Monthly Archives: 6月 2016

本の紹介559 松下幸之助 パワーワード(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。
松下幸之助 パワーワード  ― 強いリーダーをつくる114の金言

著者自身の経験を踏まえ、松下幸之助さんの言葉を仕事にどう活かしていけばいいのかを説明しています。

タイトルのとおり、言葉の持つパワーを感じることができる本です。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

幸之助さんが、部下の方とお茶を飲みながら雑談されていたときのこと。部下の方から余暇の過ごし方について聞かれ、幸之助さんは、『心を許して余暇を楽しむような人は、経営者にはなれんわなぁ』と言われたそうです。・・・『そんな楽なものではない。社員を何万人と抱えて経営に携わるのは、その人たちの命を預かるということや。それを考えれば経営者は四六時中経営のことを頭から離さない、そういう心持ちでやっていかんとダメなんや。織田信長は酒を飲んでいても隣国のこと、敵国のことを片時も頭から離さなかった。大将というのはそういうもんや。たとえ遊んでいるときでも、これは経営に役立つんじゃないか、仕事に活用できるんじゃないかと考える。そういう人でないと経営者にはなれんわな』」(175~176頁)

社員が何万人といなくても、経営者はかくあるべきだと思います。

経営者は従業員の命を預かるという発想を持たなければなりません。

私は、会社の誰よりもよく働くのが経営者であるべきだと思っています。

一番楽をして、一番多くの給料をもらっている経営者に誰がついていくのでしょうか。

私が従業員なら、誰よりも仕事が好きで、誰よりも仕事に情熱を注ぐ人の下で働きたいと思います。

賃金114(新生銀行事件)

おはようございます。

今日は、給与減額に対してなされた同意は心裡留保や錯誤にはあたらず有効と判断した裁判例を見てみましょう。

新生銀行事件(さいたま地裁平成27年11月27日・労経速2272号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結し、Y社の市場営業部大阪営業推進室長として勤務していたXが、給与制度の改定による減額についてした同意は心裡留保又は錯誤等により無効であるとして、雇用契約に基づく賃金支払請求権に基づき、上記減給前後の給与の差額の合計390万円+遅延損害金の支払を求めるとともに、会議で上司から罵詈雑言を浴びせられ、うつ病と診断されて給与が劣る部署への異動を勧められるなどして退職を強要されたとして、不法行為による損害賠償請求権に基づき、1年間の基本給に相当する損害額1500万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 心裡留保とは、意思表示の表意者が、表示行為に対応する真意のないことを知りながらする単独の意思表示をいう。Xは、戯言で本件減給に対する同意の意思表示をしたのではなく、単に、本心では同意することに納得しておらず、いわば意思表示を渋々したものであるといえるところ、これは、意思表示をすることに対する表意者の感情に過ぎず、意思表示に対応する内心的効果意思の内容とは全く別のものである
そうすると、Xは、本件減給に対する同意をしたくないという感情であったものの、まさに本件減給に対する同意をするという内心的効果意思で本件減給に対する同意の意思表示をしたと認められる。
したがって、本件減給に対する同意は心裡留保に当たらない。

2 錯誤とは、表示の内容と内心の意思とが一致しないことを表意者本人が知らないことをいい、意思表示の動機ないし縁由に誤りがあるものを動機の錯誤という。
Xは、本件減給に同意しないと解雇されると誤信して解雇を避ける動機で本件減給に同意する意思表示をしたと主張する。しかしながら、Xが本件減給に同意しないと解雇されると思い込んだということはできず、したがって、Xが本件減給に同意しないと解雇されると誤信したと認めることはできない
したがって、本件減給に対する同意の意思表示につき錯誤は成立しない。

3 労働契約法9条本文は、使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできないと定めており、労働者との合意があれば、その内容が強行法規に違反する場合や信義則(民法1条2項)に違反する場合を除き、労働条件の不利益変更も有効である。
Xは、本件減給が強行法規や信義則に違反するとの主張及び証拠の提出をしていないから、Xの主張は失当である
したがって、本件減給が無効であるということはできない。

労働条件の不利益変更における労働者の同意については、最高裁判例が出たこともあり、現在、注目されている重要ポイントです。

単に労働者の同意をとればよい、ということではないことは最低限押さえておきましょう。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。