解雇184(海空運健康保険組合事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、従業員としての資質、能力を欠く等を理由とする解雇を有効と判断した裁判例を見てみましょう。

海空運健康保険組合事件(東京高裁平成27年4月16日・労経速2250号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、Y社が平成24年3月30日に同年4月30日付けでした解雇は、労働契約法16条に照らし無効であるなどと主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、労働契約に基づき、平成24年5月から毎月20日限り、月例賃金等相当額(割増賃金を含む。)として44万1718円及び遅延損害金の支払を求めた事案である。

原審は、XがY社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認し、Xの賃金請求について、平成24年5月から判決確定の日まで、毎月20日限り38万4100円(割増賃金を除く金額)及び遅延損害金の支払を認容した。

そこで、これを不服としてY社が控訴し、Xが附帯控訴した。

【裁判所の判断】

Y社の控訴に基づき、原判決中Y社敗訴部分を取り消す。

上記取消部分に係るXの請求を棄却する。

Xの附帯控訴を棄却する。

【判例のポイント】

1 ・・・以上の事実経過によれば、Xは、上司の度重なる指導にもかかわらずその勤務姿勢は改善されず、かえって、Xの起こした過誤、事務遅滞のため、上司や他の職員のサポートが必要となり、Y社全体の事務に相当の支障を及ぼす結果となっていたことは否定できないところである
そして、Y社は、本件解雇に至るまで、Xに繰り返し必要な指導をし、また、配置換えを行うなど、Xの解雇を継続させるための努力も尽くしたものとみることができ、Y社が15名ほどの職員しか有しない小規模事業所であり、そのなかで公法人として期待された役割を果たす必要があることに照らすと、Y社がXに対して本件解雇通知書を交付した平成24年3月30日の時点において、Xは、Y社の従業員として必要な資質・能力を欠く状態であり、その改善の見込みも極めて乏しく、Y社が引き続きXを雇用することが困難な状況に至っていたといわざるを得ないから、Xについては、Y社の就業規則25条7号所定の「その他やむを得ない事由があるとき」に該当する事由があると認められる。
そうすると、本件解雇は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められるから、有効であるというべきである。

2 Xは、本件解雇に至るまでY社から懲戒処分を受けたことはなく、このことは、XにはY社の主張するような重大な過誤や事務遅滞はなかったことを示すものであると主張する。
しかし、XがY社から度重なる指導を受けていたことは前記認定のとおりであり、しかも、Xは2回にわたって降格・降級を受けているのであるから、本件解雇に至るまでにY社がXに対して懲戒処分をしたことがないからといって、Xに重大な過誤や事務遅滞がなかったということはできず、Xの上記主張は採用することができない

一審判決も読んでみましたが、もはや現実的には解雇を有効にすることができないのではないかと思ってしまうほどのハードルの高さです。

一般的には、能力不足を理由とする解雇は難しいわけですが、さすがにハードルが高すぎるのでは、と思ってしまいます。

一方、高裁の判断は、一審判決に比べると会社における支障を十分に判断してくれており、納得できるものです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。