解雇186(日本ボクシングコミッション事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、3次にわたる懲戒解雇の有効性と反訴損害賠償等請求に関する裁判例を見てみましょう。

日本ボクシングコミッション事件(東京地裁平成27年1月23日・労判1117号50頁)

【事案の概要】

本訴請求事件は、Y社の従業員として稼働していたXが、Y社から3次にわたり懲戒解雇の意思表示を受けたところ、これら解雇はいずれも無効であると主張して、Y社との間で雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、雇用契約に基づき、月例賃金35万5000円+毎年6月30日及び12月31日限り、賞与70万円+遅延損害金を求めた事案である。

反訴請求事件は、Y社が、Xの下記義務違反等により損害を被ったなどと主張して、Xに対し、債務不履行又は不法行為に基づき、下記損害額+遅延損害金の支払を求めた事案である。

(1)原告の競業避止義務違反行為、秘密保持義務違反行為、職務専念義務違反行為、労働義務違反行為の債務不履行による賃金相当損害 364万円
(2)原告の被告内部秩序壊乱行為(労働義務違反を内容とする債務不履行及び不法行為)による対応損害 600万円
(3)原告の文科省への不当告発における名誉毀損損害 200万円
(4)原告のb協会長宛の書面による名誉毀損損害 200万円
(5)原告による報道を契機とした名誉毀損損害 200万円

【裁判所の判断】

解雇は無効

反訴請求は棄却

【判例のポイント】

1 就業規則55条が懲戒処分として最も重い懲戒解雇事由を定めていることからすると、同条2号所定の事由があるというためには単に職務の遂行が遅れたというだけでは足りず、その職務の遂行の積極的な懈怠があり、その懈怠が顕著な場合であることを要するというべきである。

2 Y社の就業規則52条2項は、懲戒処分につき、よくその事実を調査し、関係協議の上、処分を決定する旨定めている。したがって、懲戒解雇に当たっては、同条に定める手続を践む必要があるというべきである。また、懲戒解雇を含む懲戒処分は、企業秩序違反行為に対して認められる制裁罰であって、その手続は適正に行われることを要するというべきであり、殊に懲戒解雇は懲戒処分のうち最も過酷な処分であることにも照らすと、その処分を行うに当たっては、特段の支障がない限り、事前に弁解の機会を与えることが必要というべきであり、かかる支障も認められないのに、事前の弁解の機会を経ないまま懲戒解雇を行うことは懲戒手続における手続的正義に反するものとして社会的相当性を欠き、懲戒権の濫用となるものと認めるのが相当である。
しかるところ、本件第2次解雇は、本件仮処分手続においてなされているところ、Xに対して弁明の機会を与えないまま、かかる懲戒解雇の意思表示が行われている。

3 Y社は、Xが、平成23年8月17日から平成24年3月18日までの間、就業時間中、おびただしい回数の職務に関係ないメールの交信を行い、これに要する時間に相当する執務を解怠したとし、就業規則55条2号に該当する旨主張する。
しかし、その主張によっても、かかるメールの送信数が著しく多いものとは認められず、中には、業務との関連の窺われるものもあり、Xが、従前、同種の問題によりY社から注意又は指導を受けたこともなかったことにも照らすと、他の懲戒処分を検討することはともかく、直ちに懲戒解雇をもって臨むべき事由になるなどと認めることはできない

4 労使間の合意や就業規則等に定めがあるなど賞与の支給条件が具体的に定められている場合には、労働者は使用者に対し具体的な賞与請求権を有するものと認めるべきところ、賞与に関する被告の賃金規定14条は、「業績、職員の勤務成績等を勘案して支給する。」、「業績の低下その他やむを得ない事由がある場合には、支給日を変更し、又は支給しないことがある。」と定め、支給条件が具体的に規定するものではなく、他に、法的拘束力を有する労働慣行が確立していたとまでみるべき的確な証拠もない
そうしてみると、本件賞与請求を肯認することはできない。
Xは、Y社は非営利団体であることや、毎年2回基本給2か月分の賞与が支給されていた旨も主張するが、勤務を続けていた場合における具体的な勤務成績等も明らかであるとはいえず、かかる点から上記判断が左右されるとはいえない。

懲戒解雇の難しさがよくわかります。

懲戒解雇をする場合には、事前に顧問弁護士や顧問社労士に必ず相談しましょう。