Monthly Archives: 1月 2016

不当労働行為129(ユアサ商事事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、組合員の継続雇用後の再雇用拒否等を議題とする団交申入れに応じなかったことと不当労働行為に関する命令を見てみましょう。

ユアサ商事事件(中労委平成27年6月17日・労判1121号93頁)

【事案の概要】

本件は、Xユニオンが、Y社に対し、A1組合員の継続雇用後の再雇用拒否等を議題として団交を申し入れたところ、Y社が、A1を再雇用を拒否した事実はないこと、5回にわたって団交に応じ、説明を尽くしてきたこと等を理由に本件団交申入れに応じなかったことが不当労働行為に当たるとして、東京都労委に救済申立てを行った事案である。

同労委は、申立てを棄却したので、本件再審査を申し立てた。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にはあたらない。
→初審命令を維持

【命令のポイント】

1 組合は、5回の団体交渉を通じ一貫して、高年法の趣旨に関する組合の解釈、つまり、65歳までの雇用を確保することが原則であるとの主張を主要な根拠として、A1の契約更新を求めていた。高年法の解釈と運用については、会社は、第2回団体交渉において、65歳までの雇用を義務づけるものではないという見解を示し、以後その見解を変えることはなく、この点についても両者の考え方は平行線をたどっていた。当時、高年法については、65歳までの雇用確保を必ずしも義務づけるものではなく、高年法の趣旨に沿った実質的な運用を求めるというものであり、その旨は、組合も団体交渉で述べていた。したがって、A1の契約更新の可否を判断するに当たり、高年法の解釈と運用に関して、上記のように会社と組合との見解が相違したとしても、そのことをもって、会社の対応を不相当であると断じることはできない状況であった

2 こうした団体交渉の状況に鑑みれば、組合が、能力評価の不相当性や高年法の趣旨を踏まえてA1の契約更新を要求した点は、組合と会社の間で更に交渉を重ねても、それ以上進展する見込みがない段階に至っており、少なくとも第5回団体交渉の時点で、会社と組合の間の団体交渉は行き詰まりに達していたといわざるを得ない。

ここで注意すべきなのは、会社としては、団体交渉のあまりにも早期の段階で、「これ以上交渉しても平行線である」と判断してしまうことは避けるべきである、ということです。

平行線をたどっていると思われても、それでも一定の回数を重ねることには意味があると考え、団体交渉に応じるべきだと考えます。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介512 わりきりマネジメント(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。
わりきりマネジメント

サブタイトルは、「最少の労力で120%の成果を生む中間管理職の仕事術」です。

これからのマネジメントは『やりくり』ではなく『わりきり』」だと著者は言っております。

逆転の発想系です。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

『頼まれ事は、試され事だよ』 マネージャーが部下に頼み事をするシチュエーションで口にする一言です。仕事を任せるからには、相手は基本的に『コイツならできる』と信頼している部下です。・・・内心はマネジャーも『本当にできるかな?』と不安に駆られています。実務をこなすのは部下でも、結果に対して責任を負うのはマネジャーですから。そこで、マネジャーも部下を試そうとする。頼み事をした時の、部下の受け取り方を観察しているのです。」(189~190頁)

仕事を上司から振られているうちは、なかなか気がつかない発想ですね。

自分が仕事を部下に振る立場になるとよくわかります。

上司は、仕事の重要性、難易度と部下の能力、性格、向上心等を総合的に考慮して、誰に仕事を任せるのかを決めているのです。

つまり、部下としては、ハードルの高い仕事を任されているうちが花なのです。

そのようなハードな仕事を任されなかった方は、「ラッキー、自分じゃなくてよかった」ではないのです。

あなたにはいろんな理由で任せられないと判断されているだけなのですから。

ラッキーでもなんでもないのです(笑)

自分が上司や会社からどのくらい信頼されているのかは、日々、任される仕事の内容からおおよそ判断することができるわけです。

仕事を依頼されているうちが花だということを理解して、日々、努力するほかないのです。

解雇194(アイガー事件)

おはようございます。

今日は、内定取消しに対する損害賠償請求と反訴損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

アイガー事件(東京地裁平成24年12月28日・労判1121号81頁)

【事案の概要】

本件は、(1)Y社の採用内定を受けていたXが、Y社に対し、Y社から違法な①黙示の内定取消しまたは②内定辞退の強要を受けたことにより、内定辞退の意思表示を余儀なくされたとして、不法行為に基づく損害賠償金合計461万9120円(特例措置による留年費用、慰謝料、逸失利益、弁護士手数料)+遅延損害金の支払を求め本訴を提起したのに対し、

