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今日は、業務遂行能力の欠如に基づく解雇無効地位確認等請求に関する裁判例を見てみましょう。
N社事件(東京地裁平成28年8月30日・労判ジャーナル57号29頁)
【事案の概要】
本件は、ガスフィルターの開発製造業者であるY社の元従業員Xが、業務遂行能力の欠如を理由に解雇されたが、同解雇には客観的に合理的な理由がなく社会通念上の相当性もないから無効であるとして、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、同解雇日以降の毎月の賃金、賞与及び減額された差額分2000円等の支払を求めた事案である。
【裁判所の判断】
解雇は無効
【判例のポイント】
1 Y社が実施したプレゼンテーション研修は平成25年6月から同年9月の間に行われ、平成25年度の業務査定では中位の「E」評価がされていること、開発プロジェクト1は同年6月に開始し、開発プロジェクト2は同年12月に開始し、Y社は平成26年1月に上記査定をした時点以降も、いずれのプロジェクトもXにそのまま担当させる判断をしている点に鑑みると、上記査定結果をもって労働契約の継続を期待できない程度の業務遂行能力の欠如を認定することはできず、また、Y社は、Xの解雇後にフィルターハウジング設計の技術者として採用したAに、Xが在籍中に作成した資料を分析させ、そのAは業務能力査定報告書においてXの能力不足を判断しているが、Aは、Y社の社員であるところ、上記報告書は本件訴訟の提起後にY社の指示に従い作成したものと推定されること等から、上記報告書で示された見解を直ちに本件解雇のなされた平成26年4月当時の業務遂行能力の判断に結び付けることはできず、本件では、本件労働契約上求められる業務遂行能力の欠如までは認められず、本件解雇に客観的に合理的な理由はなく、社会通念上の相当性もないため、無効である。
2 元従業員の平成26年4月分賃金は、従前の月26万5000円から月26万3000円に減額して支給されているところ、この点について、Y社は、Xの平成25年度の業務査定の総合評価が最も低い「IN」であったため、社員就業規程412条に基づいて調整したものである旨主張するが、社員就業規程412条は、冒頭で「昇給」と題した上、本文には「給料は毎年職務成績及び会社の業績に基づき会社側によって検討され給与基準に基づき調整される。」とあり、昇給について規程したものであることは明らかであり、降給又は減給の根拠と解することはできず、また、社員就業規程には他に賃金を減額する根拠となる規程は見当たらないから、上記賃金の減額は無効である。
証拠の作成をオンタイムで作成せずに、訴訟係属後にあわてて作成しても、証拠価値が低いことは言うまでもありません。
日頃から適切に証拠作成・収集をしておくことが裁判になったときに活きてくるわけです。