賃金99(国際自動車事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、賃金規定の有効性と未払賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

国際自動車事件(東京地裁平成27年1月28日・労判1114号35頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXらが、歩合級の計算に当たり残業手当等に相当する額を控除する旨を定めるY社の賃金規則上の規定は無効であり、Y社は、控除された残業手当等相当額の賃金支払義務を負うと主張して、Y社に対し、雇用契約に基づき、未払賃金及び遅延損害金の支払いを求めるとともに、付加金及び遅延損害金の支払いを求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社に対し、X1~X14の未払賃金合計約1500万円の支払いを命じる

付加金の支払は命じない

【判例のポイント】

1 被告賃金規則は、所定労働日と休日のそれぞれについて、揚高から一定の控除額を差し引いたものに歩合率を乗じ、これらを足しあわせたものを対象額Aとした上で、時間外等の労働に対し、これを基準として計算した額の割増金を支払うものとし、Y社は、Xらを含むそのタクシー乗務員に対し、かかる計算に則って算出された割増金を支給した。ところが、他方において、本件規定は、歩合給の計算に当たり、対象額Aから「割増金」及び「交通費」を差し引くものとし、上記支払うものと定められている割増金及び交通費に見合う額を控除するものとしている。

2 これらによれば、割増金と交通費の合計額が対象額Aを上回る場合を別として、揚高が同じである限り、時間外等の労働をしていた場合もしていなかった場合も乗務員に支払われる賃金は全く同じになるのであるから、本件規定は、法37条は、強行法規であると解され、これに反する合意は当然に無効となる上、同条の規定に違反した者には、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金という刑事罰が科せられる(同法119条1号)ことからすれば、本件規定のうち、歩合級の計算に当たり対象額Aから割増金に見合う額を控除している部分は、法37条の趣旨に反し、ひいては公序良俗に反するものとして、民法90条により無効であるというべきである
なお、本件規定が対象額Aから控除するものとしている「割増金」の中には、法定外休日労働に係る公出手当が含まれており、また、所定労働時間を超過するものの、法所定の労働時間の制限を超過しない、いわゆる法内残業に係る残業手当が含まれている可能性もあるが、本件規定は、これらを他と区別せず一律に控除の対象としているから、これらを含めた割増金に見合う額の控除を規定する「割増金」の控除部分全体が無効になるものと解するのが相当である。

3 本件は、Y社において長年にわたり採用され、多数派組合との労使協定においても維持され、その後も長く問題視されることのなかった賃金計算の仕組みについて、その有効性が争点となった事案であるということができる。また、本件規定は公序良俗に反するというべきものではあるが、本件規定が公序良俗に反する無効なものであることが一見して明白であるとまでいうことはできない。そうすると、Y社において、本件規定が有効であると主張してXらの請求を争うことにも相応の合理性があったというべきである。
したがって、Y社は、賃金の存否に係る事項について、合理的な理由により裁判所において争っているものと認めるのが相当であるから、Y社を退職したXらとの関係においても、賃確法6条1項は適用されず、未払賃金に対する遅延損害金の利率は、商事法定利率である年6分になるというべきである。

非常に重要な判断が複数含まれている裁判例です。

タクシー業界に与える影響は少なくないと思います。

是非、全文読まれることをおすすめします。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。