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今日は、育児短時間勤務制度の利用を理由とする昇給抑制が違法とされた事例を見てみましょう。
甲会事件(東京地裁平成27年10月2日・労経速2270号3頁)
【事案の概要】
本件は、Y社で稼働するXらが、Y社において育児短時間勤務制度を利用したことを理由として本来昇給すべき程度の昇給が行われなかったことから、各自、Y社に対し、①このような昇給抑制は法令及び終業規則に違反して無効であるとして、昇給抑制がなければ適用されている号給の労働契約上の地位を有することの確認、②労働契約に基づく賃金請求として昇給抑制がなければ支給されるべきであった給与と現に支給された給与の差額及び遅延損害金、③このような昇給抑制は不法行為に当たりXらは精神的物質的損害を受けたとして、不法行為に基づく慰謝料(各自50万円)等の損害賠償金及び遅延損害金の支払を求めたものである。
【裁判所の判断】
本件訴えのうちXらがY社において平成26年4月1日時点で各主張に係る号俸の労働契約上の権利を有する地位にあることを確認することを求める部分をいずれも却下する。
Y社は、X1に対し、19万6149円+遅延損害金を支払え
Y社は、X2に対し、27万0799円+遅延損害金を支払え
Y社は、X3に対し、24万6315円+遅延損害金を支払え
【判例のポイント】
1 ・・・このような育児・介護休業法の規定の文言や趣旨等に鑑みると、同法23条の2の規定は、前記の目的及び基本理念を実現するためにこれに反する事業主による措置を禁止する強行規定として設けられたものと解するのが相当であり、労働者につき、所定労働時間の短縮措置の申出をし、又は短縮措置が講じられたことを理由として解雇その他不利益な取扱いをすることは、その不利益な取扱いをすることが同条に違反しないと認めるに足りる合理的な特段の事情が存しない限り、同条に違反するものとして違法であり、無効であるというべきである。
2 本件昇給抑制は、本件制度の取得を理由として、労働時間が短いことによる基本給の減給(ノーワークノーぺイの原則の適用)のほかに本来与えられるべき昇給の利益を不十分にしか与えないという形態による不利益取扱いをするものであると認められるのであり、しかも、このような取扱いがX主張の指針によって許容されていると見ることはできないし、そのような不利益な取扱いをすることが同法23条の2に違反しないと認めるに足りる合理的な特段の事情が存することも証拠上うかがわれないところである。
3 育児・介護休業法23条の2が、事業主において解雇、降格、減給などの作為による不利益取扱いをする場合に、禁止規定としてこれらの事業主の行為を無効とする効果を持つのは当然であるが、本件昇給抑制のように、本来与えられるべき利益を与えないという不作為の形で不利益取扱いをする場合に、そのような不作為が違法な権利侵害行為として不法行為を構成することは格別、更に進んで本来与えられるべき利益を実現するのに必要な請求権を与え、あるいは法律関係を新たに形成ないし擬制する効力までをも持つものとは、その文言に照らし解することができない。また、あるべき号俸への昇給の決定があったとみなしてY社の「決定」の行為を擬制すべき根拠もないことも明らかである。そうすると、Xらが確認を求めるX1につき91号、X2につき73号、X3につき89号という法律関係は存在していないといわざるを得ない。
4 不法行為により財産的な利益を侵害されたことに基づく損害賠償の請求にあっては、通常は、財産的損害が填補され回復することにより精神的苦痛も慰謝され回復するものというべきであるところである。
しかし、本件昇給抑制は、それがされた年度の号俸が抑制されるだけでなく、翌年度以降も抑制された号俸を前提に昇給するものであるから、Y社において本件昇給抑制を受けたXらの号俸数を本件昇給抑制がなければXらが受けるべきであったあるべき号俸数に是正する措置が行われない限り、給料、地域手当、期末手当、勤勉手当等といった賃金額についての不利益が退職するまで継続し続けるだけでなく、退職時には、退職の金額の算定方法のいかんによっては、退職金の金額にも不利益が及ぶ可能性があること、毎年6月及び12月に支給される期末手当、勤勉手当はその都度会長の定める支給率が決定されなければ、その数額を確定することができず、本件昇給抑制に起因する財産的損害についてあらかじめ填補を受け回復することができないことなどに鑑みると、現時点において請求可能な損害額の填補を受けたとしても、本件昇給抑制により被った精神的苦痛が慰謝され回復されるものではないから、前記認定の財産的損害とは別に、慰謝料の支払が認められるべきものといえ、その金額は、Xら各自について10万円と認めるのが相当である。
上記判例のポイント3は重要です。
また、上記判例のポイント4の理由付けは非常に納得がいくものですが、この理由からこの結論ですか・・・
あまりにも慰謝料の金額が低すぎて、何の抑止力にもなっていません。
日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。