Monthly Archives: 8月 2016

本の紹介580 成功は一日で捨て去れ(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。
成功は一日で捨て去れ (新潮文庫)

ユニクロの柳井社長の本です。

タイトルからもわかるとおり、経営に対する厳しい姿勢を学ぶことができます。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

ぼくは常日頃から会社というのは、何も努力せず、何の施策も打たず、危機感を持たずに放っておいたらつぶれる、と考えている。常に危機感を持って会社経営することが正常なのである。『正常な危機感』とでも言おうか。会社経営をしたことのない人は、危機感がなく順風満帆なことが正常だと勘違いしている。危機感を持ちながら経営しない限り、会社は継続しないし、『いつも危機』と考えて経営しないと維持や継続さえもできない。」(45頁)

経営に対する厳しさを知ることができます。

会社に規模にかかわらず、経営者は常に危機感を持って経営に取り組まなければならないと。

会社の調子がよくないときに危機感を持つのは当たり前のことですが、大切なのは、会社が絶好調のときにも危機感を持てるかどうかです。

むしろ調子がいいときこそ、気を引き締めて経営することを意識する必要があります。

油断や慢心から一気に状況が変わってしまうわけですから、経営者は常に危機感を持つことが求められますね。

セクハラ・パワハラ18(学校法人関東学院事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、ハラスメントの調査・認定申立てに対する調査委員会の不設置等の配慮義務違反性に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人関東学院事件(東京高裁平成28年5月19日)

【事案の概要】

本件は、Y社が運営する大学の事務職員であるXが、所属する部署の上司からパワー・ハラスメント及びセクシャル・ハラスメントを受けたとして、同大学のハラスメント防止委員会に対して申立てを行ったところ、①同委員会がハラスメント防止規程に則って調査委員会を設置しないなど、適切な措置を執らず、②ハラスメント防止委員会の審議における同委員会の委員によるXを侮辱しかつ名誉を毀損する発言により、Xの人格権が侵害され、③Xと同じく上記上司からハラスメントを受けていた嘱託社員についてXが同委員会等に対応を求めたところ、Y社は同嘱託社員を当該上司の所属する部署に異動させ、Xをハラスメントの申立てをしたことに対する報復措置として異動が命じられるのではないかとの恐怖にさらしたと主張して、Y社に対し、Y社の安全配慮義務違反又は同委員会の委員の不法行為に係る使用者責任による損害賠償請求権に基づいて、慰謝料200万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

原審は、①Y社のハラスメント委員会は、Xの申立てがハラスメントの問題と人事の問題が混在し、申立期間の制限に抵触している可能性があると思われたことから、開始手続を取るか否かを含めて、当事者双方に事情聴取をしたところ、同申立てが適切であることを確認できなかったことから、調査を開始することは難しい旨決定し、問題の原因は当事者間のコミュニケーション不足にあると判断し、同委員会の委員長立会の上でXと面談する機会を設け、また、人事に関する事項について大学事務長に対し事情聴取を行うとともに、同人からXに対して人事に関する説明をしたことが認められるから、同委員会が規程に則り、適切に対処したものと評価することができ、Y社に安全配慮義務違反があるとは認められない、②Xが証拠として提出する同委員会の委員の発言を録音したものは、非公開である同委員会の審議内容を何者かが無断で録音したものであって、不法に収集された証拠であり、訴訟上の信義則に反し、証拠能力を認めることができず仮に同委員会の審議においてXが主張する同委員会の委員の発言があったとしても、その発言は多角的に検討されるべき議論の範囲内のものであるということができ、また、そもそも非公開の会議である審議中のものであるから、名誉毀損ないし侮辱といった不法行為上の故意又は過失は認められない、③嘱託社員の異動は、異動先の課に所属していた他の職員が専任職員の登用試験に合格し、慣例上、他部署へ異動させなければならないことから、同課の職員を補充する必要があったことによるものであり、Xが同嘱託社員の受けているハラスメントに対する対応を求めてから約4年が経過した後であったことからすると、同嘱託職員の異動が報復としての人事措置であるということはできない旨それぞれ判断し、Xの主張は理由がないとして、Xの請求を全部棄却する判決をした。Xは、原審の上記判断を不服として、控訴した。

