賃金135 退職金減額と労働者の同意の効力(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、吸収合併に伴う消滅信組元職員の退職金減額の効力に関する裁判例を見てみましょう。

山梨県民信用組合(差戻審)事件(東京高裁平成28年11月24日・労判1153号5頁)

【事案の概要】

本件は、A社の職員であったXらが、A社とY社との平成15年1月14日の合併によりXらに係る労働契約上の地位を承継したY社に対し、退職金の支払を求めた事案である。

原審(甲府地判平成24年9月6日)がXらの請求をいずれも棄却したので、Xらがこれを不服として控訴をしたが、差戻し前の控訴審(東京高判平成25年8月29日)は、Xらの控訴をいずれも棄却した。

これに対し、Xらが上告受理の申立てをしたところ、最高裁判所は、これを受理した上、平成28年2月19日、上記控訴審判決を破棄し、本件を東京高等裁判所に差し戻すとの判決を言い渡した。

【裁判所の判断】

請求をほぼ全額認容

【判例のポイント】

1 ・・・このような本件基準変更による不利益の内容等及び本件同意書への署名押印に至った経緯等を踏まえると、管理職Xらが本件基準変更への同意をするか否かについて自ら検討し判断するために必要十分な情報を与えられていたというためには、管理職Xらに対し、旧規程の支給基準を変更する必要性等についての情報提供や説明がされただけでは足りず、自己都合退職の場合には支給される退職金額が0円となる可能性が高くなることや、Xの従前からの職員に係る支給基準との関係でも上記の同意書案の記載と異なり著しく均衡を欠く結果となることなど、本件基準変更により管理職Xらに対する退職金の支給につき生ずる具体的な不利益の内容や程度についても、情報提供や説明がされる必要があったというべきである。

2 本件労働協約は、本件職員組合の組合員に係る退職金の支給につき本件基準変更を定めたものであるところ、本件労働協約書に署名押印をした執行委員長の権限に関して、本件職員組合の規約には、同組合を代表しその業務を統括する権限を有する旨が定められているにすぎないから、上記規約をもって上記執行委員長に本件労働協約を締結する権限を付与するものと解することはできない
そこで、上記執行委員長が本件労働協約を締結する権限を有していたというためには、本件職員組合の機関である大会や執行委員会により上記の権限が付与されていたことが必要であると解される。
これを本件についてみると、・・・本件基準変更を定めた本件労働協約の効力は、組合員Xらに及ばない。

3 この点、Y社は、・・・本件労働協約の締結について追認(民法116条)がされたと主張する。
しかしながら、非管理職向けの職員説明会において、J常務理事が、自己都合退職の場合には支給される退職金が0円となる可能性が高くなることや、Y社の従前からの職員に係る支給基準と比較すると同一水準にはなっていないことなど、本件基準変更により職員に対する退職金の支給につき生ずる具体的な不利益の内容や程度についての情報提供や説明をした事実は認められない
そうすると、Iや組合員Xらを含む本件職員組合の組合員においては、本件基準変更に同意をするか否かについて自ら検討し判断するために必要十分な情報を与えられていなかったというべきであるから、Iが、合併後の労働条件について管理職と同じ内容の労働協約を締結した旨を報告し、その報告に対して他の組合員から質問や異議が出なかったことをもって、本件職員組合の機関である大会又は執行委員会により本件労働協約の締結の権限がIに付与されたとみることはできない。

最高裁判決を踏まえてこのような判断となりました。

労働条件の不利益変更を行う場合には、まずは従業員から同意を得ることを考えますが、その際、上記判例のポイント1を是非参考にしてください。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。