Daily Archives: 2016年9月13日

賃金116 競業他社に転職した場合の退職加算金の返還合意の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、競業他社に転職した場合の退職加算金の返還合意の有効性が認められた裁判例を見てみましょう。

野村證券事件(東京地裁平成28年3月31日・労経速2283号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が、元従業員のXに対し、XがY社を退職する際、同業他社に転職した場合は返還する旨の合意をして退職加算金を支給したが、Xが退職後に同業他社に転職したと主張して、上記返還合意に基づき、退職加算金相当額+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

XはY社に対し、1008万円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 本件返還合意は、本件制度に基づく本件退職加算金の支給に伴うものであるところ、本件制度は、従業員が申請し、Y社が承認した場合に、通常の退職慰労金に加えて退職加算金を支給するという制度であり、これを利用するか否かは、従業員の自由な判断に委ねられているものと解される。したがって、Y社を退職しようとする従業員において、Y社との間で将来同業他社に転職した場合に退職加算金を返還する旨の合意(本件返還合意)をすることを望まないのであれば、本件制度を利用しなければよいのである。本件においても、Xは、自ら本件制度の利用を申請したものであり、Xが本件制度の利用をY社に強制されたと解すべき事情は認められない

2 また、本件返還合意は、従業員に対して同業他社に転職しない旨の義務を負わせるものではなく、従業員が同業他社に転職した場合の返還義務を定めるにとどまるものである。したがって、Y社を退職しようとする従業員としては、将来同業他社に就職することが確定しているのでない限り、ひとまず本件返還合意をして退職加算金を受け取っておき、将来同業他社に就職する機会が生じたときに退職加算金を返還して就職するか否かを考えることで何ら問題ないということができるのであり、本件制度を利用して退職することが、これを利用せずに退職する場合よりも従業員に不利になる事態を想定することはできない。かえって、本件制度においては、通常の自己都合退職の場合に行われる退職慰労金の減額が行われないのであるから、退職加算金の支給を考慮しなくても、通常の退職より従業員に有利であるということができる

3 以上のとおり、本件制度は、退職加算金の受給に伴って本件返還合意をしなければならないことを考慮しても、Y社を退職しようとする従業員にとって通常の退職よりも有利な選択肢であるということができるから、本件制度のうち本件退職合意だけを取り上げて、これが退職後の職業選択の自由を制約する競業禁止の合意であると評価することはできないというべきである。

裁判所の判断に賛成です。

このような制度であれば、退職後の転職を不当に制約すると評価されることはないと思われます。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。