の支払いを求める事案である。
【裁判所の判断】
懲戒解雇は有効
Y社はXに対し、未払残業代として235万1993円+遅延損害金を支払え
XはY社に対し、30万円+遅延損害金を支払え
【判例のポイント】
1 本件チャットは、その回数は異常に多いと言わざるを得ないし、概算で同時分になされたチャットを1分で算定すると1日当たり2時間、30秒で換算しても1時間に及ぶものであることからすると、チャットの相手方が社内の他の従業員であること、これまで上司から特段の注意や指導を受けていなかったことを踏まえても、社会通念上、社内で許される私語の範囲を逸脱したものと言わざるを得ず、職務専念義務に違反するものというべきである。
もっとも、職務専念義務違反(業務懈怠)自体は、単なる債務不履行であり、これが就業に関する規律に違反し、職場秩序を乱したと認められた場合に初めて懲戒事由になると解するべきである。
2 ・・・このように、本件チャットの態様、悪質性の程度、本件チャットにより侵害された企業秩序に対する影響に加え、Y社から、本件チャットについて、弁明の機会を与えられた際、Xは、本件チャットのやり取り自体を全部否定していたことからすれば、Y社において、Xは本件懲戒事由を真摯に反省しておらず、Xに対する注意指導を通してその業務態度を改善させていくことが困難であると判断したこともやむを得ないというべきである。
3 チャットの私的利用を行っていた時間を労働時間とみることについては、ノーワーク・ノーペイの原則との関係で問題を生じうるが、チャットの私的利用は、使用者から貸与された自席のパソコンにおいて、離席せずに行われていることからすると、無断での私用外出などとは異なり、使用者において、業務連絡に用いている社内チャットの運用が適正になされるように、適切に業務命令権を行使することができたにもかかわらず、これを行使しなかった結果と言わざるを得ない(Y社代表者も「管理が甘かった」旨述べている。)。
4 Y社は所定労働時間内になされたチャットと所定労働時間外になされたチャットの時間を区別して主張立証するものではないこと、所定労働時間外になされたチャットの態様をみても、いずれも同僚との間でなされたチャットであり、私語として許容される範囲のチャットや業務遂行と並行して行っているチャットとが混然一体となっている面があること、そのため明らかに業務と関係のない内容のチャットだけを長時間に亘って行っていた時間を特定することが困難であることを考慮すれば、所定労働時間外になされたチャットについても、Y社の指揮命令下においてなされたものであり、労働時間に当たるというべきである。
5 本件チャット(信用毀損)は、経理課長の地位にあり、Y社の経理状況を把握しているXにおいて、Y社が平成26年8月か9月には倒産するという事実を摘示するものであるところ、Y社の信用について、社会から受ける客観的評価を低下させるものであり、社内のチャット内での発言とはいえ、チャットに参加していない他の従業員への伝播可能性も十分肯定でき、現に従業員間で伝播していたことからすれば、Y社の信用及び名誉が毀損されたものと認められる。したがって、本件チャット(信用毀損)は、不法行為を構成すると認められる。
上記判例のポイント4を読むと、いかに日頃の労務管理が大切かがよくわかります。
裁判になってからではできることは限られています。
日頃から顧問弁護士等に相談をして予防法務を徹底することを強くおすすめします。