Monthly Archives: 2月 2017

セクハラ・パワハラ25 同僚職員に対する土下座要求とその場にいた他の従業員に対する不法行為該当性(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、亡郵便局員の致死性不整脈突発死に基づく損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

日本郵便事件(福岡高裁平成28年10月25日・労判ジャーナル58号30頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の設置するA郵便局、B郵便局等の郵便局において郵便局員として稼働していたXについて、Xが病気休職中に、当時所属していたC郵便局の駐車場に駐車した車両内において、ストレスを原因とする致死性不整脈を突発して死亡したのは、Xがその上司である郵便局長らからいわゆるパワーハラスメントを受けたためであるなどと主張して、不法行為又は債務不履行による損害賠償請求権に基づき、Xに生じた損害金の一部である1億円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

慰謝料300万円を認容

【判例のポイント】

1 Z局長が、C郵便局の職員朝礼の際に、Xの同僚の職員を他の職員の前で土下座させたものであって、たとえ、それがXに対して行われたものでなかったとしても、Xを含むその場にいたすべての職員に対する関係においても不法行為を構成するものであり、Xを含む職員に対する安全配慮義務に違反する行為であったと認めるのが相当であり、また、Z局長からXに対する、「窓口には、就かせられん」、「いつ辞めてもらってもいい」などという発言は、Xがうつ病に罹患していることを知っていた上司であるX局長が、窓口業務を希望していたXに対してする発言としては不適切であり社会通念上の相当性を欠くものであることは明らかであって、不法行為に該当し、Y社に安全配慮義務違反があったといわざるを得ず、さらに、うつ病により病気休暇を取得していたXが職場復帰を求めた際の面談において、Xに対して職場復帰の時期を遅らせることを強く求めた言動も、不法行為に該当し、また、Y社に安全配慮義務違反があったと優に認めることができる。

2 本件言動とXが被った精神的苦痛及びXのうつ病の増悪との間に相当因果関係を認めるのが相当であり、Z局長の職員に土下座をさせるという社会的相当性を欠いた本件言動に直面したXが、息苦しさを覚えたものであり、本件言動を目撃したXが精神的苦痛を被ったことは優に推認され、Z局長による本件言動とこれによりXが被った精神的苦痛及びXのうつ病の増悪との間には、相当因果関係が認められるが、他方で、Xの死亡と、本件言動との間に相当因果関係を認めることはできない

3 Xが精神的苦痛を受けたことに対する慰謝料としては、その不法行為又は安全配慮義務違反の程度や、これらによってXのうつ病が増悪したことに照らすと、300万円が相当であると認められ、損害額の算定にあたり、Xがうつ病に罹患していたこと等を踏まえても、過失相殺及び素因減額すべきでない。

Xに対して土下座をさせたものではないけれど、その場にいたXを含む職員全員に対しても不法行為を構成するとされていますが、そういうものでしょうか・・・?

自分がXの代理人だとして、このような主張をしたか(できたか)自信がありません。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

本の紹介648 これ、いったいどうやったら売れるんですか?(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は本の紹介です。
これ、いったいどうやったら売れるんですか? 身近な疑問からはじめるマーケティング (SB新書)

「100円のコーラを1000円で売る方法」の著者の本です。

マーケティングってどうやればいいのかをわかりやすく教えてくれています。

考え方の基礎を学ぶにはとてもいい本です。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

私も商品開発をやっていたので実感するのだが、商品開発の現場では商品を開発することが常に頭の中にあるので、いつの間にかお客さんのことをすっかり忘れて、商品を中心に考え、『バカの壁』のようにプロダクトアウトに陥ることがとても多い。このプロダクトアウトに陥らないようにするための2つの魔法の言葉がある。
『そもそも、お客さんって誰だっけ?』
『これってお客さんにとって、何がいいの?』
もし商品開発に行き詰ったら、この2つの言葉が必ずヒントになるはずだ。」(80頁)

日本の製品によく見られることですよね。

お客さんはそんなこと求めていないのに、終わりのない商品開発に没頭してしまうということ。

独りよがりになっていないか、

顧客のためのサービスになっているか

を考え続ける習慣を身につけることが大切ですね。

労働時間43 黙示の指揮命令の有無と労働時間該当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、労基法上の労働時間に基づく未払時間外割増賃金等支払請求に関する裁判例を見てみましょう。

