おはようございます。明日からはゴールデンウィークですね。
また来週お会いしましょう。
今日は、退職金および減額分の賃金支払請求に関する裁判例を見てみましょう。
ユニデンホールディングス事件(東京地裁平成28年7月20日・労経速2302号3頁)
【事案の概要】
本件は、Y社の元従業員であるXが、Y社に対し、①雇用契約に基づき、退職金+遅延損害金の支払、②雇用契約に基づき、未払賃金+遅延損害金の支払、③在職中の苛酷な労働環境により精神的に不調に陥ったとして、不法行為に基づく慰謝料+遅延損害金の支払を求める事案である。
【裁判所の判断】
1 Y社は、Xに対し、1466万6667円+遅延損害金を支払え。
2 Y社は、Xに対し、896万3740円+遅延損害金を支払え。
【判例のポイント】
1 Xは、平成23年6月1日、Y社との間で、本件雇用契約を締結するとともに、その際、本件合意をしたと主張して、本件通知書を提出し、Y社は、Xと雇用契約を締結したが、本件合意をしたことはなく、本件通知書の被告作成部分について、文書の成立の真正を争うので検討する。
証拠によれば、本件通知書のY社の代表取締役の記名部分に押印されている印影は、Y社の総務部長印の印影と一致していることが認められ、これによれば、本件通知書の被告の記名押印部分は真正なものと推認され、したがって、民事訴訟法228条により、Y社作成部分の全部が真正に成立したものと推定される。そして、本件通知書のX作成部分は、証拠により真正に成立したものと認められるので、本件通知書は、文書全体が真正に成立したものと認められる。
2 Y社は、本件規程に基づき、本件賃金減額をした旨主張する。
そこで検討するに、使用者が、個々の労働者の同意を得ることなく賃金減額を実施した場合において、当該減額が就業規則上の賃金減額規程に基づくものと主張する場合、賃金請求権が、労働者にとって最も重要な労働契約上の権利であることにかんがみれば、当該賃金減額規程が、減額事由、減額方法、減額幅等の点において、基準としての一定の明確性を有するものでなければ、そもそも個別の賃金減額の根拠たり得ないものと解するのが相当である。
本件規程は、給与の減額について、「担当職務の見直しに合わせ、給与の見直しを行う場合がある。見直し幅は、都度決定する。」と定めているが、当該規程では、減額方法、減額幅等の基準が示されているということはできない。したがって、本件規程が、個別の賃金減額の根拠になるということはできないから、本件規程に基づく本件賃金減額は無効であると言わざるを得ない。
なお、Y社は、Xが、本件降格を受け入れ、課長職として人材開発業務に従事していたことからすれば、Xは、本件賃金減額を了解していたといえる旨主張する。しかしながら、賃金の減額に対する労働者の同意の有無については、労働者が自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも判断されるべきものと解するのが相当であるところ(最高裁昭和48年1月19日判決、最高裁平成2年11月26日判決、最高裁平成28年2月19日判決等参照)、本件において、Xが自由な意思で本件賃金減額に同意したものと認めるに足りる的確な主張立証はない。
賃金や退職金の減額については、単に労働者の同意があればそれでよいということにはならないので注意しましょう。
上記最高裁の規範を前提にどのようなプロセスを踏めば有効とされるのか、顧問弁護士に相談しながら進めていくことをおすすめします。