(2)Y社が、Xに対し、(ア)Xの上記内定辞退は著しく信義に反するものとして、不法行為または債務不履行に基づく損害賠償金合計118万1784円(無駄になった新卒採用費用、中途採用費用)および(イ)上記本訴請求はいわゆる不当訴訟に当たるものとして、不法行為に基づく損害賠償金245万3498円(本訴反訴の弁護士手数料)+遅延損害金の支払を求め反訴を提起した事案である。

【裁判所の判断】

Xの請求及びY社の反訴請求をいずれも棄却する

【判例のポイント】

1 本件労働契約のように入社日を「効力発生の始期」と定めるものと解した場合、使用者が内定期間中に実施する研修等は、その業務命令に基づくものではなく、あくまで就労の準備行為の一つとして、内定者の任意の参加意思(同意)に基づき実施される性質のものであるから、当然のことながら参加内定者の予期に著しく反するような不利益を伴うものであってはならない
そうだとすると本件各プレゼン研修においても、使用者であるY社は、Xが行ったプレゼンテーションの実演内容が不出来で、一定のレベルに達しないものであったとしても、そのことを理由として本件内定を(明示又は黙示に)取消す旨の意思表示をしたり、当該内定辞退を強要する行為に及ぶことは許されず、Y社は、本件各プレゼン研修に当たって、そのような各行為に及ばぬよう配慮すべき信義則上の義務を負っているものと解され、かかる注意義務に著しく違反する場合には、不法行為に基づく損害賠償責任を免れないものというべきである。

2 本件第3回プレゼン研修におけるE課長の上記一連の発言は、あまりやる気の感じられない入社目前のXに対し危機感を募らせ、予め入社後予定されている営業活動の厳しさにつき体感させることを目的として行われた指導的な発言にとどまるものと認めるのが相当である。
以上によれば、E課長の上記一連の発言は、社会通念に照らし客観的にみる限り、本件内定を辞退するか否かに関するXの自由な意思形成を著しく阻害するような性質のものであったとはいい難く、本件内定辞退の強要に当たるものと評価することはできない

内定取消しに関する裁判例は、それほど多く目にすることがありませんので、是非、考え方を参考にしてください。

就労前の段階でいろいろな研修をする際は、十分にご注意ください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介511 カエルにキスをしろ!(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は本の紹介です。
カエルにキスをしろ!

有名なブライアン・トレーシーさんの本です。

人生や仕事をポジティブに考える秘訣がいくつも紹介されています。

もっとも、こういう本は、人生や仕事をポジティブに考えている人しか読まないのが世の常です(笑)

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

ともに暮らし、働き、つきあう人たちをどう選ぶか。それが、あなたの感情や成功を、ほかのどんな要因よりも大きく左右する。
成功者や前向きな人、幸せで楽観的な人、成功しようと懸命に頑張っている人たちとつきあうことを、今日、決意しよう。ネガティブな人々は、何としても避けよう。不幸の大半は、彼が主な原因なのだ。今日は、あなたの人生にストレスのもとになる人、ネガティブな人を引き入れないと心に決めよう。」(192~193頁)

これは見落としがちですが、本当に本当に大切なことです。

みなさん、これまで、自分がどれだけ周囲の環境に影響されてきたでしょうか。

言うまでもなく、環境は、良くも悪くも自分に非常に強く影響します。

自分の力ではどうにも変えようがない環境に文句を言っても仕方がないですが、変えることができる環境ならば、自分に良い影響を与えてくれる環境を選択するべきです。

それによって、価値観、考え方、生き方が大きく変わります。

一緒に食事に行くのなら、成功している人、前向きな人と行くべきですよね。

仕事が辛いと嘆いていたり、人の悪口ばかりを言って楽しんでいるような会に参加して何の得があるでしょう。

付き合う人を選ぶというのは、本当に大切なことです。

有期労働契約60(シャノアール事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、約8年半更新を繰り返したアルバイトに対する雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

シャノアール事件(東京地裁平成27年7月31日・労判1121号5頁)

【事案の概要】

本件は、XがY社の下で長期間アルバイトとして勤務してきたが、Y社の方針により雇止めされたことに対し、雇止めの無効を主張して、地位確認及び賃金請求をする事案である。また、Xが加入した組合とY社との間での団体交渉等でのY社の発言が不法行為に該当するものとして、慰謝料の請求もしている。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 アルバイトの有期労働契約の契約更新手続が形骸化した事実はなく、X・Y社間の労働契約は期間満了の都度更新されてきたものと認められることから、本件雇止めを「期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該機関の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視」することはできず、労働契約法19条1号には該当しない

