おはようございます。
今日は、能力不足等を理由とする解雇の有効性と地位確認等請求に関する裁判例を見てみましょう。
弁護士法人レアール法律事務所事件(東京地裁平成27年1月13日・労判1119号84頁)
【事案の概要】
本件は、Y社に雇用されていたところ解雇されたXが、Y社に対し、次のとおりの請求をする事案である。
①解雇が無効であると主張して地位の確認。
②上記①と同じ主張に基づき解雇後の賃金の支払。
③上記①と同じ主張に基づき解雇後の賞与の支払。
④違法解雇に基づく慰謝料及び弁護士費用の支払。
⑤割増賃金及び付加金の支払。
⑥上司からパワーハラスメントを受けたとして慰謝料及び弁護士費用の支払。
【裁判所の判断】
1 XのY社に対する賃金請求及び賞与請求に係る訴えのうち、本判決確定日の翌日以降の支払を求める部分を却下する。
2 Y社は、Xに対し、40万6500円及び遅延損害金を支払え。
3 Y社は、Xに対し、平成25年9月から平成26年9月まで、毎月25日限り各27万1000円及び遅延損害金を支払え。
4 Y社は、Xに対し、8万1300円及び遅延損害金を支払え。
5 Y社は、Xに対し、54万2000円及び遅延損害金を支払え。
6 Y社は、Xに対し、69万5846円及び遅延損害金を支払え。
7 Y社は、Xに対し、付加金69万5846円及び遅延損害金を支払え。
8 Y社は、Xに対し、22万円及び遅延損害金を支払え。
【判例のポイント】
1 Y社と業者が和解書を取り交わす際に、担当弁護士の決裁を経ることが定められていないY社の事務処理体制が不適切であったというべきであり、適切な事務処理体制を定めずにXに和解の処理を任せていたY社がXを責めることはできない。
・・・Xは、当該依頼者についての他の業者の過払金779円については、依頼者から了解をとった上で債権債務なしの和解をしており、通常は依頼者の意思を確認していたと認められるし、過払金が293円に過ぎないならば放棄するのが依頼者の合理的意思であり、依頼者からのクレームがあったわけでもなく、Xが当該案件で依頼者の意思を確認していなかったことをもって、能力不足を基礎付ける事情ということはできない。
・・・問題とされている案件において、履歴開示がされた平成24年5月には、同年9月24日に消滅時効の期間が経過することが判明していたのであって、担当弁護士が時効を管理する体制が整えられていなかったことが問題というべきである。当該案件を同年8月頃に引き継いだXに、時効期間が経過したことについて、大きな責任は認められない。
2 以上のとおり、Y社の主張する解雇事由は、ミスといえないものか、重大とはいえないミスであって、Xは就業規則48条2号の「従業員の就業状況または職務能力が著しく不良で、就業に適さないと認められる場合」にも同条4号の「前号のほか、やむを得ない事由がある場合」にも当たらない。したがって、本件解雇は無効である。
3 Bが、弁護士費用の一部を精算していなかったXに対し、他の職員の前で「これこそ横領だよ」と言ったとするX供述は、Xが当日交際相手に送ったメールの記載に裏付けられており、信用できる。Xを犯罪者呼ばわりしたことは、不法行為に当たる。
Bが、Xの接客態度について、「気持ち悪い接客をしているからこういう気持ち悪いお客さんにつきまとわれるんだよ。Xさんはこういう気持ち悪い男が好きなのか」と言ったとするX供述は、Xが当日交際相手に送ったメールの記載に裏付けられており、信用できる。Bのこの言動は、原告に対する侮辱であって、不法行為に当たる。
上記のとおり認定したBのXに対する不法行為の態様からすれば、Xに対する慰謝料は20万円、弁護士費用は2万円を相当額と認める。
事務所の事務処理体制の不適切さを数点指摘されています。
能力不足を理由とする解雇は、その裏付けとなる資料をどれだけ揃えられるかにかかっています。
拙速な解雇は避けた方が無難ですね。
解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。