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今日は、震災による津波で死亡した行員らの遺族による損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。
七十七銀行(女川支店)事件(仙台高裁平成27年4月22日・労判1123号48頁)
【事案の概要】
平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(本件地震)による津波により、宮城県牡鹿郡女川町(女川町)に所在する被控訴人女川支店において、勤務中に同支店屋上(本件屋上)に避難していた行員及び派遣スタッフ合計12名が流されて死亡し、又は行方不明となった。
本件は、上記行員及び派遣スタッフらのうち3名の相続人である控訴人らが、被控訴人に対し、上記被災について、被控訴人において上記行員らに対する安全配慮義務違反があったと主張して、債務不履行又は不法行為(民法709条、715条)に基づき、上記行員らから相続した各損害賠償金及びその遅延損害金の支払を求める事案である。
原審は、Xらの請求をいずれも棄却したところ、控訴人らが控訴した。
【裁判所の判断】
控訴棄却
【判例のポイント】
1 津波からの避難場所を決定するについては、津波の危険性が生命にかかわるものであること及び津波からの有効な避難の方法が津波の到達しない高台への避難であることからすれば、収集した情報に基づき、津波の高さ及び到達時刻、避難することが可能な場所及び選択の対象となる各避難場所までの避難に要する時間と避難経路に存在する危険性等を総合して判断すべきであると解するのが相当である。
そして、本件においては、女川町への津波の到達予定時刻を本件地震発生当日の午後3時とする予想があったから、これに先立ち避難指示を行う必要があったといえるところ、上記のとおり、本件屋上は、事前に想定されていた高さの津波から避難することができる場所であり、また、同時点までの情報において、本件屋上を超えるほどの高さの津波が襲来する危険性を具体的に予見し得る情報は存在していなかったことからすれば、女川支店長において、本件地震発生後、本件屋上への避難を指示し、直ちにより高い避難場所である堀切山への避難を指示しなかったことについて、被控訴人に安全配慮義務違反があったと認めることはできない。
2 確かに、襲来する可能性のある津波の高さを確実に予想することができない以上、津波災害による人命の被害をより確実に防止するためには、津波が襲来することについて具体的な予見可能性がある場面では、事前に想定されていた津波の高さや警報等により予想された津波の高さにかかわらず、より安全な場所に避難するよう尽力する必要があるといえる。
しかし、現状においては、津波に関して、その高さのみならず到達時刻についてさえも確実に予測することは困難であり、さらに、大きな地震があれば、通常は、建物や道路が損壊したり強い余震が発生したりするものであり、これらの事情のため、避難を行うことについては相応の危険を伴うことになるところ、避難場所を決定するに際して、このような危険についても考慮の上で避難を行う必要がある。
そのため、津波の襲来が迫り、到達時刻も確定し得ない状況下で、避難場所の相対的な安全の優劣を判断して避難場所を決定することについては困難があるといえる。
また、より遠く、より高い場所に避難すれば津波からの安全性は高まることになるから、特定の場所を避難場所として予定している場合においても、それよりも安全な場所は広範に存在し得ることになる。
これらの事情を考慮すると、津波の高さや到達時刻等に関する予想を考慮せずにより安全な場所の存否を基準とする避難行動を義務付けるとすれば、際限のない避難行動を求められ、結果的には、事後的に判断して安全であった避難場所への避難が行われない限り義務違反が認められることになりかねない。
よって、より安全な避難場所がある場合にはそこに避難すべき旨の安全配慮義務を課することは、義務者に対して、不確定ないし過大な義務を課することになるから相当とはいえない。
したがって、津波からの避難に関して安全配慮義務に違反したか否かを検討するに当たっては、襲来する津波の高さや到達時刻等に関する専門家による合理的な予想が存在する場合には、これを疑うに足りる情報が存在しない限り、これを前提として適切な対応をとったかどうかという観点から避難行動の適否を評価するのが相当である。
自然災害発生時の使用者の安全配慮義務について大変参考になります。
東海地方にもいずれ大きな地震が起こることが予想されていますので、使用者としては何をどの程度準備すればよいのか、予め把握しておく必要があります。