おはようございます。
今日は、雇用契約書等のない居酒屋店板前による割増賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。
有限会社空事件(東京地裁平成27年2月27日・労判1123号149頁)
【事案の概要】
本件は、Y社の従業員であったXが、Y社に対し、法定時間外労働・深夜労働に対する割増賃金及び付加金の支払を求める事案である。
【裁判所の判断】
Y社は、Xに対し、552万9711円+遅延損害金を支払え。
Y社は、Xに対し、付加金229万9369円+遅延損害金を支払え。
【判例のポイント】
1 Y社は、Xと雇用契約を締結する際に法定時間外労働及び深夜労働に対する割増賃金を含んで月額30万円(後に増額して月額33万円)とすることをXとの間で合意した旨主張し、Aはこれに沿う旨の陳述をする。確かに、居酒屋aの営業時間及びXが板前であること等を踏まえれば、Y社としては、Xの日々の業務において時間外労働及び深夜労働の発生が当然に予想されることを考慮した上でXの賃金額を月額30万円(後に33万円)と定めた可能性も否定できないが、Xが上記合意の事実を否認し、かつ、Xの入社時に雇用契約書その他の労働条件を記載した書面が作成されていない以上、Aの上記陳述のみから上記合意の事実を認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
また、Y社は、月額賃金のうち4万1000円は割増賃金として支払われたものである旨主張する。このように毎月支払われる賃金のうちの一定額が割増賃金(いわゆる固定残業代)として支払われている場合には、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができる必要がある(平成24年3月8日最高裁第一小法廷判決等参照)ところ、Y社からXに交付されていた給料支払明細書には「基本給330,000」と記載されているのみであり、他にXの月額賃金の内訳を明らかにした書面等が存するとは認められないから、月額賃金のうち4万1000円が割増賃金として支払われていた旨のY社の上記主張は理由がない。
よって、Xの月額賃金33万円に割増賃金が含まれているものと認めることはできず、この点に関するY社の主張は理由がないといわざるを得ない。
2 労働基準法114条に定める付加金の支払請求については、使用者による同法37条等違反の程度や態様、労働者が受けた不利益の性質や内容、前記違反に至る経緯等の諸事情を考慮してその可否及び金額を検討するのが妥当である。
前記に検討したところによれば、Y社は、Xに対して割増賃金の支払義務を負いながらその支払を怠っていたものと認めることができるが、前記のとおり、Y社としては、Xの日々の業務において時間外労働及び深夜労働の発生が当然に予想されることを考慮した上でXの賃金額を月額33万円と定めた可能性も否定できないこと、Y社がXに対し割増賃金を支払ってこなかった背景には、割増賃金も含めて月額33万円の賃金が支払われているとY社が認識していた面もあると考えられること、月額33万円の賃金に割増賃金の一部が含まれているとしても、前記のとおり本件においては月額33万円の全額を割増賃金の算定基礎とするほかなく、その分、割増賃金が高額に上っている面もあると考えられることなど、本件に顕れた一切の事情を総合考慮すると、本件においては、前記の未払割増賃金のうち、労働基準法114条ただし書の規定により付加金請求の対象とし得る平成24年4月分以降の割増賃金(合計459万8737円)の全額を付加金として被告に支払を命ずるのは、同条の趣旨を考慮しても必ずしも相当ではないというべきであり、本件の付加金としては、上記合計額の5割に相当する229万9369円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5%の割合による遅延損害金の支払を命ずるのが相当というべきである。
この事例でも、固定残業制度の理解が不十分であったために逆効果の結果となっています。
このような例は枚挙に暇がありません。
普通に基本給+残業代を支払っているほうが、よほど使用者にメリットがあるわけですが、どうしても基本給の金額を大きく見せたいという気持ちが働くのでしょうね。
日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。