おはようございます。
今日は、前訴判決に基づく強制執行の不許等請求と反訴損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。
ブルームバーグ・エル・ピー(強制執行不許等)事件(東京地裁平成27年5月28日・労判1121号38頁)
【事案の概要】
1 本訴事件
本訴事件は、Xを雇用していたY社が、Xに対し、主位的に、XのY社に対する平成22年9月1日以降の賃金請求等を認容した前訴判決について、同日から平成25年5月9日までの分の賃金請求に対しては、弁済による賃金請求権の消滅を、同月10日以降の分の賃金請求に対しては、解雇による雇用契約の終了を、それぞれ請求異議の事由として、前訴判決に基づく強制執行の不許を求める(主位的請求(1))とともに、雇用契約の不存在の確認を求め(主位的請求(2))、また、Y社が上記解雇の後にXに賃金として支払った金員について、法律上の原因を欠くものであり、Xは悪意の受益者であったと主張して、不当利得の返還及び利息の支払を求め(主位的請求(3))、予備的に、XにY社の東京支局のReporter(記者)以外の職で勤務することを命じることができる雇用契約上の権利の確認を求める(予備的請求)事案である。
2 反訴事件
反訴事件は、Xが、Y社による上記解雇及び本訴事件の訴え提起等が被告に対する不法行為に該当すると主張して、慰謝料300万円及びこれに対する上記解雇の日以降の遅延損害金の支払を求める(反訴請求(1))とともに、平成22年9月支給分から平成25年4月支給分までの賃金に対する遅延損害金の支払を受けていないとして、雇用契約に基づき、未払の遅延損害金167万1725円の支払を求める(反訴請求(2))事案である。
【裁判所の判断】
1 XからY社に対する地位確認等請求事件の判決主文第2項に基づく強制執行は、平成25年5月25日限り47万9032円及び同年6月から毎月25日限り67万5000円を超える部分については、これを許さない。
2 Y社は、Xに対し、167万1725円を支払え。
3 Y社のその余の主位的請求をいずれも棄却する。
4 Y社の予備的請求に係る訴えを却下する。
5 Xのその余の反訴請求を棄却する。
【判例のポイント】
1 本件提案は、その通知書に「下記のとおり提案します。」と明記され、また、提示された復職の条件のうち、復職先の職種、賃金の額、復職日のいずれも具体的に特定されていないことから明らかなとおり、飽くまで復職条件等に関する提案にすぎず、就労義務の履行としての復職を催告し、あるいは、業務命令権の行使として復職を命じる趣旨であると評価する余地のないものである。
したがって、Xにおいて、本件提案を応諾し、本件提案に係る復職条件を前提とする協議に応じる法律上の義務を負うとか、そうでなくても、協議に応じてしかるべきであったなどと解すべき根拠は乏しい。
2 この点、使用者が、労働者に対し、使用者としての立場で、当該労働者の配置先等の労働条件について協議するよう求めたときには、労働者がこれに応じ、誠実に協議すべき義務を負うと解すべき場合もあり得る。
しかしながら、本件において、Y社は、Xとの間で第1次解雇の有効性についての争いがあり、いまだ前訴事件が控訴審に係属している状況の中で、飽くまでも第1次解雇が有効であり、したがってY社がXの使用者ではないことを前提に、Y社が第1次解雇の撤回に応じることの条件として、本件提案に係る復職条件に同意することを求めたものであるから、本件提案は、紛争の当事者という立場で和解を提案する趣旨に出たというべきものであり、本件提案について、Y社が使用者として有する業務命令権等の権限を行使したものであったと評価することはできない(換言すれば、Y社は、Xの使用者ではないという立場を維持しつつ本件提案をしたものであるから、本件提案に雇用契約上の権利の行使という側面があったと評価する余地はない。)。
そうすると、本件提案に応じるか否かは、基本的には、Xの自由な判断に委ねられるべきものであり、Xがこれに応じない旨の意思を明らかにしたからといって、そのこと自体に何ら責められるべき点はないというべきである。
3 本訴事件の予備的請求は、Y社がXに対し、東京支局のReporter(記者)以外の職で勤務することを命じることのできる雇用契約上の権利を有することの確認を求めるというものである。
しかしながら、本件権利は、これを行使することによりY社とXとの間の法律関係を変動させる効果を生じさせるものであるが、いまだ行使されておらず、将来行使されるか否かも現在は明らかでない。また、Y社が本件権利を有していても本件権利の行使が権利の濫用に当たる場合はその効力を生じないことから明らかなように、本件権利の存否を確定することによって将来本件権利が行使されたときの法律関係が明確になるということもできない。
そうすると、本件権利を巡る紛争は、Y社において、本件権利を行使した後、これにより生じた法律効果を前提として給付や確認の訴えを提起することによって解決するのが適切であり、行使されるか否かも明らかでない現時点において、本件権利それ自体の存在の確認を求める訴えは、即時確定の利益を欠くというべきである。
労働判例としては、あまりお目に掛からない訴訟内容です。
上記判例のポイント1、2の判断は賛成です。
解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。