Daily Archives: 2016年5月26日

労働者性15(NHK神戸放送局(地域スタッフ)事件)

おはようございます。

今日は、労基法(労契法)上の労働者性が争われた裁判例を見てみましょう。

NHK神戸放送局(地域スタッフ)事件(大阪高裁平成27年9月11日・労判1130号22頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間においてY社の放送受信料の集金や放送受信契約の締結等を内容とする有期委託契約(本件契約)を継続して締結してきたXが、Y社から本件契約を途中解約されたことについて、本件契約は労働契約であり、上記解約(本件解約)は、労働契約法に基づかない無効な解雇であると主張して、Y社に対し、労働契約に基づき、労働者としての地位の確認、平成25年1月からの毎月27万5720円の賃金及び遅延損害金の支払を求めるとともに、不当解雇の不法行為に基づき、慰謝料等330万円の損害賠償金及び遅延損害金の支払を求めた事案である。

原判決は、本件契約は労働契約的性質を有するものであり、本件解約は労働契約法に基づかないなどの理由で無効であるものの、本件契約は平成25年3月31日の経過をもって終了しているとして、地位確認の訴えを確認の利益がないとして却下し、賃金請求を同年1月から同年4月までの分及び遅延損害金の限度で認容し、その余の請求をいずれも棄却した。このため、敗訴部分を不服とするY社が本件控訴を提起した。

【裁判所の判断】

原判決主文中訴えを却下した部分を取り消す。

被控訴人の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 本件契約により、Xは、契約開発スタッフとして、放送受信契約の新規締結や放送受信料の集金等契約上定められた業務を行うことを受託している。したがって、その定められた業務内容に関するものである限り、Xが個々の具体的な業務について個別に実施するか否かの選択ができるわけではない。もっとも、これは、包括的な仕事の依頼を受託した以上、契約上、当然のことと解される。本件では、業務の内容からして、Y社がXに対し特定の世帯や事業所を選び訪問すべき日や時間を指定して個別の仕事を依頼するなどということは、およそ予定されていないと考えられるから、Xに上記の選択権のないことを本来的な意味の諾否の自由の有無の問題ととらえるのは相当でない。

2 契約開発スタッフであるXが本件契約による受託業務を行う地域は、Y社が定期的に指定する地域であるが、ローテーション制が取られることは、本件契約の内容となっていたことであるから、業務従事地域が替わることをもって、諾否の自由がないということはできない。
また、期ごとに達成すべき目標値については、Y社において決定し、各期の当初に具体的数値として、Xらスタッフに示されることになっており、Y社とXとの協議によって決められるものではないが、これは、稼働時間に対する拘束性として検討すべきである。

3 本件契約上、1か月の稼働日数、1日の稼働時間については何も定められておらず、業務開始時刻や業務終了時刻も定められていない。
Xの1か月の稼働日数、1日の稼働時間、b放送局のスタッフの1か月の稼働日数をみても、1か月の稼働日数や1日の稼働時間は区々であり、各人によって相当幅があり、各スタッフの裁量に任されていることは明らかである。
特定の世帯等への訪問を具体的にどの日やどの時間に行うかについても、スタッフの裁量に委ねられている。
そして、目標値を達成している限りにおいては、業務計画表に記載した月間の稼働日数分働かなくても、何らY社から指導を受けることもない。
業績が不振で、その原因が稼働日数や稼働時間又は稼働時間帯に関するものであった場合には、Y社は、それに関する具体的な指導を行っていたが、その場合でも、スタッフは、その指導に従わずに目標値を達成できるのであれば、目標値の達成にこそ努めるべきであった。
目標値自体は、Y社が設定するものであるが、このようにみると、稼働時間に対する拘束性は強いものではないというべきである。
・・・このように、本件契約における場所的・時間的拘束性の程度は低いものというべきである。

4 本件契約で特徴的なことは、再委託が自由であることであり、その利用率はともかく、全国的に利用されており、現にb放送局にいるスタッフにおいても利用されていた。しかも、再委託先は、配偶者、親子にとどまらず、公募した第三者まであった
再委託に疑問を呈するスタッフの意見もあるが、このスタッフも再委託制度を利用したことには変わりはなく、再委託制度の有用性は、スタッフが自ら処理することと再委託とをどのように使い分けるかによって左右されるのであり(兼業の自由と相まって、自らの稼働は制限的に行い、第三者を利用することも考えられる。)、一概に決めつけることはできない。

5 そのほか兼業が許容されており、スタッフに就業規則は適用されず、社会保険の適用もない。

6 以上によれば、①本件契約においては、諾否の自由の問題を取り上げるのは相当でなく、②Y社のスタッフに対する助言指導は、業績の不振を契機として主として稼働日数や稼働時間等についてされるものであり、限定された場面におけるものということができる。③本件契約上、1か月の稼働日数や1日の稼働時間は、スタッフの判断で自由に決めていくことができ、実際の稼働をみても、スタッフにより、時期により様々である。目標値はY社が設定するとしても、稼働時間に対する拘束性は強いものとはいえない。場所的拘束性も、訪問対象の世帯等がその地域内にあるというだけで、訪問以外の場面ではその地域内での待機を強いられるわけではない。④本件契約の事務費は、基本給とまではいえず、そのほかの給付も出来高払の性格を失っていない。⑤本件契約においては、第三者への再委託が認められており、実際にも再委託制度を利用している者がいた。⑥兼業は許容され、就業規則や社会保険の適用はない。なお、⑦本件契約による業務を遂行する上で必要な機材等はY社によって貸与されている。
このように②から⑥まで、とりわけ、稼働日数や稼働時間が裁量に任されており、時間的な拘束性が相当低く、⑤のとおり、第三者への再委託が認められていることに着目すれば、⑦の事情を総合しても、本件契約が、労働契約的性質を有すると認めることはできない

高裁は、一審の判断を覆し、労働者性を否定しました。

判決理由でも述べられているとおり、上記判例のポイント4が大きいですね。

労働者性に関する判断は本当に難しいです。業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。