武藤事件(東京地裁平成28年9月16日・労判ジャーナル58号51頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結していたXが、Y社に対し、時間外及び休日労働並びに所定労働時間を超えた法定労働時間内の労働を行ったと主張して、労働契約に基づいて、割増賃金約228万円及び法内残業分の未払賃金49万1054円等の支払を求めるとともに、労働基準法114条に基づいて、付加金約210万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社代表者は、本件雇用契約書を取り交わすに当たり、従業員に対し、通常業務として、催事が開催される際に従業員が自らの商品の搬入、陳列、販売及び搬出を行うことを命じたことはない旨の陳述・供述をしており、X本人も、当然に自分が行うものであると思っていた旨の陳述・供述をしているにとどまることからすると、他に特段の事情のない限り、Xが通常業務として自ら商品の搬入、陳列、販売及び搬出を行うことをY社から義務付けられていたと認めることはできないところ、本件全証拠を検討してみても、特段の事情があると認めるに足りる証拠はないこと等から、たとえXが所定労働時間外に自ら商品の搬入、陳列、販売及び搬出を行うことがあったとしても、当該行為がY社の指揮命令下に置かれていたものと評価することはできず、これに要した時間が労基法32条の労働時間に該当するということはできないから、Xの割増賃金及び法内残業分の未払賃金の請求並びに付加金請求は、いずれも理由がない。

労働者自身も明示の指揮命令の存在を認めていないようです。

そうすると、裁判所に黙示の指揮命令の存在を認定してもらうほかありませんが、ここはクリアできなかったようです。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

本の紹介647 堀江貴文 人生を変える言葉(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。
堀江貴文 人生を変える言葉

堀江さんのこれまでの本やブログ、メルマガから「人生を変える言葉」を抜粋した本です。

この本を読んだだけでは当然人生を変えることはできませんが、

今までの自分とは違う価値観、考え方に触れることが人生を変える第一歩になることはあると思います。

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

人より何倍も情報収集ができれば、必ず未来が見えてくる。未来が見えるようになれば、必ず勝てる。」(186頁)

今君たちに最も必要なのは、資金でも人脈でもない。情報だ。情報を所持するということは、未来を見ることだ。・・・後追いで動いている人は、損をして当たり前だ。」(192頁)

堀江さんらしい考え方です。

情報の重要性をこれでもかというほど説いています。

情報格差はそのまま経済格差につながってしまう、そういう時代です。

知っているか知らないか。

ただそれだけで勝負がついてしまうことがたくさんあります。

人より何倍も情報収集ができれば、必ず未来が見えてくる。」という言葉は重いですね。

そして、「未来が見えるようになれば、必ず勝てる。

まさに仰るとおりだと思います。

さて、情報収集のためにみなさんは何をしますか?

有期労働契約70 有期労働契約の無期転換移行に関する労働者の期待保護の要否(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、有期労働契約の無期契約移行の可否に関する最高裁判決を見てみましょう。

福原学園事件(最高裁平成28年12月1日・ジュリ1502号4頁)

【事案の概要】

本件はY社との間で期間の定めのある労働契約を締結し、Y社の運営する短期大学の教員として勤務していたXが、Y社による雇止めは許されないものであると主張して、Y社を相手に、労働契約上の地位の確認及び雇止め後の賃金の支払を求める事案である。

原審(福岡高裁平成26年12月12日)は、上記の事実関係等の下で、本件雇止めの前に行われた2度の雇止めの効力をいずれも否定して本件労働契約の1年ごとの更新を認めた上で、要旨次のとおり判断し、本件労働契約が平成26年4月1日から期間の定めのない労働契約に移行したとして、Xの請求をいずれも認容すべきものとした。

採用当初の3年の契約期間に対するXの認識や契約職員の更新の実態等に照らせば,上記3年は試用期間であり、特段の事情のない限り、無期労働契約に移行するとの期待に客観的な合理性があるものというべきである。Y社は、本件雇止めの効力を争い、その意思表示後も本件訴訟を追行して遅滞なく異議を述べたといえる以上、本件雇止めに対する反対の意思表示をして無期労働契約への移行を希望するとの申込みをしたものと認めるのが相当である。そして、Y社においてこれまでの2度にわたる雇止めがいずれも客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない結果更新され、その後無期労働契約への移行を拒むに足りる相当な事情が認められない以上、Y社は上記申込みを拒むことはできないというべきである。したがって、本件労働契約は無期労働契約に移行したものと認めるのが相当である。