2 あくまで印象論ではあるが、当裁判所にはXとH店長との契約更新手続における会話にぎこちなさを感じており、組合交渉中であることを割り引いて考えるとしても、XとH店長とのコミュニケーションの密度の薄さを推認させる。そうすると、H店長がXの勤務頻度の低さを問題視し、雇止めを検討することは不合理ではない
結局のところ、本件ではY社組合間での組合交渉が継続していたことから、H店長が店長権限でXを雇止めすることが結果としてできなかったにすぎず、本来であれば、本件雇止め当時、XはH店長から勤務頻度の少なさを理由として雇止めされてもおかしくない立場にあったと客観的に評価される
・・・以上を総合とすると、Xの雇用継続の期待は単なる主観的な期待にとどまり、同期待に合理的な理由があるとはいえないことから、労働契約法19条2号にも該当しない

3 ・・・しかし、本来議論は論理的に行われるべきところ、議論においては主張を的確に捉えることに主眼が置かれるはずである。Xは、G人事部長の述べる理由の一部の言葉をとらえて不法行為の成立を問題としていることになるが、議論全体からすればごく一部の事項であるし、理由は主張と関連づけて理解されるべきものである。G人事部長にXの人格を傷付ける意図があったことを認めるに足りる証拠がないことをも考慮すると、当裁判所としては、G人事部長の発言の評価につき、やや不相当な面があったきらいはあるとしても、違法な発言とまでは評価できない。その他、Y社の発言が違法であると認めるに足りる証拠はない。

交渉中の一部の発言を取り上げて、その発言を不法行為と捉えられた場合、上記判例のポイント3を参考にしてみてください。

交渉全体、前後の文脈から判断すれば、不法行為とまではいえないということも多々あろうかと思いますので。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

本の紹介510 稚拙なる者は去れ(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。
稚拙なる者は去れ 天才心臓外科医・渡邊剛の覚悟

心臓外科医渡邊剛医師に関する本です。

これまでにも何名かの一流の医師の本を紹介してきました。

みなさん、本当にすばらしいプロフェッショナルだと思います。

いつも仕事に対する姿勢を勉強させていただいております。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

膨大な本数のメールを介した渡邊と患者たちの交信記録から読み解けるのは、自分の都合、自分の時間を犠牲にすることもいとわず、病と闘う人たちに寄り添うことを哲学とする渡邊のひたむきな生きかたにほかならない。・・・『手術について不安を持たれている方、詳しく知りたい方は、または心臓の病気で悩んでいらっしゃる方、どのような内容でも構いませんので、お気軽にご相談下さい』と結んだ言葉には、万人に門戸を開いて全身全霊を傾ける覚悟が宿っていると思えてならない。」(42~43頁)

本当に素晴らしいことですね。

みんながみんな、できることではありません。

「覚悟」を持った、ほんの一部の人だけの世界なのかもしれません。

まさに別次元と言っていいと思います。

自分の仕事に全身全霊を傾ける「覚悟」がなければとてもできません。

一流のプロフェッショナルになりたいのであれば、誰に言われるでもなく、この次元で日々戦う覚悟が必要なのでしょう。

解雇193(日本電気事件)

おはようございます。

今日は、休職期間満了による自然退職の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

日本電気事件(東京地裁平成27年7月29日・労経速2259号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用され、業務外の傷病により休職し、就業規則の定めに基づき休職期間満了により退職を告知されたXが、休職期間満了時において就労が可能であったと主張して、休職期間満了後の賃金及び賞与、遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件休職命令は、解雇の猶予が目的であり、就業規則において復職の要件とされている「休職の事由が消滅」とは、XとY社の労働契約における債務の本旨に従った履行の提供がある場合をいい、原則として、従前の職務を通常の程度に行える健康状態になった場合、又は当初軽易作業に就かせればほどなく従前の職務を通常の程度に行える健康状態になった場合をいうと解される。また、労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務を提供することができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った労務の提供があると解するのが相当である(片山組事件最高裁判決参照)。

2 ・・・Xの従前の業務である予算管理の業務は、対人交渉の比較的少ない部署であるが、指導を要する事項について上司とのコミュニケーションが成立しない精神状態で、かつ、不穏な行動により周囲に不安を与えている状態では、同部署においても就労可能とは認め難い
したがって、本件休職期間満了時において、Xが従前の職務である予算管理業務を通常の程度に行える健康状態、又は当初軽易作業に就かせればほどなく当該職務を通常の程度に行える健康状態になっていたとは認められない。

復職の可否については、多分に事実認定に依拠しているため、判断の有効性に関する予測可能性が極めて低いと言えます。

もっとも、これは労働事件の多くのケースがそうであるため、復職の可否に限ったことではありませんが・・。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介509 7つの法則 ビジネスを成功させる正しいコツ(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。
7つの法則 ― ビジネスを成功させる正しいコツ

有名なマーク・トンプソンさんとブライアン・トレーシーさんの本です。

タイトルのとおり、ビジネスを成功させるために必要な考え方が網羅的に書かれています。

ポイントが非常にコンパクトにまとめられているので、とても読みやすいです。

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

『ナンバーワンを狙う二番手か三番手の企業が、イノベーションのための提携にもっとも積極的であることが多い』とSSABのオロフ・ファクサンダーCEOは言う。『どんな業界でも、ほぼ必ずと言っていいほど、二番手や三番手の企業のほうがトップの企業よりも貪欲だ』『現状に甘んじている者はこれを教訓にしたほうがいい』とファクサンダーは警告する。」(153~154頁)

