Daily Archives: 2016年6月21日

配転・出向・転籍30(ナカヤマ事件)

おはようございます。

今日は、ノルマ未達成を理由とする配転・降格の有効性と未払賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

ナカヤマ事件(福井地裁平成28年1月15日・労判1132号5頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であるXが、福井支店から長野支店への配転命令を受け、その有効性を争ったことを契機として出勤していないところ、Y社に対し、①1か月当たり29万円の未払賃金、②未払の時間外労働賃金367万9812円及び③労働基準法114条所定の付加金232万3036円+遅延損害金の各支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社はXに対し、46万0010円+遅延損害金を支払え

2 Y社はXに対し、506万2984円+遅延損害金を支払え

3 Y社はXに対し、232万8186円+遅延損害金を支払え

4 Y社はXに対し、232万3036円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 ①本件賞罰規定は、Xら「M社員」に対し、地域的特性も考慮することなく、困難な売上高の達成を求めるものである一方で、それが1か月でも達成できなかった場合には、直ちに、固定給を月額10万円減額するか、Y社の決定する他の支店に異動させるという制裁を課すものであること、②本件賞罰規定上の制裁措置として、実質的な降格と配転命令があったが、Y社は、Xが制裁対象となった後、繰り返し申請に基づく降格か自主退職かを選ぶよう求めるだけで、配転命令については言及していなかったこと、③Y社側から連日のように働き掛けたのに、Xが降格に応じようとしなかったため、異動先の内示も全くないまま、突如、本件配転命令を発令したこと、④Aは、Xに対し、本件配転命令発令後、直ちに異動先の長野支店に向かうよう指示し、これに応じないのであれば自主退職をするしかないと述べたことが認められる。

2 以上の事実によれば、まず、本件賞罰規定による制裁は、その発令要件との関係で過酷にすぎ、著しく不合理であるといわざるを得ない。また、本件賞罰規定は、制裁措置として「S社員」等への実質的な降格の他に配転命令を挙げてはいるが、Y社は、制裁対象となったXに対し、自主的な降格又は退職のみを勧め、Xがこれらのいずれにも応じずにいたところ、突如として本件賞罰規定に基づいて本件配転命令を発令し、これに応じないXに対して、やはり自主退職を促したというのであって、本件配転命令の根拠となった本件賞罰規定の目的は、専ら固定給の高い「M社員」を減らすという点にのみあったと認められる
・・・以上によれば、本件配転命令は、Y社が主張するように、Xの能力開発、勤労意欲の高揚に資する面が全くないわけではなく、業務上の必要性が皆無であったとはいえないことを踏まえても、Y社の権利の濫用によるものであって、違法であると認めるほかない。

3 法26条が、「使用者の責に帰すべき事由」による休業の場合、使用者に対し、平均賃金の6割以上の手当を労働者に支払うべき旨を規定し、その履行を強制する手段として付加金や罰金の制度が設けられている(法114条、120条1号参照)のは、労働者の労務給付が使用者の責めに帰すべき事由によって不能となった場合に、使用者の負担において労働者の最低生活を上記の限度で保障しようとする趣旨に出たものであるから、法26条の規定は、労働者が、使用者の責めに帰すべき事由により、違法に配転命令の発令を受け、これにより、発令前の勤務部署に出勤することができなくなった場合にも、適用ないし準用されるものと解される(最高裁昭和37年7月20日)。
これを本件についてみると、・・・したがって、Y社のXに対する未払賃金額を算定するに当たっては、Xが他社から支払を受けた給与等を控除するべきであるが、その限度は、XがY社から支払を受けていた月額給与29万円の4割に当たる月額11万6000円にとどまる

会社に、高額の支払いが命じられています。

本件においては固定残業制を採用しているのですが、裏目で出ているケースです。

また、上記判例のポイントには載せていませんが、会社が途中で配転命令を撤回の意思表示をしていますが、裁判所は認めていません。

解雇事案においても途中で会社側が解雇を撤回することがありますが、撤回したからそれで無事終了というわけにはいかないことを理解しなければなりません。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら慎重に行いましょう。