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今日は時間外労働の限度基準を超える業務手当(定額残業手当代)が有効とされた裁判例を見てみましょう。
コロワイドMD(旧コロワイド東日本)事件(東京高裁平成28年1月27日・労判1171号76頁)
【事案の概要】
本件は、Xが、Y社に対し、在職中の時間外、休日、深夜労働等についての割増賃金及び付加金を請求した事案である。
【裁判所の判断】
控訴棄却
【判例のポイント】
1 Xは、Y社が業務手当は月当たり時間外労働70時間、深夜労働100時間の対価として支給されているとするが、平成10年12月28日労働省告示第154号所定の月45時間を超える時間外労働をさせることは法令の趣旨に反するし、36協定にも反するから、そのような時間外労働を予定した定額の割増賃金の定めは全部又は一部が無効であると主張する。
しかし、上記労働省告示第154号の基準は時間外労働の絶対的上限とは解されず、労使協定に対して強行的な基準を設定する趣旨とは解されないし、Y社は、36協定において、月45時間を超える特別条項を定めており、その特別条項を無効とすべき事情は認められないから、業務手当が月45時間を超える特別条項を定めており、その特別条項が月45時間を超える70時間の時間外労働を目安としていたとしても、それによって業務手当が違法になるとは認められない。
2 また、Xは、36協定で特別条項が設けられていたとしても、臨時的な特別な事情が存在し、Y社が組合に特別条項に基づき時間外労働を行わせることを通知し、特別条項により定められた制限の範囲内でなければ特別条項に基づく時間外労働として適法とは認められないから、特別条項の要件を充足しない時間外労働を予定した業務手当の定めは無効であると主張する。
しかし、業務手当が常に36協定の特別条項の要件を充足しない時間外労働を予定するものであるということはできないし、また、仮に36協定の特別条項の要件を充足しない時間外労働が行われたとしても、割増賃金支払業務は当然に発生するから、そのような場合の割増賃金の支払も含めて業務手当として給与規程において定めたとしても、それが当然に無効になると解することはできない。
3 (原審・横浜地裁平成26年9月3日)Xは、残業代の支払の有無は、罰則規定が適用されるか否かにもかかわる上、労働者が適切に残業代が支払われたかを検証することができるよう、固定残業代に対応する想定時間が明示されることが必要であるところ、Y社の業務手当の定めにはその想定時間が明示されていないこと、Y社の給与規程15条1項の規定は、時間外勤務手当、深夜勤務手当、休日勤務手当、休日深夜手当と割増率の異なる割増賃金を業務手当という単一項目で支払うことになっているので、適切に支払われているか検証することができないこと、などを指摘し、これらの点からすると、Y社の業務手当に関する規定は、労働基準法37条に違反して無効であると主張している。
しかし、その明示すべき労働条件について、労働基準法15条及び同法施行規則5条は、固定残業代に対応する想定時間の明示を求めていない。また、業務手当として支払われている額が明示されている以上、法に定める割増率をもとに、労働基準法所定の残業代が支払われているかを計算して検証することは十分に可能であり、Y社は現に計算を行ったものを書証として提出している。
以上からすると、Y社の業務手当に関する規定は、そもそも残業代を支払う旨を定めているにすぎない労働基準法37条に違反しているとはいえないし、残業代の支払の定め方として無効であるともいえないというべきである。
重要な判例ですので、是非押さえておきましょう。
これまでの固定残業制度に対する裁判所の厳しい評価とは異なるものですね。
なお、同事件は、その後、上告、上告受理申立てがされましたが、上告棄却、上告不受理とされています(最判平成28年7月12日)。
残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。