おはようございます。
今日は、休職期間経過後の退職扱いが労基法19条違反であるとして無効とされた裁判例を見てみましょう。
ケー・アイ・エス事件(東京地裁平成28年6月15日・労経速2296号17頁)
【事案の概要】
本件は、Y社の従業員であったXが、腰痛を発症し、これを悪化させて就労不能な状態となってY社を休職していたところ、所定の休職期間が経過した後にY社がXを退職扱いにしたことから、上記腰痛はY社において重量物を持ち上げる作業が原因で発症したものであり、Y社の措置は労働基準法19条に違反し無効であるとして、Y社に対し、雇用契約上の地位の確認を求めるとともに、Xが腰痛を発症・悪化させたのはY社に腰痛予防のための必要な措置を講じなかった安全配慮義務違反・過失があったことによるものであるとして、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償金として、休職後の給与相当額及び賞与相当額並びに、慰謝料500万円、弁護士費用120万円、遅延損害金の支払いを求めている事案である。
【裁判所の判断】
退職扱いは無効
Y社はXに対し、慰謝料160万円、弁護士費用70万円を支払え
【判例のポイント】
1 ・・・以上によれば、Y社がXを平成24年1月20日限りで退職扱いにしたことは、業務上の負傷等による療養のために休業する期間中の解雇に相当し、労働基準法19条1項に違反する無効な措置であるから、Xは、Y社に対し、依然として、雇用契約上の権利を有するものというべきである。
2 労働省(当時)において、腰痛予防対策の指針が定められて通達が発出され、その周知の措置がとられていることは前記のとおりであり、Xの従事していた作業において腰部にかかる負荷が、上記指針の定める絶対的な重量、体重比の重量を超過していたものと認められる一方、Y社にあっては、上記指針の定める腰痛の発生の要因の排除又は軽減のための方策が何ら講じられていないものと認められる。
そして、そうした方策が講じられていれば、Xの腰痛の発症、悪化について回避できた蓋然性は高かったものといえることからすれば、Y社は労働者の身体の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮を尽くしていない安全配慮義務違反があり、また、Xが従事していた殺菌工程を具体的に管理していた担当者において過失があったものと認められ、Y社にはXの腰痛の発生に伴って生じた損害につき債務不履行又は不法行為に基づく賠償責任を負うべきである。
3 ・・・こうした自転車の長距離、長期間にわたる使用を始めとして、医療機関の受診状況その他、腰痛発症後のXの行動等が腰痛に悪影響を与えた可能性は少なからず存在する。そもそもXに生じた腰痛に関しては画像上の他覚的な所見があるわけではなく、その発生機序については客観的に未解明なところも多々残されており、X固有の器質的要因や社会的、精神的、心理的要因が影響している可能性は小さなものではない。これらの事情からすると、Xの腰痛によって生じた全ての損害についてY社に責任を負わせることは衡平の観点からして躊躇を覚えるところである。以上の考慮に基づき、本件に表れた一切の事情を斟酌すると、Y社の債務不履行、不法行為上の責任については、過失相殺の法理を類推適用して、損害の8割相当額について賠償の責めを負わせるのが相当である。
最近では、労基法19条は、業務に起因してうつ病等に罹患し休職したケースでよく問題とされますが、本件では、腰痛の事案です。
解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。