おはようございます。
今日は、内定取消しに対する損害賠償請求と反訴損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。
アイガー事件(東京地裁平成24年12月28日・労判1121号81頁)
【事案の概要】
本件は、(1)Y社の採用内定を受けていたXが、Y社に対し、Y社から違法な①黙示の内定取消しまたは②内定辞退の強要を受けたことにより、内定辞退の意思表示を余儀なくされたとして、不法行為に基づく損害賠償金合計461万9120円(特例措置による留年費用、慰謝料、逸失利益、弁護士手数料)+遅延損害金の支払を求め本訴を提起したのに対し、
(2)Y社が、Xに対し、(ア)Xの上記内定辞退は著しく信義に反するものとして、不法行為または債務不履行に基づく損害賠償金合計118万1784円(無駄になった新卒採用費用、中途採用費用)および(イ)上記本訴請求はいわゆる不当訴訟に当たるものとして、不法行為に基づく損害賠償金245万3498円(本訴反訴の弁護士手数料)+遅延損害金の支払を求め反訴を提起した事案である。
【裁判所の判断】
Xの請求及びY社の反訴請求をいずれも棄却する
【判例のポイント】
1 本件労働契約のように入社日を「効力発生の始期」と定めるものと解した場合、使用者が内定期間中に実施する研修等は、その業務命令に基づくものではなく、あくまで就労の準備行為の一つとして、内定者の任意の参加意思(同意)に基づき実施される性質のものであるから、当然のことながら参加内定者の予期に著しく反するような不利益を伴うものであってはならない。
そうだとすると本件各プレゼン研修においても、使用者であるY社は、Xが行ったプレゼンテーションの実演内容が不出来で、一定のレベルに達しないものであったとしても、そのことを理由として本件内定を(明示又は黙示に)取消す旨の意思表示をしたり、当該内定辞退を強要する行為に及ぶことは許されず、Y社は、本件各プレゼン研修に当たって、そのような各行為に及ばぬよう配慮すべき信義則上の義務を負っているものと解され、かかる注意義務に著しく違反する場合には、不法行為に基づく損害賠償責任を免れないものというべきである。
2 本件第3回プレゼン研修におけるE課長の上記一連の発言は、あまりやる気の感じられない入社目前のXに対し危機感を募らせ、予め入社後予定されている営業活動の厳しさにつき体感させることを目的として行われた指導的な発言にとどまるものと認めるのが相当である。
以上によれば、E課長の上記一連の発言は、社会通念に照らし客観的にみる限り、本件内定を辞退するか否かに関するXの自由な意思形成を著しく阻害するような性質のものであったとはいい難く、本件内定辞退の強要に当たるものと評価することはできない。
内定取消しに関する裁判例は、それほど多く目にすることがありませんので、是非、考え方を参考にしてください。
就労前の段階でいろいろな研修をする際は、十分にご注意ください。
解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。