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今日は、財政状況・東日本大震災を理由とする給与減額に対する差額等請求に関する裁判例を見てみましょう。
国(国家公務員・給与減額)事件(東京地裁平成26年10月30日・労判1122号77頁)
【事案の概要】
本件は、政府が、厳しい財政状況及び東日本大震災に対処する必要性に鑑み、一層の歳出の削減が不可欠であるとして、国家公務員の給与について減額支給措置を講ずる方針を決定し、当該措置を実施するため国会に提出した給与臨時特例法案の内容を基礎として、議員立法により平成24年2月29日に成立し翌3月1日に施行された給与改定・臨時特例法について(1)個人原告らが、被告に対し、①国家公務員の給与減額支給措置を講じるに当たり、人事院勧告に基づかず、かつ、職員団体との合意に向けた交渉を尽くさず制定され、立法事実に合理性・必要性もない給与改定・臨時特例法は、憲法28条、72条、73条4号、ILO第87号条約及びILO第98号条約に違反し無効である旨主張して、従前の法律状態に基づく給与相当額との差額の支払を請求し(差額給与請求)、これと選択的に、国会議員が、人事院勧告に基づかずに、また、政府をして原告X労連と団体交渉を行わせることなく給与改定・臨時特例法を成立させた行為並びに内閣総理大臣が、人事院勧告に基づかず、国会議員により提案された給与改定・臨時特例法の成立を看過し、その成立に際して原告X労連と団体交渉を行わなかった行為及び憲法とILO条約に反する給与改定・臨時特例法に基づき減額された給与を支払った行為が、それぞれ国賠法上違法である旨主張して、同法1条1項に基づき、給与減額相当分の損害の賠償を請求(損害賠償請求)するとともに、②上記の違法行為による慰謝料として、個人原告ら1人あたり10万円の支払を求め、(2)原告X労連が、被告に対し、給与改定・臨時特例法が成立する過程において、内閣総理大臣が原告X労連と団体交渉を行わなかったことなどが国賠法上違法である旨主張して、同法1条1項に基づき、1000万円の支払を求める事案である。
【裁判所の判断】
請求棄却
【判例のポイント】
1 原告らは、本件で問題となっているのは、年間約2900億円の給与減額の問題であり、一般論として「我が国の厳しい財政事情」を論じても意味がない、国の財政事情及びその国家公務員の給与との関係を客観的に見れば、国家公務員の給与を2年間で約5800億円削減することが必要となるほどの「厳しい財政事情」にあったとはいえない旨主張する。
確かに、国家公務員の給与を減額しても年間約2900億円の歳出削減にしかならず、平成24年度末の公債発行残高705兆円に遠く及ばないことは明らかであり、今回の給与減額支給措置が直ちに被告主張の厳しい財政事情の改善をもたらすものとは考え難い。
しかし、政府(国会)としては、厳しい財政事情を改善するために様々な措置をとる必要性があるのであって、その様々な措置の取り方について議論はあるにしても、その一つとしての給与減額支給措置をとるとする判断が不合理なものとはいえない。もとより、厳しい財政事情が直ちに解消するとは考え難い現状において、そのことのみをもって今回のような大幅な給与減額支給措置の必要性が当然に満たされるかについては議論があり得るところではあるが、今回給与減額支給措置がとられた理由としては、厳しい財政事情に加えて、東日本大震災が発生し、短期的にみて復興予算確保の必要性が生じた状況が存在するのであり、この事情を併せ考えれば、本件給与減額支給措置を実施することが、そのことのみによって直ちに厳しい財政事情を有意に改善することにならないからといって、その必要性が否定されるものではない。
2 ・・・これらの事情からすれば、給与減額支給措置が恒久的、あるいは長期間にわたるものや、減額率が著しく高いものであればともかく、今回、前記の必要性のもと、東日本大震災を踏まえた2年間という限定された期間の臨時的な措置として、平均7.8%という減額率で実施された本件給与減額支給措置について、人事院勧告制度がその本来の機能を果たすことができなくなる内容であると評価することは相当ではない。
3 国家公務員の場合、私企業とは異なり給与の財源が国の財政とも関連して主として税収によって賄われるため、その勤務条件は全て政治的、財政的、社会的その他諸般の合理的な配慮により適当に決定されなければならないとされている上、その決定手続も、私企業の場合のように労使間の自由な交渉に基づく合意によるのではなく、国民の代表者により構成される国会での法律・予算の審議・可決に基づくものとされているため、原告らの主張する準則は、そもそも、国家公務員の給与減額支給措置の場合に当てはまるとはいえず、民間労働者に適用される「就業規則による労働条件の不利益変更法理」と同等の要件が満たされなければならないことを前提とする原告らの主張は採用できない。
公務員の特殊性から、上記のような判断がなされています。
日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。