おはようございます。
今日は、労働契約法20条の不合理な労働条件の相違に関して判断した裁判例を見てみましょう。
ハマキョウレックス事件(大津地裁彦根支部平成27年9月16日・ジュリ1490号4頁)
【事案の概要】
本件は、一般貨物自動車運送事業等を営むY社との間で、期間の定めのある労働契約を締結したXが、Y社との間で期間の定めのない労働契約等が成立している、仮にそうでないとしても、期間の定めのない労働契約を締結したY社の労働者とXの労働契約における労働条件とを比較して不合理な相違のある労働条件を定めたXの労働契約部分は公序良俗等に反して無効であるから、Xは、Y社との労働契約上、期間の定めのない労働契約を締結した被告の労働者と同一の権利があると主張して、Y社に対し、かかる権利を有する地位にあることの確認を求めるともに、期間の定めのない労働契約を締結したY社の労働者が通常受給すべき賃金との差額について、Y社との労働契約に基づき、また、期間の定めのない労働契約を締結したY社の労働者と同一の権利を有しないとしても、そのような権利を有すると期待させたにもかかわらず、いまだにXと期間の定めのない契約を締結しないY社の行為は、Xの期待権を不法に侵害したものであり、かかる行為はXに対する不法行為を構成すると主張して、上記差額分と同様の賃金ないし損害賠償金の支払及び遅延損害金の支払を求めた事案である。
なお、Xは、当庁による破産手続開始決定を受け、破産財団となるべき未払賃金の4分の1について、破産者X破産管財人Zが本訴訟手続を受継した。
本判決は、差戻し前の事件の判決手続に違法があるとして、控訴審により差し戻された差戻後の第1審判決である。
【裁判所の判断】
Y社は、Zに対し、1万円+遅延損害金を支払え。
【判例のポイント】
1 労働契約法20条における「不合理と認められるもの」とは、有期契約労働者と無期契約労働者間の当該労働条件上の相違が、それら労働者間の職務内容や職務内容・配置の変更の範囲の異同にその他の事情を加えて考察して、当該企業の経営・人事制度上の施策として不合理なものと評価せざるを得ないものを意味すると解すべきところ、Y社の彦根支店においては、正社員のドライバーと契約社員のドライバーの業務内容自体に大きな相違は認められないものの、Y社は、従業員数4597人を有し、東京証券取引所市場第1部へ株式を上場する株式会社であり、また、従業員のうち正社員は、業務上の必要性に応じて就業場所及び業務内容の変更命令を甘受しなければならず、出向も含め全国規模の広域異動の可能性があるほか、Y社の行う教育を受ける義務を負い、将来、支店長や事業所の管理責任者等の被告の中核を担う人材として登用される可能性がある者として育成されるべき立場にあるのに対し、契約社員は、業務内容、労働時間、休息時間、休日等の労働条件の変更がありうるにとどまり、就業場所の異動や出向等は予定されておらず、将来、支店長や事業所の管理責任者等の被告の中核を担う人材として登用される可能性がある者として育成されるべき立場にあるとはいえない。
2 Y社におけるこれら労働者間の職務内容や職務内容・配置の変更の範囲の異同等を考察すれば、少なくとも無事故手当、作業手当、給食手当、住宅手当、皆勤手当及び家族手当、一時金の支給、定期昇給並びに退職金の支給に関する正社員と契約社員との労働契約条件の相違は、Y社の経営・人事制度上の施策として不合理なものとはいえないというべきであるから、本件有期労働契約に基づく労働条件の定めが公序良俗に反するということはできないことはもとより,これが労働契約法20条に反するということもできない。
3 Xらは、本件有期労働契約を締結するにあたり、Xに対し、月額の手取賃金を30万円以上とする、本件有期労働契約締結後から半年ないし1年後には正社員とするとの期待を抱かせたにもかかわらず、現在まで、Xとの間で、月額の手取賃金を30万円以上とすること及び正社員とするとの条件を付した労働契約を締結しないY社の対応は、Xの期待権を侵害する不法行為に当たると主張するが、上記事実関係に照らせば、Xの主観はともかく、Xの上記期待は、法的保護に値する期待と認めるには足りず、事実上の期待にすぎないというべきであるから、それに対する侵害が不法行為に当たるとのXらの主張は採用することができない。
4 以上に対し、通勤手当についてのY社の労働条件の相違は、労働契約法20条に反し、同条の解釈上、同条に違反する労働条件の定めは、強行法規違反として無効と解され、かかる定めをしたY社の行為は、Xに対する不法行為を構成するというべきである。
そして、その損害額は、当該労働条件の相違がなかった場合にXが取得できた通勤手当の額とXに支給された通勤手当との差額であると解されるところ、XがY社の正社員であったとすれば、どの程度の通勤手当の支給を受けることができたかについては本件証拠上不明であるが、少なくとも正社員の最低支給額である5000円と、Xの受給額である3000円の差額である2000円は被告の不法行為による損害と認めることができる。
したがって、労働契約法20条施行後の平成25年4月分から同年8月分までの差額合計1万円(2000円×5か月分)については、これをXが被った損害と認める。
労契法20条については、上記判例のポイント1の視点を押さえましょう。
労働者側からは、ハードルが高いことがわかりますね。