【裁判所の判断】

原判決中、Xの労働契約上の地位の確認請求及び平成26年4月1日以降の賃金の支払請求を認容した部分を破棄し、同部分につき第1審判決を取り消す。

前項の部分に関するXの請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 本件労働契約は、期間1年の有期労働契約として締結されたものであるところ、その内容となる本件規程には、契約期間の更新限度が3年であり、その満了時に労働契約を期間の定めのないものとすることができるのは、これを希望する契約職員の勤務成績を考慮してY社が必要であると認めた場合である旨が明確に定められていたのであり、Xもこのことを十分に認識した上で本件労働契約を締結したものとみることができる。
上記のような本件労働契約の定めに加え、Xが大学の教員としてY社に雇用された者であり、大学の教員の雇用については一般に流動性のあることが想定されていることや、Y社の運営する三つの大学において、3年の更新限度期間の満了後に労働契約が期間の定めのないものとならなかった契約職員も複数に上っていたことに照らせば、本件労働契約が期間の定めのないものとなるか否かは、Xの勤務成績を考慮して行うY社の判断に委ねられているものというべきであり、本件労働契約が3年の更新限度期間の満了時に当然に無期労働契約となることを内容とするものであったと解することはできない
そして,前記の事実関係に照らせば、Y社が本件労働契約を期間の定めのないものとする必要性を認めていなかったことは明らかである。
また、有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換について定める労働契約法18条の要件をXが満たしていないことも明らかであり、他に、本件事実関係の下において、本件労働契約が期間の定めのないものとなったと解すべき事情を見いだすことはできない。
以上によれば、本件労働契約は、平成26年4月1日から期間の定めのないものとなったとはいえず、同年3月31日をもって終了したというべきである。

労働事件特有な労働者保護の考え方を知らない人がこの最高裁判決を読めば、「そりゃそうでしょ。」「そう考える以外に考えようがないんじゃないの。」と思うのではないでしょうか。

無期労働契約への転換に対する労働者の期待が法的保護する値するようなものかどうかがポイントになってきます。

大切なことは、契約内容を明確にすること、更新時の手続きをしっかり行うことなど、プロセスを軽視しないということです。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

本の紹介646 成功する練習の法則(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。
成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール

サブタイトルは、「最高の成果を引き出す42のルール」です。

全米で話題のカリスマ教師が明かす、ビジネスに活かせる最強メソッド」だそうです。

間違った練習をいくらしても上達しません。

この本では、どうやったら成功する練習ができるのか、正しい練習のしかたとは何かを教えてくれています。

先生やコーチにはとても参考になる本だと思います。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

勝ちたいという意志は誰もが持っているが、勝つための準備をするだけの意志を持っている人はほとんどいない。-ボビー・ナイト」(15頁)

成功したいという気持ちが強いかどうかは問題ではないと思っています。

成功するためにどれだけの準備、どれだけの努力をすることができるかが問題なのです。

大きな目標を掲げても、それに見合う準備・努力をしなければ結果など出るはずがありません。

人が休んでいるときにどれだけ準備・努力できるか。

今も昔もそこで勝負がついているのだと確信しています。

賃金125 時間外労働の限度基準を超える固定残業代の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は時間外労働の限度基準を超える業務手当(定額残業手当代)が有効とされた裁判例を見てみましょう。

コロワイドMD(旧コロワイド東日本)事件(東京高裁平成28年1月27日・労判1171号76頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社に対し、在職中の時間外、休日、深夜労働等についての割増賃金及び付加金を請求した事案である。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 Xは、Y社が業務手当は月当たり時間外労働70時間、深夜労働100時間の対価として支給されているとするが、平成10年12月28日労働省告示第154号所定の月45時間を超える時間外労働をさせることは法令の趣旨に反するし、36協定にも反するから、そのような時間外労働を予定した定額の割増賃金の定めは全部又は一部が無効であると主張する。
しかし、上記労働省告示第154号の基準は時間外労働の絶対的上限とは解されず労使協定に対して強行的な基準を設定する趣旨とは解されないし、Y社は、36協定において、月45時間を超える特別条項を定めており、その特別条項を無効とすべき事情は認められないから、業務手当が月45時間を超える特別条項を定めており、その特別条項が月45時間を超える70時間の時間外労働を目安としていたとしても、それによって業務手当が違法になるとは認められない

