解雇182(アールインベストメントアンドデザイン事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、解雇制限に関連する裁判例を見てみましょう。

アールインベストメントアンドデザイン事件(東京高裁平成22年9月16日・判タ1347号153頁)

【事案の概要】

甲事件は、Y社の従業員であるXが、Y社による解雇が無効であると主張し、Y社に対し、①雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と②平成20年6月から毎月末日限り賃金30万円の支払を求めた事案である。

乙事件は、Y社の代表取締役であるAが、Xらによる街宣活動の際、プライバシーと肖像権を侵害されたと主張し、Xらに対 し、不法行為に基づく損害賠償請求権として、連帯して、慰謝料300万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。

原審は、甲事件について、Xの請求のうち、本判決確定日の翌日以 降の賃金の支払を求める部分の請求にかかる訴えを却下し、その余の請求をいずれも棄却し、乙事件について、Aの請求を、Xらに対し、 連帯して、慰謝料70万円及び遅延損害金の支払を求める限度で認 容し、その余の請求をいずれも棄却した。

【裁判所の判断】

Xらは、Aに対し、連帯して30万円及び遅延損害金を支払え。

XのY社に対する控訴を棄却する。

【判例のポイント】

1 労働基準法18条の2(現労働契約法16条)は、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする。」と規定し、他方、同法19 条1項は、「労働者が業務上の疾病の場合の療養を安心してなし得るよ うに解雇制限を行ない、但書で例外として、使用者が、同法81条の規定による打切補償を支払う場合にこの限りではない」と規定している。 これらの規定によれば、労働基準法19条1項が業務上の疾病によって療養している者の解雇を制限している趣旨は、労務提供の対価としてその報酬を支払うという労働契約の性質上、一般に労働者の労務提供の 不能や労働能力の喪失が認められる場合には、解雇に合理的な理由が認められ、特段の事情がない限り社会通念上も相当と認められるというべきところ、業務上の疾病による労務不提供は自己の責めに帰すべき事由による債務不履行とはいえないことから、労働者が労働災害補償としての療養のための休業を安心して行えるよう配慮して、例外として解雇を制限したところにあるというべきである。
そして、同項但書は、さらにその例外として、労働基準法81条に定める打切補償を支払う場合(労働者が療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病がなおらない場合において、使用者が平均賃金の1200日分の打ち切り補償を行った場合)には、労働基準法19条1項本文の解雇制限に服することなく労働者を解雇することができると定めているものである。
この打切補償とは、業務上の負傷または疾病に対する事業主の補償義務を永久的なものとせず、 療養開始後3年を経過したときに相当額の補償を行うことにより、その後の事業主の補償責任を免責させようとするものであり、上記のような労働基準法各条の解釈に照らすと、打切補償の要件を満たした場合には、雇用者側が労働者を打切補償により解雇することを意図し、業務上の疾病の回復のための配慮を全く欠いていたというような、打切補償制度の濫用ともいうべき特段の事情が認められない限りは、解雇は合理的理由があり社会通念上も相当と認められることになるというべきである

2  確かに、証拠及び弁論の全趣旨によれば、Xが本件打切補償による解雇の理由とされた業務上の疾病に罹患するに至った原因は、Xが、Y社の親会社である株式会社Cにおいて過重な労働を行っていたことに あると認められるが、その労働の実態は、他の社員とともに会社の当面の業務課題について、プロジェクトチームを作って集中的に仕事を行うというもので、株式会社Cが意図的にXに対して過重な労働を強要したとまで認めることはできない。
そして、株式会社C及びY社は、Xが自宅療養に入って以降、平成17年1月まで1年7か月余りにわたって、Xの自宅での療養を静観し、休業補償として給料の6割を支給していたものであり、この時点までの経緯をみる限りでは、Y社において、Xを打切補償により解雇することを意図していたようなことは窺えないし、また、 業務上の疾病の回復のための配慮を欠いていたというような事情も認められないものである

解雇制限と打切補償の争点については、先日、学校法人専修大学事件で最高裁判決が出ました。

今回のこの裁判例のうち、「打切補償の要件を満たした場合には、雇用者側が労働者を打切補償により解雇することを意図し、業務上の疾病の回復のための配慮を全く欠いていたというような、打切補償制度の濫用ともいうべき特段の事情が認められない限りは、解雇は合理的理由があり社会通念上も相当と認められることになるというべきである」との規範は、非常に重要ですね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。