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今日は、うつ病に罹患し休職後解雇された元従業員からの損害賠償請求等に関する裁判例を見てみましょう。
東芝事件(東京高裁平成28年8月31日・労経速2298号3頁)
【事案の概要】
本件は、Y社の従業員であったXが、鬱病に罹患して休職し、休職期間満了後にY社から解雇されたことにつき、上記鬱病はY社における過重な業務に起因するものであるから、上記解雇は労働基準法19条1項本文等に違反する無効なものであると主張して、Y社に対し、安全配慮義務違反等による債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求としての休業損害や慰謝料等の支払及びY社の会社規程に基づく見舞金等の支払を求める事案である。
【裁判所の判断】
1(損害賠償・休業損害を除いた慰謝料等)
Y社は、Xに対し、603万4000円+遅延損害金(年5分)を支払え。
2(損害賠償・休業損害)
Y社は、Xに対し、5186万0526円+遅延損害金(年5分)を支払え。
3(同上)
Y社は、Xに対し、平成28年6月25日から本判決確定の日まで、毎月25日限り月額47万3831円+遅延損害金(年5分)を支払え。
4(見舞金)
Y社は、Xに対し、160万円+遅延損害金(年5分)を支払え。
【判例のポイント】
1 見舞金支払請求権の遅延損害金の利率について検討すると、上記見舞金を規定している本件見舞金規程は、社員の業務上の傷病に対する見舞金、社員の住居の被災に対する災害見舞金及び社員又はその家族の死亡に対する弔慰金について定めることを目的として制定されたものであり(1条)、また、見舞金は、同規定の定める要件を満たした場合に社員に対して贈与するものされていること(3条(1),4条1項)が認められる。
このような本件見舞金規程の目的や見舞金の性質等に照らすと、同規程に基づく見舞金支払債務が商法514条の「商行為によって生じた債務」に該当すると解することはできないから、見舞金支払請求権の遅延損害金の利率について,同条の適用はないことになる。
2 労災保険法に基づく休業補償給付は、労働者が業務上の事由等による負傷又は疾病により労働することができないために受けることができない賃金を填補するために支給されるものであるから(1条、14条)、填補の対象となる損害と同性質であり、かつ、相互補完性を有する関係にある休業損害の元本との間で損益相殺的な調整を行うべきであるが、休業損害に対する遅延損害金に係る債権は、飽くまでも債務者の履行遅滞を理由とする損害賠償債権であって、遅延損害金を債務者に支払わせることとしている目的は、休業補償給付の目的とは明らかに異なるものであるから、休業補償給付による填補の対象となる損害が、遅延損害金と同性質であるということも、相互補完性があるということもできない。したがって、遅延損害金との間で損益相殺的な調整を行うことは相当ではないというべきである(最高裁判所平成22年9月13日第1小法廷判決・民集64巻6号1626頁,前掲最高裁判所平成27年3月4日大法廷判参照)。
また、休業補償給付は、填補の対象となる損害が現実化する都度ないし現実化するのに対応して定期的に支給されることが予定されていることなどを考慮すると、制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞するなどの特段の事情のない限り、その填補の対象となる損害はそれが発生した時、すなわち、本件でいえば、各月分の休業損害について、これが発生する翌月25日に填補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整をすることが公平の見地からみて相当であるというべきである(上記各判決参照)。
非常にマニアックな論点ですが、実務においては知っておかなければいけません。
労災発生時には、顧問弁護士に速やかに相談することが大切です。