おはようございます。
今日は、バス運転士2名に対する複数の懲戒処分に関する裁判例を見てみましょう。
WILLER EXPRESS西日本事件(大阪地裁平成26年10月10日・労判1111号17頁)
【事案の概要】
本件は、バス運転士としてY社に勤務していたXらが、Y社に対し、Y社がXらに行った車庫待機の処分並びに出勤停止及び懲戒解雇の各懲戒処分がいずれも無効であると主張して、労働契約上の地位確認、賃金及び不法行為に基づく損害賠償の支払いを求める事案である。
【裁判所の判断】
いずれの懲戒処分も違法無効
【判例のポイント】
1 本件第1次処分のうち「自宅謹慎」は、その間、無給であったこと、「車庫待機」は、その間、基本給のみが支給され、歩合給である諸手当は支給されなかったことが認められる。そうすると、このように賃金の全部又は一部の不支給を伴う処分は、労働者に対する不利益処分にあたるから、使用者は、業務命令として行うことはできず、懲戒処分として行わなければならない。
Y社は、Xらに対し、平成20年6月10日の乗務の後、直ちに就業規則63条に基づき勤務待機(ただし、勤務したものとして取り扱われる。)を命じた上、賞罰委員会における審査を経て、懲戒処分を行うことが可能であったにもかかわらず、これを行わなかったにすぎない。
したがって、本件第1次処分は、違法な不利益処分といわなければならない。
2 使用者が、被用者に対し、企業秩序違反行為を理由として違法な不利益処分を行った後に、改めて有効な懲戒処分を行うことができるかどうかが問題となる。使用者の懲戒権の行使は、企業秩序維持の観点から労働契約関係に基づく使用者の機能として行われるものであるが、制裁罰にほかならないから、同一の行為について重ねて懲戒権を行使することは、その権利を濫用したものとして無効とされる。そして、この理は、企業秩序違反行為についてなされた先行する不利益処分が有効な懲戒処分であるか否かに関わらないというべきであるから、使用者が、企業秩序違反行為を行った被用者に対し、違法な不利益処分を行った場合、当然に懲戒処分をやり直すことができるというわけではない。このような場合、使用者は、被用者に対し、先行する不利益処分を撤回するとともに、当該処分によって被った不利益をてん補した後でなければ、改めて懲戒権を行使することはできないと解される。しかも、当該企業秩序違反行為から期間が経過するにつれて、企業秩序維持の観点から懲戒権を行使する必要性が低減していくことも考慮しなければならない。
3 Xらは、平成20年6月10日、乗務の数時間前に飲酒を行うという運転手としてあるまじき行為を行ったものであり、懲戒解雇処分を受けてもやむを得ない立場にあったものであるが、そうであるからといって、違法な本件各処分を受けなければならない理由はない。そして、Xらは、Y社から多数回かつ長期間にわたる違法な本件各処分を受けたことにより、労働契約上の地位確認や賃金の支払を受けただけではてん補され得ない精神的苦痛が生じたと認められ、これを慰謝するには、Xらそれぞれについて50万円をもって相当とする。
懲戒処分に関する非常に重要な裁判例です。
是非、参考にしてください。
解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。