おはようございます。
今日は、長年にわたる住宅補助費の不正受給を理由とする懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。
ドコモCS事件(東京地裁平成28年7月8日・労経速2307号3頁)
【事案の概要】
本訴事件は、Y社が、その社員であったXらに対し、Y社から住宅補助費を不正に受給したとして、Y社の就業規則における賃金精算の定め、詐欺による取消し若しくは錯誤無効に基づく不当利得又は不法行為に基づき(選択的併合)、住宅補助費相当額の金銭支払(X1につき平成24年10月分から平成25年3月分までの合計37万6800円、X2につき平成23年2月分から平成24年9月分まで及び平成25年5月分から同年10月分までの合計163万2800円)を求める事案である。
反訴事件は、Xらが、住宅補助費の不正受給を理由とする懲戒解雇は無効であるとして、労働契約及び不法行為に基づき、労働契約に関する地位の確認、未払の毎月の賃金及び特別手当の支払並びに損害賠償を求める事案である。
【裁判所の判断】
X1は、Y社に対し、金37万6800円を支払え。
X2は、Y社に対し、金138万1600円を支払え。
Y社のX2に対するその余の本訴請求及びXらの反訴請求をいずれも棄却する。
【判例のポイント】
1 懲戒解雇は、就業規則に懲戒解雇に関する根拠規定が存しても、当該懲戒解雇に係る労働者の行為の性質及びその他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして無効となる(労働契約法15条、16条)。
懲戒解雇は最も重い懲戒処分であり、雇用契約上の権利を有する地位の喪失のみならず、労働者の名誉に悪影響を与え、退職金の支給制限等の経済的不利益を伴うことが多いから、懲戒権の行使の中でも特に慎重さが求められる。
2 Xらの住宅補助費申請は少なくとも萩中建物に係るものは住宅補助費の支給要件を満たさない上、Xらは少なくとも未必の故意をもって、共謀の上、その居住実態を偽って住宅補助費を不正に受給している。
その不正受給は、平成18年から平成25年まで7年以上、五百数十万円に及び、過誤取扱通達で返納の対象となり、かつ、まだ返納されていないものだけでも金175万8400円となる。
Xらの萩中建物に係る住宅補助費の申請は申請書、賃貸借契約書等を精査しても予想困難な居住関係及び権利関係を秘したものであるから、Y社が長年これに気付かず、住宅補助費を支給していたことをXらの有利に斟酌すべきではない。
Xらが利得する一方、Y社が受けた財産的被害は多額であり、両者間の信頼関係を著しく破壊するものといわなければならない。
3 労働者は自身の労働契約上の義務に違反する行為に関し、使用者が調査を行おうとするときは、その非違行為の軽重、内容、調査の必要性、その方法、態様等に照らして、その調査が社会通念上相当な範囲にとどまり、供述の強要その他の労働者の人格・自由に対する過度の支配・拘束にわたるものではない限り、労働契約上の義務として、その調査に応じ、協力する義務があると解される。
その調査の過程において、芳しくない態度、ことに虚偽の供述など、積極的に調査を妨げる行為があった場合は、信頼関係をますます破壊し、反省、改善更生といった情状面の評価において、不利益に重視されることもやむを得ないというべきである。
X1は、Y社の事情聴取において、事実関係に関する虚偽の供述を複数回にわたって繰り返しており、X2もこれに同調する態度を示し、自分たちの独自の見解に固執して、不法行為に基づく損害賠償及び不当利得の返還請求権からは大幅に減額されている過誤取扱通達の範囲内の返還にも応じていない。Y社は、Xらに対し、慎重に調査を進め、事情聴取も少なからず実施し、被告らに弁明の機会も十分に与えて、慎重な検討を経て本件解雇を決定したと認められる。
4 ・・・懲戒解雇は懲戒権の行使の中でも特に慎重さが求められることを考慮しても、Y社がXらに対し本件解雇をもって臨んだことが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合に当たるとはいうことはできない。
上記判例のポイント3は頭に入れておきましょう。
調査過程における協力の有無、程度についても解雇の有効性を基礎付ける事情となるということです。
解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。