おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。
今日は、前訴和解条項の不履行と名誉毀損行為に対する損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。
神奈川SR経営労務センターほか事件(東京高裁平成27年8月26日・労判1122号5頁)
【事案の概要】
本件は、Y社の従業員であるXが、職場のパワーハラスメント等による損害の賠償を求めてY社及びB他1名を被告として提起した訴訟において、平成24年11月26日に裁判上の和解が成立したにもかかわらず、その後、Y社、その代表者会長であるB及び副会長であるその余の被控訴人らが、前訴和解の合意事項を遵守しないばかりか、平成25年6月4日に開催されたY社の平成25年度通常総会等において、共同してXに対する名誉毀損行為を行ったため、著しい精神的苦痛を受けたとして、被控訴人らに対し、債務不履行又は共同不法行為による損害賠償請求権に基づき、連帯して慰謝料300万円及び弁護士費用30万円の合計330万円の損害賠償+遅延損害金の支払をそれぞれ求めた事案である。
原審がXの請求をいずれも棄却したので、Xが各控訴した。
【裁判所の判断】
被控訴人らは、Xに対し、連帯して330万円+遅延損害金を支払え。
【判例のポイント】
1 Cの本件総会におけるXに関する発言は、「いきなり声を張り上げて、一方的に同じ内容を繰り返し、約1時間近くしゃべりまくって全然こちらの意見を聞こうとしないというふうな状況があった」、「一層激しくなってきて、一方的にまくし立てるというようなこともございます。その間、その甲野さんの会話に職員のHさんが一緒に加わって、二人でワーワー騒ぐというような事態が起こっております。実際に職場の秩序がだんだん失われていくような状況だった」といったものであったことが認められる。
これらの発言は、本件総会に出席した会員らに、Xが問題行動をする職員であるとの印象を持たせ、その社会的評価を著しく低下させる行為である。そして、その発言内容は、総会における議案の説明又は質問に対する答弁として必要かつ相当な範囲を超えているから、違法にXの名誉を毀損していると認められる。
2 ・・・そうであるにもかかわらず、これら被控訴人らは、自らが当事者又はその役員として関係する労働事件である前件訴訟において成立した前訴和解について、本来なら、常に品位を保持し、業務に関する法令及び実務に精通して、公正な立場に立ち、社会保険労務士の信用又は品位を害するような行為をしてはならないにもかかわらず、専門分野であるはずの労務管理上の対応を誤り、裁判上合意して成立した前訴和解に基づく再発防止義務及び周知義務の履行を怠るというY社の不相当な皆無執行を助長したか、少なくとも放置したというべきである。
したがって、その責任は重大であって、いずれも共同して義務違反の責任を負うところ、上記義務違反は、Y社に対する忠実義務違反の責任を伴うほか、Xに対する関係でも、違法であって、故意又は少なくとも過失が認められることから、共同不法行為の責任を負うものというべきである。
3 CのXに対する名誉毀損に係る発言は、本件総会において、会長及び副会長で構成される執行部の立場を代表してされたものであり、これら被控訴人らは、本件総会に先だって、正副会長会議なる会合を持って答弁内容等を打ち合わせたことがうかがわれるから、理事であるCの名誉毀損行為について、Y社は、権利能力なき社団として不法行為責任を負い、Bを始めとする他の被控訴人は、故意又は少なくとも過失が認められることから、Cと共同して、いずれもXに対する名誉毀損の共同不法行為責任を負う。
非常に厳しい判決ですね。
前訴和解での約束の不履行の程度や当事者の職業などからこのような結果になったのでしょう。
上記判例のポイント2は、弁護士・社労士としては十分理解しておかなければなりません。
ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。