おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。
今日は、賃金の支払場所は労働者の労務提供場所であるとして、移送の申立てを認容した裁判例を見てみましょう。
コンチネンタル・オートモーティブ事件(広島高裁平成27年3月17日・労経速2249号9頁)
【事案の概要】
本件は、XがY社を債務者として広島地方裁判所に申し立てた基本事件(地位保全及び賃金仮払い仮処分命令申立事件)について、Y社が、基本事件の「本案の管轄裁判所」(民事保全法12条1項)は、広島地方裁判所ではなく横浜地方裁判所であると主張して、同裁判所への移送の申立てをしたところ、原決定は、これを認め、基本事件を横浜地方裁判所に移送する旨の決定をしたことから、Xが本件抗告をした事案である。
【裁判所の判断】
抗告棄却
【判例のポイント】
1 賃金を労働者の預貯金口座に振り込む方法により支払うことは、賃金の通貨払いの原則に反するものであるが、労働者がこれに同意するときは、その例外として許容されていることから(労働基準法24条1項ただし書)、前記のXとY社との振込みに関する合意は、上記通貨払いの原則の例外として認められるためにされたものと解される。このように、上記の合意は、特段の事情がない限り、賃金の支払方法についての合意にすぎず、その支払場所(義務履行地)に関する合意を含むものではないと解するのが相当である。本件において、上記特段の事情の主張及び立証はない。
2 賃金の支払場所は、もともと、労働者が労務を提供する場所であるとするのが、その合理的意思に沿うものであると認められることからすると、たとえ、賃金を労働者の預貯金等の口座に振り込む方法が一般的になっていても、労働者の住所地を賃金の支払場所とは考えないのが通常であると解されること、したがって、賃金の支払が預貯金口座に振り込む方法であったとしても、賃金の支払場所は、労働者の労務提供場所とするのが、使用者及び労働者の合理的意思に合致すると解される。仮に、賃金の支払場所につき上記の合意が存在したとは認められないとしても、以上説示したところによれば、民法484条又は商法516条1項の規定を適用する前提を欠くというべきであり、労働者の住所を支払場所とするのは相当ではない。
3 本件においては、Xは、かつてはY社広島事務所において勤務していたが、平成26年1月1日以降Y社本社において勤務していたのであるから、賃金の支払場所は、Y社本社であると認められる。少なくとも、本件支店又はXの住所が賃金の支払場所であると認めることはできない。したがって、賃金の義務履行地を管轄する裁判所は、広島地方裁判所ではなく、Y社本社の所在地を管轄する横浜地方裁判所である。
非常に参考になる判断です。
是非、残業代等の賃金請求事件で管轄が問題となった際には参考にしてください。
日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。