どの業界でも、全く同じことが言えるのではないでしょうか。

現状のままでいいと言っている会社がある一方で、トップランナーに追いつき、追い越そうとする貪欲な二番手、三番手がいるわけです。

革新的なサービスは、貪欲な二番手、三番手が生み出さなければ話にならないのです。

トップランナーと同じ商品、同じやり方では、いつまでたっても追いつくことはできません。

トップランナーが決して真似できないようなサービスで勝負するべきです。

貪欲さこそ、二番手、三番手のエネルギーですから、がむしゃらに頂点を狙っていかなければ勝負にならないのです。

従業員に対する損害賠償請求1(N社事件)

あけましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いいたします。

さて、今日は、任務懈怠行為を理由とする元従業員に対する損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

N社事件(東京地裁平成27年6月26日・労経速2258号9頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が、元従業員であったXに対し、Y社の在職中の任務懈怠行為により損害を被ったとして、労働契約上の債務不履行責任に基づく損害賠償として3600万円及び遅延損害金の支払を求めるものである。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社は、A社から取引を打ち切られた損害が4800万円であると主張する。しかし、以下のとおり、A社との取引継続の蓋然性は低いものであったと言わざるを得ない。
そもそも本件契約の契約書によれば、B社長のマンパワーの投入も予定されていたことが認められることから、B社長自身も前記の作業を行うべきものである。作業予定が進まなかったことを一方的にXのみの責任と評価することはできない。むしろ、B社長のA社長代表者に対する平成20年6月4日付けのメールによれば、B社長は、XがCEFフィルターの結果を毎日午前中2、3時間使ってチェックしていることを、A社に対するアピールの一つとして報告しているのであるから、B社長自身がXの任務懈怠をさほど重く捉えていなかったことが認められるし、B社長にもA社が当時Y社に対して抱いていた不満を切実に受け止め切れていなかった甘さが認められる
そうすると、B社からの継続した収入が得られたと認めるに足りず、Y社主張の損害の発生は認められない。

2 Y社は、B社長らがXから受けた業務阻害がなければ挙げられたであろう営業粗利益を損害として主張する。
確かに、Xの任務懈怠により、周囲が支援・助力を余儀なくされ、ひいては、Y社全体の業務運営が阻害されることにつながったことは認められるものの、損害発生の前提となるY社の販売計画がどのようなものであり、同計画の達成度がどのような状況にあったかについては、これを認めるに足りる証拠はない
また、売上げ達成の見込みは、Y社の販売する製品の商品力、営業担当者の営業力、競合他社の状況、市場の景況感等によって左右されるものであり、これらの検討無くして増収見込みの蓋然性は明らかとはならない。そうすると、B社長の陳述書におけるY社主張の損害に関する陳述のみではY社主張の損害の発生自体を認めるに足りない

3 ちなみに、使用者は、解雇以外にも様々な労務管理上の措置を労働者に講ずることが可能である。一般的には、定期的な人事評価を実施して待遇に反映させるほか、当該人事評価の理由等を上司から直接説明するとともに、当該労働者の業務遂行上の問題点を指摘しつつ改善に向けた協議をすることが考えられるし、それによる改善への試みが功を奏さず同労働者の意欲・能力等の問題の改善見込みが乏しいというのであれば、同労働者による業務上の失敗あるいはこれに伴う損害の発生を防ぐために、同労働者に重要案件を担当させないこととしたり、配置転換を検討することなどが考えられる。また、非違行為に関しては、懲戒処分に処して改善を促すことで対応すべきであるし、解雇事由と評価できるまでの事情がない場合であっても退職勧奨は可能である。しかるに、本件解雇までの間に、上記のような対応をY社がXに講じたことを認めるに足りる証拠はなく、かえって、作成を予定していた就業規則が本件解雇時に至るまで作成されず、Y社が労務管理上の不備を放置していた状況も認められる。そうすると、対応の不手際及び労務管理上の不備によって被る不利益を甘受すべき責任がY社にある
上記検討によれば、Xの任務懈怠事実とY社主張の損害との間の相当因果関係についてもこれを認めるに足りない。

会社から従業員に対する損害賠償請求がいかに難しいかがよくわかる事例です。

本件のようなケースでは、上記判例のポイント2を見ていただくとわかるように、損害の立証がとても大変なのです。

裁判所は、会社に対して、労務管理でなんとかしなさい、と言っています・・・。

労務管理は日頃の習慣の問題です。顧問弁護士に相談しながら日々適切に対応しましょう。