2 また、Xは、36協定で特別条項が設けられていたとしても、臨時的な特別な事情が存在し、Y社が組合に特別条項に基づき時間外労働を行わせることを通知し、特別条項により定められた制限の範囲内でなければ特別条項に基づく時間外労働として適法とは認められないから、特別条項の要件を充足しない時間外労働を予定した業務手当の定めは無効であると主張する。
しかし、業務手当が常に36協定の特別条項の要件を充足しない時間外労働を予定するものであるということはできないし、また、仮に36協定の特別条項の要件を充足しない時間外労働が行われたとしても、割増賃金支払業務は当然に発生するから、そのような場合の割増賃金の支払も含めて業務手当として給与規程において定めたとしても、それが当然に無効になると解することはできない

3 (原審・横浜地裁平成26年9月3日)Xは、残業代の支払の有無は、罰則規定が適用されるか否かにもかかわる上、労働者が適切に残業代が支払われたかを検証することができるよう、固定残業代に対応する想定時間が明示されることが必要であるところ、Y社の業務手当の定めにはその想定時間が明示されていないこと、Y社の給与規程15条1項の規定は、時間外勤務手当、深夜勤務手当、休日勤務手当、休日深夜手当と割増率の異なる割増賃金を業務手当という単一項目で支払うことになっているので、適切に支払われているか検証することができないこと、などを指摘し、これらの点からすると、Y社の業務手当に関する規定は、労働基準法37条に違反して無効であると主張している。
しかし、その明示すべき労働条件について、労働基準法15条及び同法施行規則5条は、固定残業代に対応する想定時間の明示を求めていない。また、業務手当として支払われている額が明示されている以上、法に定める割増率をもとに、労働基準法所定の残業代が支払われているかを計算して検証することは十分に可能であり、Y社は現に計算を行ったものを書証として提出している
以上からすると、Y社の業務手当に関する規定は、そもそも残業代を支払う旨を定めているにすぎない労働基準法37条に違反しているとはいえないし、残業代の支払の定め方として無効であるともいえないというべきである。

重要な判例ですので、是非押さえておきましょう。

これまでの固定残業制度に対する裁判所の厳しい評価とは異なるものですね。

なお、同事件は、その後、上告、上告受理申立てがされましたが、上告棄却、上告不受理とされています(最判平成28年7月12日)。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

本の紹介645 世界最強の商人(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は本の紹介です。
世界最強の商人 (角川文庫)

物語形式になっており、ストーリーを通じて、成功するために必要な要素について教えてくれています。

結局、いつの世も、成功するために必要な要素は変わらないことを確認させてくれます。

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

成功するためには障害はつきものだ。なぜならば、物を売るとき、他の重要な仕事と同じように、勝利は多くの努力と数えきれないほどの敗北の後にしかやってこないからだ。しかし、一つひとつの努力とそれぞれの敗北が、お前の技術、強さ、勇気、忍耐力、能力、自信を磨き上げてくれる。そして障害物の一つひとつがお前をよりよくするための・・・・・・またはあきらめさせるための同志なのだ。挫折こそ前進するチャンスなのだ。そこから逃げ出し、そこを避けようとすると、お前は未来を捨ててしまうことになる」(46頁)

挫折こそ前進するチャンスなのだ。そこから逃げ出し、そこを避けようとすると、お前は未来を捨ててしまうことになる

いい言葉ですね。

仕事でもスポーツでもそうですよね。

挫折・失敗を経験することなく成功・勝利することなどありません。

そう考えると、挫折や失敗は、ある意味、成功・勝利の必要条件とさえ思えていきます。

必ず挫折や失敗を経験しなければゴールにはたどり着けないと信じることがとても大切です。

このように考えれば、挫折や失敗をしても、あきらめる理由にはなりません。

辛い状況から逃げ出さず、また避けようとせず、見城さんの言葉を借りるならば、「正面突破」しかありません。

もうそれしかないと覚悟を決めるのです。

解雇224 休職期間満了による退職扱いが労基法19条違反とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、休職期間経過後の退職扱いが労基法19条違反であるとして無効とされた裁判例を見てみましょう。

