競業避止義務18(甲社事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、転職に関し競業避止義務違反は生じないとされた裁判例を見てみましょう。

甲社事件(東京地裁平成27年10月30日・労経速2268号20頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、元従業員であったY社に対し、X・Y社間の雇用契約上の競業避止義務違反又は不法行為に基づき損害賠償を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 一般に、会社の従業員は、元来、職業選択の自由を保障され、退職後は競業避止義務を負わないのが原則である。したがって、退職後の転職を禁ずる本件競業避止規定は、その目的、在職中のXの地位、転職が禁止される範囲、代償措置の有無等に照らし、転職を禁止することに合理性があると認められないときは、公序良俗に反するものとして有効性が否定されるというべきである。

2 確かに、Y社の主張する、労働者派遣事業を行うためにY社が負担する顧客開拓・維持の費用あるいは業務拡大の期待利益については一応保護に値する利益と考えられるが、1年勤務したに過ぎないXに対する職業選択の自由の制約として見た場合、本件競業避止規定がそれぞれ定める要件は抽象的な内容であって、幅広い企業への転職が禁止される禁止されることになる。また、禁止される期間も、3年間の競業避止期間はXの勤続期間1年と比較して非常に長いと考えられるし、本件誓約書及び本件覚書については期間の限定が全くないことから、いずれも過度の制約をXに強いているものと評価せざるを得ない

3 これに対して、Xは、休日出勤手当や残業手当の支払がなく、賞与の支給もなかった。また、Y社に内定後入社までの研修期間中にもXは業務に従事しているが、事前に聞かされていたアルバイト料の支払をなかったことからすれば、Xは、Y社から本来受けるべき対価としての賃金を十分に受け取っていないものと認められる。そればかりか、Xが転職活動をするにしても、Xが希望する積算業務の求人が非常に少なく、応募が困難な中でようやくZ社への転職が決まったという事情もあった

4 そうすると、本件競業避止規定によってXの転職を禁止することに合理性があるとは到底認められないことから、公序良俗に反するものとして有効性が否定されるというべきである。

競業避止義務に関する考え方を知るにはよい裁判例です。

上記判例のポイント1や2の考え方を理解し、それを踏まえた労務管理を行う必要があります。

訴訟の是非を含め、対応方法については事前に顧問弁護士に相談しましょう。