【判例のポイント】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 民事訴訟法は、自由心証主義を採用し(247条)、一般的に証拠能力を制限する規定を設けていないことからすれば、違法収集証拠であっても、それだけで直ちに証拠能力が否定されることはないというべきである。しかしながら、いかなる違法収集証拠もその証拠能力を否定されることはないとすると、私人による違法行為を助長し、法秩序の維持を目的とする裁判制度の趣旨に悖る結果ともなりかねないのであり、民事訴訟における公正性の要請、当事者の信義誠実義務に照らすと、当該証拠の収集の方法及び態様、違法な証拠収集によって侵害される権利利益の要保護性、当該証拠の訴訟における証拠としての重要性等の諸般の事情を総合考慮し、当該証拠を採用することが訴訟上の信義則(民事訴訟法2条)に反するといえる場合には、例外として、当該違法収集証拠の証拠能力が否定されると解するのが相当である。

2 Xによれば、本件録音体は、平成21年7月7日に行われた委員会の審議内容が録音されたものであり、本件録音体であるCD-ROM2枚の入った差出人の記載の無い封筒が、平成25年1月31日、学内便により、Xに届けられたというものであるところ、そうであるとすると、本件録音体は、非公開の手続であり、録音をしない運用がされている委員会の審議の内容を無断で録音したものであり、・・・録音がされた委員会の審議は第一次申立てに係るものであることになる。しかして、第一次申立てについては、平成21年12月7日、委員長からXに対し、同年6月22日付けでXに通知された第一次決定をもって委員会の最終的な結論とする旨が伝えられているのであるから、Xが本件録音体を取得したのは、録音時から約3年半後で、第一次申立てが最終的に終局してからでも約3年2か月後を経過した時点であることになり、このことについても、また、差出人不明者から本件録音体が送付されたというのも、いかにも唐突で不自然である
以上の点に鑑みると、Xが本件録音体を取得した経緯に関するXの供述はにわかに採用することができない。
なお、Xが、本件録音体の無断録音が行われたという同年7月7日からわずか8日後の同月15日に行われた委員長らとXとの面談内容を無断録音していたこと、Xが本件録音体及び上記面談内容を無断で録音した録音体を所持し、それぞれの反訳書を証拠として提出していることに鑑みると、本件録音体の無断録音についてもXの関与が疑われるところである

3 次に、委員会は、ハラスメントの調査及びそれに基づくハラスメント認定という職務を担い、その際にハラスメントに関係する者のセンシティブな情報や事実関係を扱うものであるところ、このような職務を行う委員会の認定判断の客観性、信頼性を確保するには、審議において自由に発言し、討議できることが保障されている必要がある一方、その扱う事項や情報等の点において、ハラスメントの申立人及び被申立人並びに関係者のプライバシーや人格権の保護も重要課題の一つであり、そのためには各委員の守秘義務、審議の秘密は欠くことのできないものというべきである。委員会が、その審議を非公開で行い、録音しない運用とし、防止規程13条が各委員の守秘義務を定めているのも、かかる趣旨によるものと解される。そうすると、委員会における審議の秘密は、委員会制度の根幹に関わるものであり、秘匿されるべき必要性が特に高いものといわなければならない
他方、委員会の審議の結果は、ハラスメント申立てに対する回答としてその申立人に伝えられ、委員会は審議の結果に対して責任を持つものであり、審議中の具体的討議の内容はその過程にすぎないものであるから、結論に至る過程の議論にすぎない本件録音体の内容は、争点(1)のXの主張ア及びウに係る第一次申立ての事案の解明において、その証拠としての価値は乏しいものである。
・・・以上によれば、委員会の審議内容の秘密は、委員会制度の根幹に関わるものであって、特に保護の必要性の高いものであり、委員会の審議を無断録音することの違法性の程度は極めて高いものといえること、本件事案においては、本件録音体の証拠価値は乏しいものといえることに鑑みると、本件録音体の取得自体にXが関与している場合は言うまでもなく、また、関与していない場合であっても、Xが本件録音体を証拠として提出することは、訴訟法上の信義則に反し許されないというべきであり、証拠から排除するのが相当である。

ニュースとしても取り上げられた有名な事件です。

民事裁判で無断録音の内容が証拠として提出されることは少なくありませんが、事案によっては違法収集証拠として排除すべきとの判断がなされるわけです。

あまり多くはありませんが。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。