賃金95(ワークスアプリケーションズ事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、うつ病による休職期間満了後の退職扱いの有効性と未払賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

ワークスアプリケーションズ事件(東京地裁平成26年8月20日・労判1111号84頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と労働契約を締結した労働者で、平成24年12月7日をもって休職期間満了により退職とされたXが、使用者であるY社に対し、休職前である24年5月1日から同年10月10日までの時間外労働手当およびこれに対する遅延損害金の支払い、その付加金および遅延損害金の支払い、休職期間満了日までにXは就労が可能となり復職要件を満たしていたのにY社から就労を拒絶されたため就労できなかったとして、同日からの賃金およびこれに対する遅延損害金の支払いを求めた事案である。

Xは、上記の請求と合わせて、労働契約上の権利を有する地位の確認も求めていたところ、同請求については、Y社がこれを認諾して終局した。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し102万9670円+遅延損害金、同額の付加金+遅延損害金を支払え

Y社はXに対し、179万4877円+遅延損害金を支払え

Y社はXに対し、平成25年4月から同年9月まで39万2858円、同年10月限り、28万5715円、平成25年6月限り39万2858円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 労働時間を算定しがたいか否かは、その業務の性質、内容等、及び、使用者と労働者との間の当該業務に関する指示及び報告の方法等から、当該業務について使用者が労働者の勤務の状況を具体的に把握することが困難であったといえるかどうかによって判断すべきである。労務管理を行うべき者が多忙であるため労働時間を算定しがたいことは、労働者の業務の性質、内容等や、使用者と労働者との間の業務に関する指示及び報告の方法等による制約とはいえないから、当該業務について使用者が労働者の勤務の状況を具体的に把握することが困難であったといえないというべきであり、Y社の主張は採用できない

2 営業手当が50時間分の時間外労働手当の支払といえるには、時間外労働手当に当たる部分とそれ以外の部分が明確に区分されて合意がされていることを前提として、少なくとも、営業手当の額が、労基法所定の計算方法によって計算した50時間分の時間外労働手当の額を下回らないことが必要である。なぜならば、時間外労働手当に当たる部分とそれ以外の部分が明確に区分されていなければ、労基法所定の計算方法による時間外労働手当の額を計算することができないし、計算した結果、労基法所定の計算方法による時間外労働手当の額を下回っているようでは、時間外労働手当によって時間外労働を抑制しようとした労基法の趣旨を没却するのみならず、労基法に定める基準に達しない労働条件を定めたこととなり、無効となるからである

3 労働者が債務の本旨にしたがった履行の提供をしているにもかかわらず、使用者の復職可能との判断や、使用者の指定した医師による通常勤務に耐えられる旨の診断書が得られないことによって、労働者が、就労を拒絶されたり、退職とされたりするいわれはないから、「傷病が治癒し且つ通常勤務に耐えられる旨の会社が指定した医師の作成した証明書の提出を求め、復職できると会社が認めたとき」とは、傷病についての医師の診断書等によって労働者が債務の本旨にしたがった履行の提供ができると認められる場合をいい、Y社の復職可能との判断やY社指定の医師の復職可能との診断書等は要しないというべきである

4 ・・・他方、労働契約においては、当事者は、信義に従い誠実に権利を行使し、義務を履行しなければならないのであるから(労働契約法3条4項)、使用者の労務の受領拒絶により就労が不能となった後、使用者が受領拒絶をやめ、就労を命じた場合においては、労働者も自己の就労が再び可能となるよう努力すべき信義則上の義務があるというべきである。したがって、Y社が10月16日付け復職通知により、Xのために東京都内の住居を用意し、住居費用及び通勤費用の立替払を申し出て、Xが就労するために必要な準備を行う姿勢を示したことに対し、Xは、Y社が用意した前記住居に居住する義務はないものの、信義則上、Xの就労を可能とするためにY社との協議に応じる義務があったというべきである。しかし、Xは、10月16日付け復職通知を受けた後、何らY社と協議をすることなく相当期間である同月23日が経過した。そうすると、翌24日以降においては、もはや「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったとき」(民法536条2項)とはいえないと認められるから、平成25年10月24日からの賃金請求は理由がないというべきである

5 Xは、Y社には本件退職扱い後の未払賃金の支払を履行する必要があり、その履行義務を争いつつ、本件退職扱いを撤回しても無効である旨主張するが、過去の賃金支払義務と現在の就労義務は別の法律関係であり、前者を争いつつ、後者の履行を求めることができないとする理由はないから、Xの主張は採用できない。

6 Xは、「受領拒絶の解消には、債権者が先に拒絶した履行の提供において、遅滞中の一切の効果を承認して、受領拒絶を解消して改めて受領すべき意思を表示することが必要と解されているところ、受領拒絶の効果として生じた過去の賃金の発生を認めてその履行をしなければ、受領拒絶を解消したとはいえない。」旨主張する。しかし、労働者が就労しないのに賃金請求権を失わないのは、いわゆる受領拒絶の効果ではなく、民法536条2項の効果による。したがって、就労がないとき賃金請求権が発生するかは同項の要件を満たすか否かにより決すべきであり、受領拒絶の効果を解消することは、必ずしも必要ではないというべきである(なお、受領拒絶の効果を解消するため、どのような行動が必要かは当該事案の具体的事情によるというべきであり、一義的に決められるものではない。)

超重要な裁判例です。

複数の重要論点に関する判断が含まれています。

是非、参考にしてください。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。