ケー・アイ・エス事件(東京地裁平成28年6月15日・労経速2296号17頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、腰痛を発症し、これを悪化させて就労不能な状態となってY社を休職していたところ、所定の休職期間が経過した後にY社がXを退職扱いにしたことから、上記腰痛はY社において重量物を持ち上げる作業が原因で発症したものであり、Y社の措置は労働基準法19条に違反し無効であるとして、Y社に対し、雇用契約上の地位の確認を求めるとともに、Xが腰痛を発症・悪化させたのはY社に腰痛予防のための必要な措置を講じなかった安全配慮義務違反・過失があったことによるものであるとして、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償金として、休職後の給与相当額及び賞与相当額並びに、慰謝料500万円、弁護士費用120万円、遅延損害金の支払いを求めている事案である。

【裁判所の判断】

退職扱いは無効

Y社はXに対し、慰謝料160万円、弁護士費用70万円を支払え

【判例のポイント】

1 ・・・以上によれば、Y社がXを平成24年1月20日限りで退職扱いにしたことは、業務上の負傷等による療養のために休業する期間中の解雇に相当し、労働基準法19条1項に違反する無効な措置であるから、Xは、Y社に対し、依然として、雇用契約上の権利を有するものというべきである。

2 労働省(当時)において、腰痛予防対策の指針が定められて通達が発出され、その周知の措置がとられていることは前記のとおりであり、Xの従事していた作業において腰部にかかる負荷が、上記指針の定める絶対的な重量、体重比の重量を超過していたものと認められる一方、Y社にあっては、上記指針の定める腰痛の発生の要因の排除又は軽減のための方策が何ら講じられていないものと認められる。
そして、そうした方策が講じられていれば、Xの腰痛の発症、悪化について回避できた蓋然性は高かったものといえることからすれば、Y社は労働者の身体の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮を尽くしていない安全配慮義務違反があり、また、Xが従事していた殺菌工程を具体的に管理していた担当者において過失があったものと認められ、Y社にはXの腰痛の発生に伴って生じた損害につき債務不履行又は不法行為に基づく賠償責任を負うべきである。

3 ・・・こうした自転車の長距離、長期間にわたる使用を始めとして、医療機関の受診状況その他、腰痛発症後のXの行動等が腰痛に悪影響を与えた可能性は少なからず存在する。そもそもXに生じた腰痛に関しては画像上の他覚的な所見があるわけではなく、その発生機序については客観的に未解明なところも多々残されており、X固有の器質的要因や社会的、精神的、心理的要因が影響している可能性は小さなものではない。これらの事情からすると、Xの腰痛によって生じた全ての損害についてY社に責任を負わせることは衡平の観点からして躊躇を覚えるところである。以上の考慮に基づき、本件に表れた一切の事情を斟酌すると、Y社の債務不履行、不法行為上の責任については、過失相殺の法理を類推適用して、損害の8割相当額について賠償の責めを負わせるのが相当である。

最近では、労基法19条は、業務に起因してうつ病等に罹患し休職したケースでよく問題とされますが、本件では、腰痛の事案です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介644 アイデアの接着剤(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。
アイデアの接着剤 (朝日文庫)

著者は、アートディレクター、クリエイティディレクターの方です。

タイトルからもわかるとおり、アイデアとアイデアのくっつけ方のお話をしています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

主観で何かをつくったら、必ず客観性で答え合わせをしましょう。
感覚で生み出したものは、理論で再確認。
理論で構築したものは、感覚でとらえ直してみる。
客観性と主観性。
左脳と右脳。
理論と感覚。
両方を行き来することで、より幅広く、深みのあるものがつくれるようになります。」(51頁)

頭でわかってもなかなかすぐにできるものではありません。

自分がとても良いと思っているものも、1日、2日寝かせて、改めて別の角度から見直してみると、さらによくなる視点が見つかることがよくありますよね。

1日、2日寝かせることによって、冷静に見返すことができるからなのでしょうね。

見返すときには、あえて意識的に別の視点で検証してみるということが大切なのでしょうか。