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今日は、経歴詐称等を理由とする労働者に対する解雇、損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。
K社事件(東京地裁平成27年6月2日・労経速2257号3頁)
【事案の概要】
本件本訴事件は、平成25年12月からY社で稼働していたところ、経歴能力の詐称等を理由として平成26年4月25日限りで解雇されたXが、本件解雇は解雇権の濫用として無効であると主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、未払賃金・遅延損害金の支払を求め、さらには、本件解雇後3か月分の賃金合計180万円+遅延損害金の支払を求めた。
一方、本件反訴事件は、Y社が、Xは職歴、システムエンジニアとしての能力及び日本語の能力を詐称してY社を欺罔しY社を誤解させて雇用契約を締結させたものであり、これは詐欺に当たるところ、Y社はXに支払った賃金合計230万4885円のほか、Xに代わり業務を行う者の派遣を受けて支払った2か月分の派遣料合計244万2825円とXに支払った2ヶ月分の賃金120万円との差額124万2825円の損害を受けたと主張して、不法行為による損害賠償として前記230万4885円と124万2825円の合計354万7710円+遅延損害金の支払を求めた事案である。
【裁判所の判断】
Xの請求をいずれも棄却する。
Xは、Y社に対し、74万8600円+遅延損害金を支払え。
【判例のポイント】
1 企業において、使用者は、労働者を雇用して、個々の労働者の能力を適切に把握し、その適性等を勘案して労働力を適切に配置した上で、業務上の目標達成を図るところ、この労使関係は、相互の信頼関係を基礎とする継続的契約関係であるから、使用者は、労働力の評価に直接関わる事項や企業秩序の維持に関係する事項について必要かつ合理的な範囲で申告を求め、あるいは確認をすることが認められ、これに対し、労働者は、使用者による全人格的判断の一資料である自己の経歴等について虚偽の事実を述べたり、真実を秘匿してその判断を誤らせることがないように留意すべき信義則上の義務を負うものと解するのが相当である。
そうすると、労働者による経歴等の詐称は、かかる信義則上の義務に反する行為であるといえるが、経歴等の詐称が解雇事由として認められるか否かについては、使用者が当該労働者のどのような経歴等を採用に当たり重視したのか、また、これと対応して、詐称された経歴等の内容、詐称の程度及びその詐称にようr企業秩序への危険の程度等を総合的に判断する必要がある。
2 そもそも雇用関係は、仕事の完成に対し報酬が支払われる請負関係とは異なり、労働者が使用者の指揮命令下において業務に従事し、この労働力の提供に対し使用者が賃金を支払うことを本質とするものであり、使用者は、個々の労働者の能力を適切に把握し、その適性等を勘案して労働力を適切に配置した上で、指揮命令等を通じて業務上の目標達成や労働者の能力向上を図るべき立場にある。
そうすると、労働者が、その労働力の評価に直接関わる事項や企業秩序の維持に関係する事項について必要かつ合理的な範囲で申告を求められ、あるいは確認をされたのに対し、事実と異なる申告をして採用された場合には、使用者は、当該労働者を懲戒したり解雇したりすることがあり得るし、労働者が指揮命令等に従わない場合にも同様であるとしても、こういった労働者の言動が直ちに不法行為を構成し、当該労働者に支払われた賃金が全て不法行為と相当因果関係のある損害になるものと解するのは相当ではない。
また、使用者が業務上の目標とした仕事について労働者の能力不足の故に不測の支出を要した場合であっても、当該支出をもって不法行為による損害とするのは相当ではない。労働者が、前記のように申告を求められ、あるいは確認をされたのに対し、事実と異なる申告をするにとどまらず、より積極的に当該申告を前提に賃金の上乗せを求めたり何らかの支出を働きかけるなどした場合に、これが詐欺という違法な権利侵害として不法行為を構成するに至り、上乗せした賃金等が不法行為と相当因果関係のある損害になるものと解するのが相当である。
丁寧に一般論を説明してくれています。
経歴詐称の事案において、非常に参考になる裁判例ですね。
是非、参考にしてください。
解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。