Daily Archives: 2016年2月10日

配転・出向・転籍28(大和証券ほか1社事件)

おはようございます。

今日は、営業社員に対する転籍の有効性と組織的嫌がらせの存否に関する裁判例について見てみましょう。

大和証券ほか1社事件(大阪地裁平成27年4月24日・労判1123号133頁)

【事案の概要】

本件は、Y1社からY2社に出向して同社で営業業務に従事していたXが、Y2社への転籍同意書に署名押印したが転籍の合意は成立していない又は無効であるなどとして、Y1社に対し、労働契約に基づき、労働者たる権利を有する地位にあることの確認及び転籍後の平成25年4月以降の賃金の支払を求めるとともに、Y2社に出向した後、上司から様々な嫌がらせを受けて精神的損害を被ったが、これらの行為は、被告らが共謀して行ったものであるとして、共同不法行為に基づき、Y1社及びY2社に対し、連帯して、慰謝料200万円及び遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y1社及びY2社は、Xに対し、連帯して、150万円+遅延損害金を支払え。

Xのその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 平成24年9月28日、C副部長は、Xに対し、Y2社に当初6か月間出向となり、その後転籍となることを予定していることなどを説明した上で、Xに対し、本件同意書に署名押印するよう求め、Xはこれに応じている
本件転籍は、平成25年4月1日にXがY1社を退社するとともにY2社に入社することを内容とするものであるから、C副部長はその旨の申込みをし、Xはこれを了承して同内容の合意が成立したことになる。
Y2社は、平成25年3月27日に原告に対して転籍のために必要な書類として退職願などの書類を交付し、作成及び提出を求めているが、本件転籍についての合意自体は平成24年9月28日に成立しているから、Xが退職願などの書類を作成しなかったことは本件転籍の効力を妨げるものではない
また、Xは業務命令に従う趣旨で本件同意書に署名押印したのであるから、転籍についての合意は不存在であると主張しているが、本件同意書の内容に従った法律効果が発生することに同意しているのであるから、転籍の合意は成立しており、原告がどのような認識の下で合意することに至ったかは、錯誤の問題にすぎない。

2 そして、C副部長は、Y2社との間で事前に調整をした上でXに対し本件転籍についての同意を求めていること、Y1社の人事関連業務だけでなくグループ本社の人事副部長としてY2社の人事関連業務も担当していたこと、転籍は転籍元の退職と転籍先への入社が一体となっているものであり両社が個別にXに合意を求める類の合意ではないことからすると、C副部長は、Y2社を代理して本件転籍に係る意思表示を行う権限を有していたことが認められるから、C副部長とXとの間に成立した本件転籍にかかる合意の効力は、Y1社だけでなく、Y2社に対しても、その効果が帰属する
したがって、Xが本件同意書に署名押印したことにより、本件転籍につき三者間で合意が成立したものと認めるのが相当である。

3 これに対し、Xは、仮にC副部長にY2社を代理して転籍の申込みを行う権限があったとしても、本件同意書の名宛人はY1社のみであり、また、C副部長はXにY2社のために行うことを示していないからY2社にはその効果が帰属しない旨主張しているものと解される。
しかし、転籍は転籍元の退職と転籍先への入社が一体となっているものであるから、C副部長がY1社のためだけではなくY2社のためにも同意を求めていることは当該合意の性質上明らかである上、商人である会社による労働契約の締結は、特段の反証のない限りその営業のためにするものと推定されるから商行為であり(商法503条)、C副部長が本人であるY2社のためにすることを示さないでこれをした場合であっても、Y2社に対してその効力を生ずるから(商法504条本文)、Y2社のために行うことの顕名がなくとも、Y2社に合意の効果は帰属する。

4 Xは、Y2社への転籍は、Xに諾否の自由のない業務命令であると誤解して、その誤解に基づいて本件同意書に署名押印したものであるから、Xによる本件転籍に同意するとの意思表示は錯誤により無効であると主張している。
しかし、本件同意書は、表題に「転籍同意書」、本文の初めに「下記の条項を了承のうえ、転籍することに同意します。」と記載されているから、Xが同意することが転籍の前提となっていることはXにも容易に分かり得る。
Xは、本件同意書の第4項に「今後もaグループ内での出向・転籍を命ずることがある」と記載されていることやC副部長から決定事項として伝えられたことから諾否の自由がないものと思ったとも主張しているが、他方で、本件同意書には「同意書」「転籍することに同意します」とも記載されているのであるから、本件同意書に「転籍を命ずることがある」との文言が記載されていることを根拠として、Xが諾否の自由がないと誤信したとの事実を認定することはできず、他にXが諾否の自由がないものと誤信したとの事実を認めるに足りる証拠はない。
加えて、仮にXが諾否の自由がないものと誤信していたとしても、諾否の自由についての誤信は動機の錯誤にすぎず、その動機が表示されていたとも認められない

非常に参考になる裁判例です。

グループ会社間での出向や転籍が頻繁になされている会社の総務担当者は、それぞれの法的相違点や取扱いの留意点を理解しておく必要があります。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら慎重に行いましょう。